三菱のDNA

第37回 自己否定もいとわず、商品改定

三菱UFJ信託銀行

 三菱UFJ信託銀行の『ずっと安心信託』が、2012年の日経優秀製品・サービス賞の最優秀賞を受賞した。簡易な手続きで資産承継ができるこの金融商品開発立役者の一人が、石崎浩二だ。1988年に入社、開発時はリテール企画推進部に在籍。
「一時期220万世帯あった個人顧客が180万世帯にまで減少。早期に顧客基盤を拡大することが経営課題だった。また、支店数が少ない信託銀行は、ヒット商品を出すことで新規のお客さまを確保する必要があった」
 契約者本人が死亡すれば銀行口座は凍結されるため、葬儀代も引き出せない中、同商品なら即座に引き出せる。元本は保証し、管理手数料は無料とするなど斬新な内容だった。
「お客さまの要望に応え、手数料を取るのが当たり前の業界で、手数料無料は上層部の同意を得られなかった。ただ、今回の商品は契約時に4つのパターンからプランを選択できる方式をとり、商品性をシンプルにし、社内手続きを簡素化することでコスト削減ができることを訴え、商品概要が固まった」
 また、前身の商品を契約したお客さまには、契約時の手数料3万5000円を全額返金するという前例のない対応も行った。
 12年3月に発売。目標は、3年間で10万件の契約数。毎月の契約数にならすと2800件。だが、発売後の1、2カ月の契約数は100件にも満たない。進捗会議では、広告費がないなどと言い訳するな、頭でっかちで顧客目線がないなど、容赦なく叱咤(しった)される日々が続いた…。
 通常、新たな金融商品が発売されて間もない時期に商品の改定はあり得ない。しかし、石崎は断行する。

苦楽を共にする仲間と夢を語り合う石崎(写真中央)

最低金額の引き下げ

「現場のスタッフ、お客さまの声など徹底的に分析した。その結果、発売約6カ月後の10月に世の中のより多くの方にも購入してもらえるよう、最低金額を500万円から200万円に引き下げた。例えば、一般の方は葬儀代に500万円もかけない。世間とのズレに気づいていなかった。ただし、この引き下げには社内の反発がすさまじかった。そこまで下げれば、当社のイメージを損なうのではないか。さらに発売後約6カ月で商品改定するとは、上司のメンツをつぶすことになると」
 しかし、石崎はひるまない。商品改定こそ、開発した者の自己否定そのものと自覚していたからだ。苦渋の決断だった。こうして徐々に件数を増やし、最優秀賞受賞で一気にブレイクする。石崎は慢心せず、次の手を打つ。
「13年3月に、4つのコースメニューを用途、金額などお客さまがセミオーダーで選択できる11種類のフルコースメニューに改定した」
 現在『ずっと安心信託』の契約件数は累計で16万件に迫る勢いである。(敬称略)

協力/三菱史料館