1970 >>> 2000
壁掛けテレビや
電子頭脳が普及
2020 >>> 20XX

家に電子頭脳!?
AIで人は幸せになれるのか

近頃よく耳にする「AI(人工知能)」という言葉。
家電製品でも“AI搭載”とあるだけで、何やらとてつもなくすごそうな、そして無限の可能性まで感じさせるその一方で、人間の知能を超えた時には…と、SFチックな怖さを感じてみたり。しかしながら現段階で私たちがふれるAIは、少し賢いエアコンの温度調節だったり、ちょっとピントのずれた買い物の提案であったりと、まだまだ進化の途上にあることがよくわかる。

さて1970年、三菱未来館では「家庭にも電子頭脳が普及」と予測。この「電子頭脳=AI」は、前回のロボット篇でもキーテクノロジーとして挙げられていた。では、これからAIが格段の進化をみせることで、社会はどう変わっていくのだろう。そして人はもっと幸せになれるのだろうか。

今回は「AIと人」の現在と未来について三菱グループのシンクタンク・三菱総研でお話を伺った。

今回のテーマは 私たちがお答えします!

三菱総合研究所
デジタル・イノベーション本部 サイバーセキュリティ戦略グループ 兼 未来構想センター
主席研究員
澤部直太

1989年入社。入社後、一貫してICTに関する調査を続ける。大学でもAIを専攻し、2018年からAIにも携わるようになった。2019年に行われた汎用AI調査ではプロジェクトリーダーを務めた。オフタイムはデータを食材に置き換えて、お料理オジサンに変身。

三菱総合研究所
次世代インフラ事業本部 兼 未来構想センター
研究員
飯田正仁

2002年入社。大学では数理工学を専攻。入社後は交通・インフラ分野を中心に携わる。数年前からAIの調査に加わり、汎用AI調査プロジェクトでもチームメンバーとして活躍した。オフタイムは時刻表を手に、全国各地をめぐる鉄道マニア。


人工知能(Artificial Intelligence、AI)という言葉自体の歴史は古く、すでに1950年代には確立していた。とはいえ当時のAIはまさに草創期。実用的な機能はほとんど持っていなかった。
流れが変わったのは2010年代に入ってから。ニューラルネットワーク(脳の神経回路のモデル)を採用したディープラーニング(深層学習)という新しい技術が登場したことで大きく前進する。これは人間があらかじめプログラムしてデータを教え込むのではなく、AI自らが学習していくというものだ。

なんでもできる無敵のAI。それが「汎用AI」だ

「そもそも『AIとは何か』ですが、私なりの答えは『人間の一部の機能に特化して実現するもの』です。たとえば話し相手になる、写真やデータを分類する、最適なルートを選択する、あるいはロボットに搭載して調理する…というように、実現できる機能はあくまでも人間が行う活動の一部。現在、研究・開発・実装が進んでいるAIも、自動運転車やスマートスピーカー、リアルタイム翻訳といった特定の用途を実現するものです。すなわち『特化型AI』。ひと頃注目を集めたのは、将棋やチェスで人間に勝つAIですが、ボードゲームに強いAIが自動車を運転したり、おいしい料理を作れたりするわけではありません。
そのなかで、いま私が注目しているのは、まさに万能なAI、すなわち『汎用AI』です。もしも汎用AIが実現すれば、人間のように自律的に意思決定を行いながら“なんでもできる”、無敵のAIになるでしょう」澤部氏は期待をこめてそう語る。

“なんでもできる”と聞けば、それこそ夢のAIだ。ところが、実は汎用AIというものはまだまだ未知のもの。
澤部氏は続ける。「汎用AIは、言葉を換えれば“人間を超えるAI”。それがやがて実現するという人もいれば、実現しないのではという人もいます。現時点では海の物とも山の物ともつかないもの、それが汎用AIの現状です。
汎用AIの研究成果が目に見えるようになり始めたのは2010年代後半で、まだまだ最近のことです。私としても、汎用AIがAI研究の最終ゴールのひとつだとは思いますが、当面は特定機能のみを実現する特化型AIの開発が中心になっていくでしょう」

飯田氏も次のように補足する。
「汎用AIに関しては、ロードマップを描くこと自体が難しい状況です。結局どういう技術ができれば汎用AIと呼べるのか、その点から議論が分かれています。現状の汎用AIの取り組みは、『もしかしたら汎用AIにつながるかもしれない』という技術の基礎研究が行われている段階だというのが正しい説明でしょう」

機能を積み重ねてつくるのか、
“脳”を丸ごとつくってみるのか…。
さまざまなアプローチが進む。

具体的に、汎用AIの実現に向けて壁となるものは何だろうか。澤部氏は言う。
「人間には、話す機能や見る機能、聴く機能、走る機能、食べる機能など、実に多彩な機能があります。個別の機能を切り出して人間よりも高度な機能をAIで実現させることは、さほど難しくありません。ただ、そうした機能を融合し、トータルで“人間を超える汎用AI”を作り上げようとすると、途端に壁にぶち当たります。
人間はモノを見て何かを判断するとき、カメラの性能をはるかに凌駕する『超高性能センサー=目』を駆使するだけでなく、自発的にモノを動かし、違う角度から確認したりすることもできます。わからないことがあれば、まず仮説を立て、それを基に試し、検証することもできます。それが現在のAIにはできない。
では、いかに人間に近い汎用的な機能を実現するか。その有望なアプローチの一つとして、脳の研究が進んでいます」

