image 三菱史紀行シリーズ
行ってみよう、見てみよう。
vol.07 新潟県・出雲崎/柏崎


佐渡が影絵のようにゆれる夕景の憂い

「日本一夕日のきれいな海岸」といったら議論百出になるだろうが、出雲崎から柏崎にかけて、海の向こうに佐渡が影絵で見える夕景色はすばらしい。夕日が沈み、星が見え出す海岸は、昔も今も旅人をセンチメンタルにし、現実を忘れさせる。出雲崎は佐渡で採れた金を陸揚げする港だった。江戸時代は天領で、北前船も立ち寄り大いににぎわった。今では静かな港町だが、間口が狭く奥行きのある「妻入り」という家屋が海岸に軒を連ね、絶頂期の面影を残している。

明治の初め西欧が日本にもたらした石油ランプは、菜種油の行灯(あんどん)より10倍も明るかった。おかげで石油ブーム到来。越後は昔から「燃える水」が出た。特に出雲崎の南の尼瀬(あまぜ)海岸は砂を掘ると石油がにじみ出たので、一攫千金を夢見る男たちがラッシュした。明治21年に日本石油が発足、尼瀬海岸の浅瀬に埋め立て地を造り、米国製の機械で地下に200m掘り下げ大量採油に成功。のち、西山地区など陸上にも事業を拡大していったが、採油部門は昭和17年に国策会社・帝国石油に移管された。

出雲崎から田中角栄の故郷、西山を通って南に下れば柏崎だ。「柏崎に行ったって、な〜んもありません」。取材に行くので一緒に行かないかと声をかけた柏崎出身の友人は、そういって同行を断った。ふん。よほど暗い青春時代を送ったのだろう。不幸なやつめ。

天領時代の面影を残す出雲崎の町
天領時代の面影を残す出雲崎の町。海岸沿いに、間口が狭く奥行きのある“妻入り”(棟と直角の壁面に入口がある家)の家が連なる。軒と軒の間には一直線の細い路地
出雲崎の夕日
出雲崎の夕日 
良寛記念館の傍ら夕日の丘公園から望む日本海と佐渡は新潟県景勝100選第1位。出雲崎は良寛誕生の地でもある。
良寛記念館 TEL:0258-78-2370
地図 [アクセス]
上越新幹線・東京−長岡間約1時間40分。信越本線・長岡−柏崎間約40分。越後線・柏崎−出雲崎間約30分。関越自動車道・東京(練馬I.C.)−長岡I.C.間約2時間30分、国道8・長岡I.C.−柏崎間約40分、国道352・長岡I.C.−出雲崎間約30分
赤レンガ倉庫を柏崎のモニュメントに
柏崎では旧日本石油の赤レンガ倉庫の保存運動が起きている。明治の石油ブームの中で完成した柏崎製油所は当時日本最大の規模で、倉庫は42年に建てられた。「かつては5棟あったんですよ。これといった産業遺産がない柏崎にとって、この倉庫は記念碑的存在です」といって、工場跡地を預かる「管理事務所長」の村山さんは古い倉庫を見上げた。

柏崎には海がある。山がある。空がある、風がある、光がある。「ザ・ホテルシーポート」は海に突き出た丘の上。小ぢんまりとした、リラックスできるホテルだ。めいっぱいに日本海のパノラマビュー。南に能登半島が延び、北は遥かに佐渡が島。大浴場の露天風呂につかっていると、水平線のかなたに真っ赤な太陽がじりじりと沈んで行くところだった。呆然と見とれてしまったが、なんともいいがたい大きな気持ちになった。

そのあと、少々のぼせ気味ながら、ゆかた姿でレストランに上がって行った。温泉旅館スタイルだ。家族連れやグループが多い。注文したのは、もちろん柏崎ならではの鯛づくし、「鯛会席」。それに当然、新潟の酒。う〜ん、いいねえ。日本海と新潟の大地に乾杯だ。
新潟の稲穂 右・越の誉 大吟醸、左・すっきりした辛口 銀の翼
米どころ酒どころの新潟
緑にゆれる稲穂が美しい
創業192年柏崎の原酒造の酒 右・越の誉 大吟醸 720ml 4,200円、左・すっきりした辛口 銀の翼 720ml 945円(ともに税込み)
旧日本石油柏崎工場の赤レンガの倉庫
旧日本石油柏崎工場の赤レンガの倉庫 
赤れんが棟を愛する会では赤レンガ基金を募っている
TEL:090-4722-8935(連絡は18時以降)
ザ・ホテルシーポート レストラン海洋
柏崎の恋人岬 左上・ザ・ホテルシーポート 
米山大橋近くの日本海フィッシャーマンズケープにある静かなリゾートホテル。
柏崎市青海川133-1 
TEL:0257-23-6294

右上・レストラン海洋
(ザ・ホテル シーポート内)の鯛会席3300円(税込み)。日本海の新鮮な鯛に食通もうなる

左・柏崎の恋人岬 
棚にふたりで鍵をつけると結ばれるという
関連三菱史 1888新潟県石地村(現柏崎市)に日本石油(現新日本石油)設立。1891尼瀬油田で機械堀1号井成功。
1899柏崎製油所完成、本社柏崎に移転。1942鉱業部門を国策で設立された帝国石油に譲渡。
1999三菱石油(1931設立)と合併。2003新日本石油に社名変更。
成田×雄太
取材旅行 道中記
プロフィール 成田誠一(なりた・せいいち)
(財)三菱経済研究所常務理事。専門は三菱史。これまで本誌に『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』などを連載。朝比奈雄太(あさひな・ゆうた)。フットワーク抜群のフリーランスカメラマン
旅人の心象風景を誘う日本海の岬
成田
芭蕉は「荒海や佐渡によこたふ天河」を出雲崎で詠んだ。でも夏の海は荒海じゃないとか、天の川は佐渡方向には見えないとか、いろいろ言われているな。
雄太
暇な人がいるんですね。
成田
この句はね、いわゆる心象風景なんだよ。芭蕉は朝敵や罪人が島流しに遭ったことに思いを馳せ、心の中の海は荒かったということだ。
雄太
奥深いんですね。
成田
雄太だって、今の彼女が最高と思っているんだろう。
雄太
そりゃそうですよ。えっ、それって心象風景なんですか?
成田×雄太
文・ 三菱史料館 成 田 誠 一