大分県の臼杵(うすき)といえば磨崖仏(まがいぶつ)で有名だが、古い武家屋敷や寺院を多く残す、坂の多い鄙(ひな)びた町である。丘の上の石垣は、大友宗麟の城の名残だ。当時、城下には教会ができ、唐人町が作られた。明やポルトガルの商人が行き交い、フランシスコ・ザビエルも来た。
江戸時代、臼杵は稲葉氏の城下だった。明治10年(1877)の西南戦争では西郷軍が攻め入って来た。元藩士たちは郷土を守るために勤皇臼杵隊を結成して激しく抵抗した。のちに三菱銀行の基を築いた若き日の三村君平もその中にいた。
西南戦争が終わってから、元臼杵藩主と藩士たちによって第百十九国立銀行が設立され、三村も経営の末席に連なった。が、景気は低迷、武士の商法の悲しさ、ほどなく行き詰まってしまう。三菱では、同じ臼杵藩出身の荘田平五郎が「旧知の人々が苦労するのは見るに耐えず」と第百十九銀行の支援を強く主張、銀行業への進出をひそかに狙っていた社長の岩崎彌之助は耳をかたむけ、第百十九銀行を傘下に収めることを決断した。
荘田は若い三村を支配人に登用し、三村はよく荘田の期待に応えた。明治28年に三菱合資会社に銀行部が設置され百十九銀行が吸収された際も、三村は銀行業務のプロとして引き続き重責を担うことになり、ついには銀行部長(今日の銀行でいえば頭取)にまでなった。荘田と三村、二人の元臼杵藩士がのちの三菱銀行の基を築いたと言える。
現在の臼杵。中心部の二王座は曲がりくねった石畳の道。苔むした石垣。しっくいの土塀と武家屋敷。黒い瓦の古寺。三重塔…。街中にある幕末の建物のひとつは小手川酒造だ。野上弥生子の生家で、文学記念館になっている。
臼杵にはふぐが売り物の料亭が多い。「春光園」はその代表格。ふぐ刺しに始まりふぐ雑炊に終わる至福のふぐ料理。冬には冬の、夏には夏の味がある。さすが下関の市場で一番高値をつける豊後水道のふぐだ。「この屋敷は、満州で事業に成功した父が、臼杵藩の家老だった稲川様から譲り受けたんですのよ。庭は小堀遠州の作といわれていますの」。幕末から昭和までの日本の歴史と重なる児玉多寿子おかみの話も楽しい。
八町大路では「染と織の店ふじわら」に入ってみよう。古い城下町ならではのセンスの京染や、店主夫人の克子さんが工夫した和小物がある。また、二王座の坂の上、文久3年築の屋敷にある「万葉しおりの店」は、古裂(こぎれ)ちりめん細工がすばらしい。石崎しおり先生とそのお弟子さんたちの手づくりだ。
臼杵。二王座歴史の道と、草むす城址。つわものどもの夢の跡。4月の風が通り過ぎる。満開の桜があちこちで音もなくはらはらと散る。
臼杵城址の桜
大友宗麟の城があった。現在は臼杵城跡(臼杵公園)として市民に親しまれる
臼杵丹生島91-1
TEL:0972・63・1111
[アクセス]
大分空港から連絡バス利用で、JR大分駅までは約1時間。JR大分駅からJR臼杵駅までの所要時間は約35分。車を利用する場合は、大分自動車道・大分IC〜臼杵ICまで約25分。国宝臼杵石仏までは、JR臼杵駅より南西方面へ車で約15分
稲葉家下屋敷
江戸時代の旧藩主・稲葉家の屋敷として明治35年に建てられた
祇園洲6-6 TEL:0972・62・3399
龍原寺の三重塔
聖徳太子を祀る木造の塔。10年の歳月をかけ安政5年
(1858)に完成。
平清水134
TEL:0972・62・2717
  国宝臼杵石仏
平安後期から鎌倉時代にかけて彫られた国宝石仏群

二王座歴史の道
寺院と武家屋敷が続く城下町・臼杵を代表する歴史ある通り。
この石畳の道は遠い過去へとつながっている


関連三菱史
1875 荘田平五郎慶應義塾教師から
三菱商会に入る
1879 第百十九銀行営業開始、三村君平支配人
1885 三菱が第百十九銀行の経営権継承
1895 三菱合資会社銀行部設立
1910 三村君平銀行部長に
   


成田×雄太
取材旅行 道中記
●プロフィール
成田誠一(なりた・せいいち)(財)三菱経済研究所常務理事。専門は三菱史。これまで本誌に『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』などを連載。朝比奈雄太(あさひな・ゆうた)。フットワーク抜群のフリーランスカメラマン

西南戦争では勤皇臼杵隊が…

雄太
成田
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成田
雄太
成田

雄太

西南戦争で西郷軍が迫ったとは知りませんでした。
臼杵の元藩士たちは勤皇臼杵隊として激しく抵抗した。
三村君平さんも、その中にいたんですね。
危うくなったときは女の着物を被って逃げたそうだ。
修羅場をくぐったんだ。
孫の庸平さんは三菱商事の社長になったが、三菱紳士という表現がぴったりの、実に温厚な人だった…。
大先輩だったんですね!

文・ 三菱史料館 成 田 誠 一
  これまでの連載をホームページでご覧いただけます。
http://www.mitsubishi.com/j/history/series/『岩崎彌太郎物語』『岩崎彌之助物語』
『岩崎久彌物語』『岩崎小彌太物語』『ゆかりの人シリーズ』