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日本人のメンタリティーは、封建時代の世から目覚めたばかりの1867年の明治維新当時と未だに変わっていない。
欧米近代国家を「一筋の坂の上の雲」になぞらえ、憧憬をもって追い求めた、司馬遼太郎の『坂の上の雲』、そのままである。
明治初期、日本以外の国々は次々と植民地化されていくなか、日本もその危険性はあったが、植民地化されなかった。
それは当時の日本には、寺子屋や藩校といった教育システム、飛脚などの郵便制度があり、加えて、伝統文化においても当時の先進諸国のどこにも負けない独自の「日本力」があったからだ。
唯一劣っていたのは、産業技術力、その象徴が黒船と大砲だった。 |
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そこで日本は必死に殖産興業、富国強兵に力をそそぎ、1905(明治38)年、日露戦争に勝利する。海軍力も1930(大正10)年のロンドン海軍軍縮会議で、ついにアメリカ、イギリス、フランス、イタリアという世界の列強と肩を並べるに至った。
しかし、第二次世界大戦で日本の経済は灰燼に帰した。ちょうど『坂の上の雲』の連載が始まった1968(昭和43)年は、明治100年に当り、日本は国民総生産(GNP)世界第2位となった。
この時期、世界は変革期を迎え、エネルギーは、石炭から石油に代わり、それまでのやり方は通用しなくなった。さらに環境面では、深刻な公害問題にも直面した。しかし、日本はこの二つの問題をも見事に克服していった。
私の調べたところによれば、1990年代に、4000台の排煙脱硫装置が世界全体で稼動していた。しかし、そのうちの3200台は日本で稼動していたのだ。
狭い国土に多くの人口を抱えた日本でありながら、世界の先進国的な課題を克服し、新しい国をつくり上げたのである。
あらゆる面で先進国となった日本だが、メンタリティーだけが、先進国になっていない。相変わらず白い雲を欧米に求めている。これからは欧米追従をやめ、「自分たちの生活を良くすることが、新産業の創造に繋がる」と考えるべきなのだ。
そこで、私は日本を「課題先進国」と呼び、今こそ世界に先駆けて課題に取組み、その解決策を提示することで、リーダーシップを取ろうと呼びかけているのだ。 |
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課題を大別すると、一つは「エコロジー」である。地球が小さくなり、エネルギーを湯水のように使う産業構造や生活スタイルは、もう成り立たなくなってしまった。もう一つは「高齢化問題」である。
日本は2006年、すでに人口がピークアウトした。中国も2025年から30年に、インドは2040年から50年にピークアウトを迎える。すなわち、21世紀の半ばを待たずして、人類は高齢化を迎える。
そこで有限な地球と高齢化という、人類の二大パラダイムに対する答えを出さなければならない。
20世紀は予測の時代だった。地球は無限で、人間は欲望のままに活動した。そうした結果の予測は、ある程度可能だったのである。しかし、そんな時代は終わった。
私は「21世紀は意志の時代」だと考える。人間の力が地球に対して巨大化したからだ。鳩山新政権が掲げたCO2の25%削減に対して「できるのですか?」ではなく「する!」という決意で取組み、誰がこの大きな変化に対してイニシアティブをとるかと考えるべきなのである。 |
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25%削減に対しては、様々な意見があるが、私は楽観的な見通しをもっている。というのは、日本のエネルギー消費の45%は「ものづくり」に関するもので、ここでの削減は、すでに進んでいるので難しい。しかし、残りの55%は日々のくらしの中での消費で、家庭とオフィス合わせて30%、残る22〜23%が業務用を含めた輸送におけるCO2となる。これらをどう減らすかに成否がかかってくる。
このデイリーライフでCO2を削減する方法を世界のどこの国も未だに手にしていない。それを日本が先導していくべきなのだ。
様々な分野でグローバルに事業を展開している三菱グループで社員がCO2削減にあたり、会社が支援することを提案したい。その運動は日々のくらしでの削減の嚆矢(こうし)となり、世界をリードするに違いない。 |
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次に高齢化問題に関してだが、最近、高齢化のネガティブな面ばかりが強調されているような印象を受ける。日本では第一線を退いた多くの高齢者が元気で生活しているのである。
現在、三菱だけでなく多くの企業で技術の継承が課題となっているが、技能を有し経験豊富な高齢者に職業を通じていかに社会参画してもらうかが、その解決の糸口になるはずだ。
あるいは、昨今、科学技術創造立国の実現に関連して指摘される「理科教育の再生」にも、退職した理科系人材を教師として再雇用することも考えられる。海外で生きた英語を学んできた者、技術者として現場の第一線で研究してきた人材などを全国3万8千の小中学校に各3名ずつ入れれば、これだけで10万人の雇用が創出されるわけだ。 |
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三菱グループというのは、自律分散協調系企業の集りだと思っている。それぞれの企業は制度で縛られるのではなく、それぞれの特徴を活かして自律し、分散的に活動するが、必要に応じてグループとしては協調する、そういったしなやかな組織になるべきだ。
いま重要なエネルギーと地球の問題。これは21世紀の課題であるが、22世紀には、解決されているだろう。
実質的に無尽蔵なエネルギー源として、「太陽」「深層地熱」などがある。これらを効率的に利用する方法を手に入れれば、地球温暖化とエネルギー問題は克服できる。
つまり、今後未来永劫エネルギー消費削減をしていくのではなく、太陽光エネルギーを使った電気自動車が走り、高速飛行機が空を飛ぶような時代が来ても良い。その意味で、21世紀は大切なターニングポイントとなるだろう。
三菱グループが、そのユニークな自律分散協調系という強みを生かし、これらの課題に果敢にチャレンジし続けることを期待したい。 |
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