沖縄はどこへ行っても民謡が聞こえてくる。「ユイ、ユイ…」という陽気な合いの手に、ついついリズムに合わせて身体を動かしたくなってしまう。 そんな沖縄でも静かなところがある。摩文仁(まぶに)だ。丘の上にはさまざまな慰霊碑が並ぶ。ふもとの「平和の礎(いしじ)」には24万人の名が刻まれている。太陽がまぶしい。50年前もそうだったろう。多くの人が無念の死を遂げた。そのことを決して忘れまい。

摩文仁の丘の西に広がる糸満市の大度(おおど)海岸は、沖縄有数のダイビングスポット。ジョン万ビーチとも呼ばれる。今から150年前の冬の夕暮れ、土佐の中ノ浜(なかのはま)の漁師ジョン万次郎ら3人が、沖合まで米国船に送ってもらい、小舟を漕いで上陸した。彼らは10年前に漁に出て遭難、米国の捕鯨船に助けられて生き延びたのだった。

万次郎らは琉球で6カ月軟禁された後、薩摩と長崎で厳しい取り調べを受け、故郷の土佐に戻ることができたのは翌年の夏だった。万次郎の話は幕末の土佐の人々に大変な刺激を与えた。藩では、画家であり蘭学者でもある河田小龍に万次郎の話を絵入りでまとめさせ、万次郎宅には連日多くの人が詰め掛けた。

坂本竜馬も岩崎彌太郎も、そのさわぎの中にいた。海の向こうの話を聞いた多感な青年は居ても立ってもいられない思いだったろう。ふたりはまもなく、自分の将来を切り開くためにそれぞれ行動を起こしている。
上・ジョン万ビーチ(大度海岸)は糸満市摩文仁にある。左下・平和の礎(平和祈念公園内)には国籍・軍人・民間人を問わず犠牲者24万人の名が刻まれている。右下・摩文仁の丘から望む海岸線
[アクセス]沖縄本島への空路 東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市圏から一日3〜8の直行便が各航空会社から運航されている。那覇空港から国際通りへは車で約15分、糸満市摩文仁の平和祈念公園へは一般道を利用して車で約45分
 
沖縄といえばシーサー。
門や屋根に据えられ、
悪霊を追い払う
 
    「礼節を守る」を意味する「守禮之邦」の扁額を掲げた守礼門。琉球の都を歩く、首里城の探訪はここから始まる
今日の那覇の国際通りは喧騒というか猥雑というか、種々雑多な店が原色の商品を山と積み、最大ボリュームの音楽を通りに向かって流している。店員は愛想よく道行く人に声をかける。まるでカリフォルニアか東南アジアにいるようだ。
那覇では「ラブケーン」ブランドの“かりゆしウエア”を買おう。サトウキビの繊維と綿の混紡。三菱製紙が粟国島で共同開発した。担当部長だった高村善雄さん、退社してJA沖縄と事業を起こした。かつて慶應義塾の将棋部主将で学生名人にまでなった人だ。緻密な読みがあるに違いない。

多くのミュージシャンを輩出している沖縄だが、那覇ではジャズがいい。沖縄料理の『波ぬ花』(098・951・3991)で踊りを見ながら腹ごしらえ。その後、屋良文雄さんのライブハウス『寓話』で、夜が更けるまでねばろう。屋良さん、66歳。元気、元気。「調子いいですよ〜。ジャズやってるのが一番!」。単調なリズムに怪しげな気分になること間違いない。
おじさんぽいのが嫌いな女性には国際通り入り口に近いダイニングバー『半月亭』(098・863・9204)がおすすめ。ギネスの生やワインをやりながら「紅豚」のソーセージをほおばるのがいい。南の島の夜は、四季を通じて多彩だ。
寓話
那覇市久茂地1-4-7
TEL:098・867・0449
沖縄の代表的ジャズマン屋良文雄さん(左)の店。アメリカと沖縄の文化が混じり合う独特なジャズの音色は病みつきになる
 
かりゆしウエア
三菱製紙とシキボウなどが共同で開発。サトウキビの外皮を利用したトロピカルデザインのクールビズだ
 
那覇の国際通りは
文化のちゃんぷる
 


関連三菱史 1835岩崎彌太郎、坂本竜馬生まれる。
1851ジョン万次郎、琉球国摩文仁間切小渡浜(おどはま)に上陸。
1852万次郎、帰郷、土佐藩に取り立てられ藩校教授に。
1853〜54竜馬、江戸遊学。1854〜55彌太郎、江戸遊学


成田×雄太
取材旅行 道中記
●プロフィール
成田誠一(なりた・せいいち)(財)三菱経済研究所常務理事。専門は三菱史。これまで本誌に『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』などを連載。朝比奈雄太(あさひな・ゆうた)。フットワーク抜群のフリーランスカメラマン

彌太郎や竜馬に影響を与えた万次郎の功績
雄太

成田


雄太
成田


雄太
成田
沖縄というとぼくはもっぱらダイビング。ジョン万次郎のことは考えなかったなあ。
万次郎の話をまとめた土佐藩のイラスト入りレポートが『漂巽紀略』(ひょうそんきりゃく)として残っている。著者は画家だ。
万次郎はその後、どうしたんですか。
土佐藩に取り立てられ、さらに江戸に呼び出されて通訳として日米交渉にのぞむなど重要な役割を果たした。
国際派ですね。
そりゃま、そうだが、最大の功績は岩崎彌太郎や坂本竜馬に影響を与えたことじゃないかな。

文・ 三菱史料館 成 田 誠 一
 
これまでの連載をホームページでご覧いただけます。
http://www.mitsubishi.com/j/history/series/『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』
『岩崎久彌物語』『岩崎小彌太物語』『ゆかりの人シリーズ』