人間の脳の研究アプローチは、大きく分けて2つある。「全脳アーキテクチャ」と「全脳エミュレーション」だ。飯田氏に解説してもらおう。
「脳が実現する個々の機能を機械的に実装できるとするなら、それぞれの機能を積み重ね、統合することで人間の脳を再現できるという考え方が『全脳アーキテクチャ』。一方、ハードウエア的に脳を再現すれば、個々の機能は自然と生まれてくるのではないかという考え方が『全脳エミュレーション』です。

『全脳アーキテクチャ』では、たとえば小脳の機能は従来の技術である程度再現できるという研究が行われています。ディープラーニングの機能はおそらく大脳新皮質というパートに該当するといった研究も進んでいます。しかし、各機能を個別に実現できたとして、それを脳全体に相当するものとして統合できるのかどうかが課題となります。

対して『全脳エミュレーション』は、脳の神経細胞、すなわちニューロンとそれらをつなぐシナプスを電気的に再現していきます。ただ現在、ニューロンとシナプスの結合状態がすべてわかっているのはニューロンが300個程度の線虫だけ。人間の脳はニューロンが1000億個ありますから、はたしてそこまで作り込めるのか。仮に作り上げたとして人間の脳のように機能するのかは、まったくもって謎なのです」

汎用AIの開発はそうそう順風満帆には進まないと明らかになってきたのが、どうやら現状のようだ。

澤部氏はこうも語る。「いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)を超えてしまうと、AIが人間を支配するようになってしまうのではという脅威論があります。また、人間を超えるレベルになったAIを人間がどう使っていくかについても議論があります。技術的な制約に加え、こうした倫理面の課題があるのも事実なので、私としても汎用AIは『できるかもしれないし、できないかもしれない』という立場です。
ただ、仮に実現できないとしても、汎用AIの研究過程で進めた特化型AIの技術は貴重ですし、脳の研究も間違いなく有用ですから、それらの成果を活かしてさらに高度な特化型AIを開発できるでしょう。その結果として、汎用AIそのものではないにしても、現在より汎用性の高いAIは生まれてくると考えます。

いまの世の中は、わからないことをGoogleで検索するように、人間の知識が外部化されてきています。人間にはどうしても能力的な制約がありますし、判断量にも限界がありますから、今後は行動や判断の一部が外部化され、どんどんとAIが担っていくようになるでしょう。コミュニケーションもある程度はAIに任せられるようになり、自分の代わりに他人とコミュニケーションするアバターのようなAI、仕事の調整をしてくれる秘書のようなAIも登場するかもしれません。そうなってくると、人間は『1日24時間』の制約が薄れ、これまで以上にさまざまな活動ができるようになるかもしれませんね」

それは良薬になるのか、毒薬になるのか。
「夢の汎用AI」への挑戦はto be continued…

夢の汎用AIが仮に実現したとき、人間社会はどう変わるのか。それによって人は幸せになれるのか。

飯田氏は次のような未来像を語る。「やはり経済活動におけるメリットが最も大きいでしょう。現在すでに特化型AIを用いてオフィスワークの一部を置き換え、業務を効率化する動きが進んでいます。汎用AIが実現すれば、さらに進んで汎用AI自身が新たな技術や製品・サービスの開発を行うようになるかもしれません。その意味では、汎用AIが科学のフロンティアを開拓していく存在になれるのではという期待論もあります。医療、軍事、サイバーセキュリティ対策でも今後はAIが主流になっていくでしょう。

また、自律的に考え、行動できる汎用AIが実現されれば、事前に想定していない場面に出くわしても人間の期待に応える判断をしてくれるはずです。災害時や特殊な自然環境、あるいは感染症が蔓延している地域など、人間が行くのは難しいところに汎用AIを搭載したロボットが赴き、作業をすることも考えられますね」
AIの多様な進化を支えるキーテクノジーは「ディープラーニング」だと、澤部氏も飯田氏も口をそろえて言う。とはいえ現状のAIには、学習の前提としてまだまだ膨大なデータが必要だ。1枚のライオンの写真を見せただけで、実物のライオンや幼児の描いたライオンの絵の両方をライオンと判断することはできない。
それが、人間にはできる。写真ではなくマンガのライオンと実物のライオンを結びつけることもできる。それがなぜ可能なのかは、まだわかっていない。「結局、汎用AIの研究開発を進めていくことは、脳の研究も含め、人間を掘り下げていくことなのだと思います」と飯田氏。

さらに「今後AIが進化し、さまざまな仕事を代替できるようになったとすると、逆に人間しか持っていない要素、たとえば『触れ合う』とか『ホスピタリティ』といった面が貴重になってくるでしょう。未来を考えたとき、どうしても経済的に効率の良い社会が目指されがちなのですが、AIの研究を進めていくことで、人間本来の幸福について現在よりも深く考える動きが増えるかもしれません」と続けた。

なるほど。AIによって人が幸せになるのではなく、人はAIによって、もっと幸せに気づくチャンスを手にするのかもしれない。

澤部氏は最後にこう締めくくる。
「現在の社会の構造や価値観が30年後も同じであるとは限りません。世の中は変わっていくものですから、技術はもちろん、社会のニーズや倫理面での考え方も変わります。ですからAIとの付き合い方も変わっていくはずです。未来においてAIはあらゆる社会課題を解決する強力なツールになるでしょうが、大切なのはその力を人間がどのように使うかです。それによって、良薬にもなるし、毒薬にもなると考えています」

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