The Monthly Mitsubishi
「マンスリーみつびし」創業150周年関連記事

トップインタビュー
三菱みらい育成財団の設立と次世代育成への思い

一般財団法人 三菱みらい育成財団 理事長
三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 執行役会長

平野 信行ひらの のぶゆき

三菱広報委員会「マンスリーみつびし」より
インタビュアー/木佐彩子
撮影/小堀篤信

東京・世田谷区岡本にある静嘉堂文庫前にて。敷地内の静嘉堂文庫美術館では、三菱第二代社長の岩崎彌之助と、第四代社長の岩崎小彌太父子が収集した国宝や重要文化財などの美術品が展示されている。美術館のギャラリーは、2022年秋に東京・丸の内の明治生命館に移転する予定

木佐

三菱創業150周年記念事業として昨年10月に一般財団法人「三菱みらい育成財団」を設立され、理事長に就任されました。設立の経緯をお話しいただけますか。

平野

三菱金曜会の仲間とのディスカッションを通し、150周年事業は三菱グループの共有理念である「三綱領」のひとつ「所期奉公」を踏まえ、社会貢献を第一に据えようということになりました。では何をやるのか。議論を重ねた結果、やはり教育だろうと。創業者の岩崎彌太郎が明治3(1870)年に土佐藩の海運事業を引き受け、3年後には三菱商会を設立。明治維新後の激動期、国家や世界情勢がめまぐるしく変わりゆく中で、時代の荒波を乗り越え、彌太郎とその後継者たちは近代日本の礎を築き、新たな時代をつくりました。私たちも今、大変革期に生きています。グローバル化やデジタル・トランスフォーメーション(DX)が急速に進み、経済や産業に加え、社会構造全体を変えようとしている。この大変革は、全体としては人々の生活を便利で豊かにした一方、富の偏在や格差、社会の分断を生み、変化についていけない人を置き去りにした。人類は今、持続可能な社会の実現に向け、克服すべき複雑で困難な課題に直面しています。人間に代わりAIが物事を決めた時、倫理は置き去りにならないか。DXはより自由な市場をつくり、新しい競争を通じ、価値の高いサービスを提供するはずが、GAFAなどの新たな独占を生み出した。サイバーセキュリティー問題もある。
また新型コロナウイルスなど感染症は人々の社会、生活、価値観を変えるでしょう。歴史を振り返れば黒死病(ペスト)は教会の権威失墜を招き、中世に終わりを告げた。かつてない変化が世界的スケールで起きている今、既存の考えや行動では難局を乗り越えられない。複雑に交差する多様な社会課題に対処しながら、自ら前に進み、未来を切り拓ける人材を育成することこそ喫緊の課題です。
三菱創業100周年記念に設立した「三菱財団」の過去の助成対象者からは5人のノーベル賞受賞者(赤﨑勇、小柴昌俊、野依良治、本庶佑、山中伸弥)が輩出しました。ならば今回は研究ではなく、未来を創造する若者、高校生などを中心とした15~20歳をターゲットに据え、教育に取り組もう、ということになりました。

新財団設立発表会であいさつする平野理事長
幅広い視点を持ち、歴史的文脈を捉え、
新しい価値観を養い、自ら未来を切り拓く、
若い人材の育成は喫緊の課題です。
木佐

なぜ15~20歳なのですか。

平野

高校が大学の予備校的な存在になり、大学に入るためだけに3年間を費やす子どもが増えているからです。親も子も、有名大学に入り、大企業に職を得るという発想から抜け出せないでいる。悩みながらも多様な事柄を柔軟に吸収する思春期にそんな教育でいいのか。彼らには個性と無限の可能性があり、その個性を引き出し、何のために学ぶのかを自ら問い、能動的に行動できるようにする教育が必要だという結論に至ったのです。

木佐

助成の対象と選考基準は?

