2006年9月、三菱電機はJRA東京競馬場に『オーロラビジョンLED』を納入しました。ギネス世界記録に認定された大きさもさることながら、日中、屋外という過酷な環境を克服し、見る者が息をのむ鮮やかさ、美しさを極めた高画質は驚きの一語に尽きます。この大型映像スクリーンの開発には、一般のテレビとは異なる技術が求められたそうです。
66・4mもの横長大画面を馬が疾走していきます。こんなに大きい画面ですから、どこかに継ぎ目があるに違いないのですが、どんなに目を凝らしても、馬の映像に不自然、不連続はまったく見当たりません。「多くの情報を分かりやすく表示したいというお客さまのご要望に応えるだけでなく、世界最高水準の画質にもこだわり続けた成果です。たとえば、テレビをそのまま拡大したら、映像の揺れ、ブレも大きくなりとても見られたものではありませんよ」と言うのは社会環境事業部の渡辺栄一(わたなべ・えいいち)さん。
スクリーンサイズは縦11.2m×横66.4m、あえていうなら2651型(インチ)。テニスコートなら何と3面分!
画面を大きくするには、ちらつきのない信号処理をするのはもちろんのこと、ほかにも難しい問題があります。高さは5階建て、横幅70mもあり、まるでビルと同じです。
「ビルの建設での誤差は数cmになりますが、映像装置ではmm単位の精度が要求されます。1cmも隙間ができてしまったら、映像に線が出てしまいます。ビル並みの映像装置を数mmの誤差で製造することで、継ぎ目の無い映像を実現できるんです」と言うのは映像情報システム部の芳賀昭弘(はが・あきひろ)さん。
社会環境事業部 
施設環境部
映像・情報システム
統括担当部長
渡辺栄一さん
映像情報システム部
映像計画課
(ビジネス開拓チーム)
専任
芳賀昭弘さん
また、1980年のオーロラビジョン1号機の誕生当時から開発に携わってきた映像情報システム部、SE統轄リーダの寺崎信夫(てらざき・のぶお)さんは指摘します。「屋外では雨風や高温・低温、海が近ければ塩害にもさらされます。こうした環境に対抗する設計思想は、一般の家電の領域にはありません」では、こうした設計思想を開発チームはどこで身につけたのでしょう。答えは長崎にありました。『オーロラビジョン』の開発にあたった三菱電機・長崎製作所は高度経済成長期、船舶の電装品で伸びました。それが1978年、第2次オイルショックで突然の受注ゼロに。新規事業を開拓する必要に迫られ、大型映像スクリーンの開発が始まったのです。「船舶の電装品は常に潮風にさらされ、北氷洋ではマイナス40度。熱帯の甲板上は80度にも達します。こうした過酷な環境にも耐える機器を設計してきた経験が、役立ったのです」

苦心の末に完成した1号機は1980年、ロサンゼルスのドジャースタジアムに納入され、表示装置を用いて選手や観客を盛り上げる華やかな演出を創造したことで、観客動員数は激増。チームのモチベーションも高まり、翌年にはワールドシリーズ優勝に大きく貢献しました。以後『オーロラビジョン(海外商品名:ダイヤモンドビジョン)』を導入したチームは続々と優勝。"勝利を呼ぶスクリーン"として国内外で人気を博し、今では多くの競技場、アリーナやビルボードなどにも導入され、なくてはならない社会的インフラに成長しました。寺崎さんは、「競馬場への導入に際しては、場外運営によるビジネス拡大やスター選手のクローズアップによって、若い女性を筆頭に新しい観客の開拓に貢献できたと思います。大型映像の集客力は必ずビジネスの役に立ちます」と信念を語ってくれました。背水の陣で開発の始まった大型映像スクリーンは今、大輪の花となって咲き誇り、三菱電機のシンボル的製品に育ちました。
 
映像情報システム部
映像計画課
(ビジネス開拓チーム)
SE統轄リーダ
寺崎信夫さん
ギネス世界記録認定証を手に持つ下村節宏社長
東京競馬場でのオーロラビジョンの設置風景
太陽光の強さに勝てる発光素子はないので、直射を防ぐシェダー(ひさし)は屋外型スクリーンには不可欠。ところが、他社シェダーだと特定の発光素子ばかり視界から隠れてしまい、全体の色彩が崩れるが、オーロラビジョンではどの発光素子も均等に隠れるので、色彩は崩れない


●プロフィール
一押し太郎(いちおし・たろう)1981年3月3日生まれ。うお座。『マンスリーみつびし』新米記者。
2005年4月号から「わが社の一押し」を担当。まだまだ未熟でドジな面もあるが好奇心とヤル気だけは旺盛。ただ今、恋人募集中。
長寿命で明るい発光ダイオードが登場した今では、発光素子が小さくなって太陽光を遮るシェダー(ひさし)も短くなり、これまた映像クオリティーの向上に役立ちました(上図参照)。でも、それ以前は大ぶりな単色ブラウン管を使っていたため、長いシェダーをどれだけ切り詰められるか割り出すため、設置場所と客席との距離や角度を基に、一基一基微妙な計算を繰り返してきたそうです。ところで、海外の競馬場では(客席と向かい合わせる都合上)なぜか『オーロラビジョン』は、西日の直射を受ける位置に設置しなければならないケースが多かったそうです。さぞや計算が大変だったことでしょう!
単なる映像スクリーンにとどまらず、新たな文化を創造し続ける三菱電機マン。次は、どんな世界記録を樹立するのでしょうか…