三菱広報委員会

協力/三菱史料館

    三菱プレシジョンには、センサのエキスパートと呼ばれる人物がいる。安井訓だ。入社は1979年。鎌倉工場(現・鎌倉事業所)の精密機器課に配属され、ジャイロの設計に携わる。
「ジャイロとは角速度を測定し、回転や向きの変化を検知するセンサ。例えば、飛行機や人工衛星など、空間を浮遊する物体の姿勢を検出するために使われる装置のこと」
   81年には、自衛隊が使用する防衛機器用のセンサの設計に参画する。
「それまでのセンサでは、走行中の姿勢や方位が検出できればよかった。しかし、防衛用となれば、姿勢や方位だけでなく、速度や位置まで検出する必要がある。現在どの位置にいて、どれぐらいの速度で走っているかが分からないと、防衛機器として迎撃のしようがない。要は、そうした機能を持つ慣性航法装置を開発しなくてはならなかった」
   安井は何度もプログラムを書き換える。だが、うまくいかない。ネックは2カ所。ひとつは、方位角を測定するのに、磁石が使えないこと。装置が搭載される車両は磁場に影響を与える鋼鉄でできているからだ。しかし、この難問は、地球の自転角速度から計算することで、クリア。もうひとつが、加速度計からの誤差をゼロにしないと、位置の精度が定まらないことだ。
「その誤差をゼロにするのが、カルマンフィルターと呼ばれるソフトウエア。残念ながら、そのソフトに関する知識は、全くなかった」


慣性航法装置の設計に携わっていた当時。
組合活動での一コマ

手書きの方程式を持ち帰り

   安井は合弁の相手先である米国Kearfott社に出向き、慣性航法装置に関する講義を受ける。ただ、肝心のカルマンフィルターに関して技術的な質問をするも…。
「『カルマンフィルター・イズ・マジック』という回答しか得られない。ただ、カルマンフィルターの設計者からカルマンフィルターの概念を示す状態方程式の説明をしてもらうことになった。彼が別件で呼び出されたため、講義は中断したが、途中まで書き残された方程式を帰国後、徹底的に解読、分析した」
   それから5年間、安井は開発・試作を繰り返し、ようやく86年に初号機となる慣性航法装置を完成させる。が、まだ終わらない。実際に搭載し、走行する試験が必要だった。
「社の車の荷台に発電機、計測用機材などを載せ、試験を実施。私も荷台に乗り込む。雨の日も雪の日も繰り返す。また、納期が逼迫(ひっぱく)していたため、夜を徹して行った」
   こうして量産化のメドも立ち、87年に自衛隊の防衛機器として搭載された。安井が開発した慣性航法装置は、その後の同社の無人ヘリコプターなどの慣性装置に生かされることになる。その技術は今も、脈々と引き継がれている。(敬称略)