平野

プログラムは大別すると2つ。1つは「心のエンジンを駆動させるプログラム」。高等学校(高等専門学校、特別支援学校などを含む)を対象とするカテゴリー1と、NPO、株式会社、大学などを対象とするカテゴリー2からなります。前者は高等学校などが学校現場で実施するプログラム、後者は教育事業者などが行うより先進的で効果的なプログラムです。
一般財団法人にしたのは、株式会社など公益財団法人では対象にできないところにも助成し、より尖(とが)った取り組みを後押しするため。カテゴリー1では、2030年を見据えSDGsをどう考えるか、世界と未来を結ぶイノベーティブな人材育成、課題解決能力の高い地域人材の育成、特別支援学校でのテレワークによる就労への挑戦などに、カテゴリー2では、アートを通じて内在する創造性を引き出すプログラム、医療体験プログラム、ネットビジネスの起業プログラムなどに助成しました。そして2つ目は、カテゴリー3の「先端・異能発掘・育成プログラム」で、助成対象は大学、研究機関、教育事業者など。これは卓越した能力を持つ人材を早期に発掘・育成するというもので、具体的には宇宙線観測データの応用、温暖化や感染症など地球規模の問題への取り組みなどが採択されました。
これら全てを合わせ、初年度は251件の応募があり66件が採択され、参加生徒数は2万6000人に達しました。

未来を切り拓(ひら)く2つの育成プログラム
1

心のエンジンを駆動させるプログラム

高等学校、高等専門学校、特別支援学校などを対象とする学校現場で実施するプログラム(カテゴリー1)と、NPO、株式会社、大学などを対象とするより先進的で効果的なプログラム(カテゴリー2)からなる。

2

先端・異能発掘・育成プログラム

大学、研究機関、NPO、株式会社などを対象とする、将来、社会が求める卓越した人材を早期に発掘し、育成する教育プログラム(カテゴリー3)。

2020年度の助成プログラムの主要なテーマは、先端科学・研究開発、グローバルビジネス・人材育成、地球規模の課題解決、地域・社会課題解決、起業家・アントレプレナー、芸術・クリエーティブ。一般財団法人にしたことで幅広い助成先を選べるようにした。

木佐

評判はいかがですか。

平野

事務局のスタッフは、全国津々浦々の高校、NPO、大学などを訪れ、フィールドワークをしており、高校や大学の先生の評価は非常に高いようです。文科省の新しい学習指導要領にも「探究型学習」という考えが入っていますが、実際に何をしたらいいか、現場の先生は悩んでいる。今までは教科書を教えればよかったのに、正解がない問題を生徒と一緒に考え、ソリューションを見つけていく。そういう思考を養うにはどんなプログラムを組めばいいか、困っているんです。全国でさまざまな取り組みが行われていますが、今は試行錯誤が続いています。そういう状況の中で優れた取り組みを私どもの財団が発掘し、助成し、育て、横展開することで、グッド・プラクティスをつくりあげていこうと。その先には日本の教育のあり方、制度、システムを変えていくというゴールがある。受け身、画一的、一方的から、創造的、多様、インタラクティブに変えていく。そこから既存の枠にはとらわれず、自分で考え行動し、変化に対応していく人材が育つのです。

木佐

財団の活動は約10年です。

平野

ビジネスでミッションを与えられたら期限内に結果を出さなければならない。プレッシャーをかける意味でも活動に期限を設けました。ただ1~2年では成果は出ないので、10年としたわけです。初年度はまずまずの滑り出し。今後については主に3つの課題がある。1つは19~20歳の大学最初の2年をどうするか、21世紀型のリベラルアーツが求められています。今の世の中は非常に複雑、1つの課題を解決するのにさまざまな知見が必要です。新型コロナウイルス感染症では、医学、疫学、経済、家庭、教育など、さまざまな知見が求められ、医療機器の各国による囲い込みは、政治、外交、安全保障に影響を及ぼす。生活スタイルの変化は何のために生きるのかという哲学や倫理にもつながる。SDGsの第一は貧困の撲滅ですが、どんな施策ならば貧困の撲滅と経済の発展、地球環境の保全を両立できるか、複雑な課題を幅広い知見で総合的に考える必要があります。基礎的な素養を身につけるためには、少人数での対話型教育、研究志向から教育志向への変換、英語やITスキルを超えた教養に裏づけられた思考と行動の土台作りが求められているのです。

木佐

残りの2つの課題は?

