見渡す限りの緑の牧場に、ぽつんと桜の木がある。はるかに岩手山。来年のNHKの朝の連続ドラマは盛岡が舞台で、どうやらこの「小岩井農場の一本桜」が繰り返し使われるらしい。カメラマンが四季折々の映像を撮りだめしている。
大らかな自然。訪れて誰もがほっとする小岩井農場。だが、その過去は人間と自然の熾烈(しれつ)な戦いだった。明治32年に未完成の農場を引き継いだのは岩崎久彌。三菱の三代目総帥だが、農業や牧畜を趣味とし小岩井をこよなく愛した人だった。その久彌を慕い、理想に燃えて小岩井に多くの人が入植した。彼らは風雪に耐え、苦難を乗り越え、宮澤賢治が「たのしい太陽系の春だ…」と歌う農場を築き上げた。100年を経て、スギ、アカマツ、カラマツなどが豊かな緑の森を造る。牛がのんびり草を食み、羊が群れ、鶏舎では6万羽の鶏が健康に育つ。
かつて農場長も経験した畠山章一さん。背筋をびゅんと伸ばした88歳。盛岡に健在だ。小岩井育ち。昭和18年に北大の獣医を出た。「将来はオーストラリアに行ってサラブレッドを育てるのが夢でしたが、戦後GHQにより馬の飼育を禁止されてしまいました。やむなく牛に転向し、以後昼夜を分かたず牛に尽くしました。小岩井の牛はみんなわが子わが孫です…」。畠山さんの父も妹の義父も農場の人。姪は農場の獣医と結婚、さらにその娘は今農場の事務所で働いている。 |
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