image 三菱史紀行シリーズ
行ってみよう、見てみよう。
vol.05 岩手県・雫石


小岩井農場のさわやかな風に吹かれて

見渡す限りの緑の牧場に、ぽつんと桜の木がある。はるかに岩手山。来年のNHKの朝の連続ドラマは盛岡が舞台で、どうやらこの「小岩井農場の一本桜」が繰り返し使われるらしい。カメラマンが四季折々の映像を撮りだめしている。

大らかな自然。訪れて誰もがほっとする小岩井農場。だが、その過去は人間と自然の熾烈(しれつ)な戦いだった。明治32年に未完成の農場を引き継いだのは岩崎久彌。三菱の三代目総帥だが、農業や牧畜を趣味とし小岩井をこよなく愛した人だった。その久彌を慕い、理想に燃えて小岩井に多くの人が入植した。彼らは風雪に耐え、苦難を乗り越え、宮澤賢治が「たのしい太陽系の春だ…」と歌う農場を築き上げた。100年を経て、スギ、アカマツ、カラマツなどが豊かな緑の森を造る。牛がのんびり草を食み、羊が群れ、鶏舎では6万羽の鶏が健康に育つ。

かつて農場長も経験した畠山章一さん。背筋をびゅんと伸ばした88歳。盛岡に健在だ。小岩井育ち。昭和18年に北大の獣医を出た。「将来はオーストラリアに行ってサラブレッドを育てるのが夢でしたが、戦後GHQにより馬の飼育を禁止されてしまいました。やむなく牛に転向し、以後昼夜を分かたず牛に尽くしました。小岩井の牛はみんなわが子わが孫です…」。畠山さんの父も妹の義父も農場の人。姪は農場の獣医と結婚、さらにその娘は今農場の事務所で働いている。
小岩井カマンベールチーズ・小岩井農場ナチュラルチーズ・小岩井農場6Pチーズ・小岩井農場6Pチーズ
小岩井カマンベールチーズ(生タイプ)1,050円、小岩井農場ナチュラルチーズ ゴーダタイプ840円。小岩井農場6Pチーズ(プレーン)500円、小岩井農場6Pチーズ(カマンベールブレンド)500 円( すべて税込み・送料別)。
詳細はhttps://www.koiwai.co.jp/shohin/
小岩井農場
小岩井農場 
岩手県岩手郡雫石町丸谷地36-1 TEL:019-692-4321
映画『壬生義士伝』で一躍有名になった一本桜。背後には悠々たる岩手山が
地図

[小岩井農場への
アクセス]
東北新幹線 東京駅→盛岡駅(最速で約2時間20分)。JR盛岡駅前10番乗場より「小岩井農場まきば園行き」または「網張温泉行き」バス乗車(約35分)。東北自動車道・浦和IC−盛岡IC(約7時間)、盛岡ICより国道46号を秋田方面へ約15分

登録有形文化財の農場本部
上・登録有形文化財の農場本部
宮沢賢治が詩の中で「本部の気取った建物」と歌った

右・上丸牛舎付近にある、100年の歴史を持つ日本最古のレンガサイロ
日本最古のレンガサイロ
牧歌的な風景を生み出すまきば園
小岩井農場で一般に開放されているのが「まきば園」。牧歌的な小岩井のイメージを形作っている。子どもたちは草の上を走り、土にまみれる。牧羊犬が羊を追いかけるショーを家族で楽しみ、バーべキューを腹いっぱいに食べる。そのあと、牛乳やバターの工場に足を延ばすのもいい。

宿はすぐ近くの玄武温泉の「ペンションショートホーン」にしよう。ご主人の山下良弘さんはもともと農林技官。全国を転々としたが、50過ぎて盛岡勤務になり、小岩井周辺の牧歌的な世界にほれ込んで退職金で玄武温泉にペンションを建てた。「なんと、小田原高校時代の同級生が小岩井農場の獣医になっていたんです。意気投合しましたねえ…」と、うれしそう。昼の疲れは露天風呂でとればいい。森の中からカモシカがのぞいていても気にしない、気にしない。湯は透明な源泉が空気に触れて褐色に変化した褐湯(あかゆ)だ。そのあとは、短角和牛(「赤べこ」)のしゃぶしゃぶに腹鼓(はらつづみ)を打つ。季節折々盛りだくさんの山菜は、山下さんが山から採ってきて庭に移植したもの。満足、満足。

玄武温泉のある山道は長山街道という。ところどころにしゃれた店がある。「松ぼっくり」は搾りたての牛乳で作るアイスクリームが人気。その隣のパン屋「プラス1」の、くるみレーズンはおみやげに、カレーパンはすぐ食べよう。岩手山麓、雫石。楽しみが尽きない。ただし体重増にご注意を!
日常の雑事から解放されて、たまにはまきば園(20ヘクタール)で、のんびりと牛や羊などと戯れてみては?
牛
羊
温泉ペンションショートホーン オーナーの山下夫妻
上・温泉ペンションショートホーンでは、オーナーの山下夫妻が温かく迎えてくれた

左・温泉ペンションショートホーン
岩手県岩手郡雫石町長山玄武温泉 
TE::019-693-2022
のんびり過ごす休暇に最適な隠れ家。夏のハイシーズンは混雑するので、ご予約はお早めに
関連三菱史 1890 日本鉄道(岩崎家は主要株主)上野・盛岡間開通 
1891 小野義眞、岩崎彌之助、井上勝により小岩井農場開設。防風林造成開始
1899 岩崎久彌小岩井農場を継承。牛乳市販開始
成田×雄太
取材旅行 道中記
プロフィール 成田誠一(なりた・せいいち)
(財)三菱経済研究所常務理事。専門は三菱史。これまで本誌に『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』などを連載。朝比奈雄太(あさひな・ゆうた)。フットワーク抜群のフリーランスカメラマン
100年の時を越え歴史を刻む小岩井
成田
小岩井の歴史は現在の東北本線とともにあるんだ。火山灰の不毛の大地だった。
雄太
ネーミングは最初のオーナーである小野義眞さん、岩崎彌之助さん、井上勝さんの頭文字をとったそうですね。
成田
そうだよ。土壌を変え、森を造り、100年たった。3,000ヘクタールというからざっと5×6km、東京ドーム650個分の広さだ。
雄太
まきば園の前から農場全体を案内するバスが出ま〜す。
成田
昔は農場の中に小学校もあったんだ。疎開していた岩崎家の子どもたちも通った。
雄太
農場全体が家族だったんですね。読者の皆さん、夏休みには、ぜひ小岩井へ。
成田×雄太
文・ 三菱史料館 成 田 誠 一