平野

高校の先生に向けた教育プログラムと、ネットワークとプラットフォームの構築です。小中学校の先生は教育大学を出ている人が多いのですが、高校の先生は普通の大学で物理や英文学などの専門を学んだ人で、教え方を学んでいない。高校の先生が探究型学習をすれば、実践の中で学ぶことができるはず。グローバル化やデジタル化が世の中をどう変えたか、ビジネスの現場や世界の動きを私たちビジネスパーソンが伝えることもしていきたい。また、助成対象者の生徒や先生、学校やNPO、教育事業者の間をネットワークで結ぶことで、情報をお互いに自由に交換できるようなプラットフォームを構築し、それをベースにパネルディスカッションやシンポジウムなどを開催する。助成した66件のプログラムのコンテストや表彰を行い、アルムナイ(OB・OG、卒業生)プログラムをつくってもいい。こうした試みの中からより良い教育のあり方が生まれていくことを期待しています。

木佐

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

平野

VUCA(ブーカ)(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代といわれる状況に、感染症の脅威が加わったことで、世界は新たな局面を迎えています。でも歴史を振り返ってみればこうした困難な時代にこそ、次の時代を創り出す原動力が生み出されてきたのではないでしょうか。最初にもお話ししたように、三菱グループはまさにそうした状況で産声を上げ、これまで日本社会と世界に大きく貢献してきました。これは今後も変わらない私たちのDNAであり、ミッションです。今は自らのコア・コンピタンス(内在する強み)と事業活動の目的をもう一度問い直すべき時。そして想像力、創造力、構想力を磨いて、それぞれが未来を切り拓いてほしいと思っています。何もしなければ後退するだけ。正しく行動すれば大きなチャンスが生まれるはずです。

三菱創業150周年記念トップインタビューが行われた静嘉堂文庫。歴史を感じさせる趣のある内装が特徴的。
Interviewer
木佐 彩子きさ あやこ

1971年5月26日東京都生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。94年フジテレビに入社し、アナウンサーとして『プロ野球ニュース』『FNNスーパーニュース』などに出演した。退社後はフリーとして活躍。現在はBSテレ東『教えて!ドクター 家族の健康』の司会など、テレビや雑誌、イベントで幅広く活躍中

三菱みらい育成財団
2020年度は全国66の教育プログラムに助成します

三菱グループは、三菱創業150周年記念事業として、複雑に交差するさまざまな課題に向き合い、自ら前に進み、未来を切り拓くことができる若い人材を育成するため、一般財団法人 三菱みらい育成財団を2019年10月に設立しました。財団の活動期間は10年。2020年度の助成対象は、高校生などを対象とする右記3つのカテゴリーの教育プログラムです。全国から66のプログラムを採択しました。

詳しくは財団ホームページまで。

カテゴリー1

高等学校などが実施する「心のエンジンを駆動させるプログラム」応募総数:117件 採択:51件 助成対象:高等学校など

明石工業高等専門学校

「3学年4学科横断型工学実装教育プログラム」

学年学科横断型の108チームがSDGsをテーマとした探究学習を実施し、実現可能性のある仕組みや実装を見据えたプロトタイプの作成を行うプログラム。

東京都立両国高等学校

「Bridge」

さまざまな分野に橋を架ける探究活動を通じて主体的・創造的に取り組む態度を育てるプログラム。企業人の視座に触れ、社会貢献の使命を感じ、机上ではなく実際の理論を追究し、大学・企業などと連携しゼミ形式で実施。

長崎県立諫早高等学校

「自立し未来を創造する人財育成」

社会問題などの解決を目標にした課題解決研究を行う中で、地域・日本・世界に目を向け、学びに向かう力・人間性の涵養、知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力などの育成を図るプログラム。

カテゴリー2

教育事業者などが行う「心のエンジンを駆動させるプログラム」応募総数:114件 採択:10件 助成対象:NPO、株式会社、大学など

一般社団法人 ELAB

「未来を描くプログラム~不確実性の高い時代の中で人生を創造的に生き、豊かな社会を創り出す~ 」

アートを通じてクリエーティブ・コンフィデンス(自ら考え、進む道を見つけ、内在する創造性を信じ行動する力)を育む学びのプログラム。

カテゴリー3

先端・異能発掘・育成プログラム応募総数:20件 採択:5件 助成対象:大学、研究機関、NPO、株式会社など

国立大学法人 大阪大学

「大阪大学SEEDSプログラム ~傑出した人材発掘と早期育成~Science & Engineering Enhanced Education for Distinguished Students」

自主的に研究に取り組む高校生を、最先端科学技術に触れさせ、選抜の上、実際に大学の研究室で、学会発表や学術誌掲載レベルに育てるプログラム。

2020年度の助成金額は2億2000万円、採択団体は66団体、参加生徒数は約2万6000名です。※助成期間は1年。取り組みの定着を目的に原則3カ年まで継続助成



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