ライフスタイル企画

2023.04.13

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.1

部下の本音も、消費者のインサイトも見えてくる⁉
Z世代を知るならこの3冊

  そこそこキャリアを積んだ社会人が若手を批判、もしくは称賛するのにこの頃曖昧に使いがちな「Z世代」というワード。日本では概ね現在の12〜28歳を呼ぶようだが、果たして「大人」側は彼らの真の姿や内面をわかっているのだろうか? 今回はそんなZ世代を知るための3冊をご紹介。該当世代の皆さんは「自分たちがどう見られているか」のご参考に!

  最初に取り上げるのは、Z世代の真意を知りたい大人側が彼らに取材を重ね、その姿を浮かび上がらせようと試みた『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』。

  映画配給会社や映画評論誌などでキャリアを積んできた著者の稲田豊史氏は、現在の若者のかなり多くがNetflixや映画を日常的に倍速視聴しているという事実に疑問を抱く。彼らはなぜ倍速で観るのか? それで本当に映画を味わったと言えるのか…? 映像作品の未来を憂いつつ、疑問を解明すべく取材を重ねると、映像配信のサブスク化、SNSの発展による(稚拙な)一般意見の可視化、LINEで仲間とつながり続ける日常が生んだ同調志向や発信意識、そして彼らの親世代の貧困化など、「早送り」の背景にあるさまざまな実態が見えてくる。

  そんな「早送り世代」に絶大な人気を誇り、一時入手困難になったミステリー小説集『#真相をお話しします』も彼らを知るきっかけになりそうだ。著者の結城真一郎氏はZ世代より少し年上、登場人物も小学生から中年まで幅広いものの、Z世代を魅了するヒントが随所に見つかる。飛ばし読み不要(不可能!)なハイテンポな展開と、どんでん返しに次ぐどんでん返し。スマホ、マッチングアプリ、YouTube、オンライン飲み会…など、謎解きのファクターに今の時代を巧みに取り込んでいる。そんな偶然すぎる展開ってあるか⁉ と立ち止まりそうにもなるが、ぜひこのスピードに乗っかってZ世代のエンターテイメントを体感してほしい。

  最後に紹介するのはリアルZ世代の著者がていねいかつ真摯に語る『世界と私のA to Z』。「セルフケア・セルフラブ」「推し」「SNS」「仕事」「恋愛」などのキーワードに基づいた12章にわたり、自分や自分を取り巻く世代の人々がどんな価値観でものを考え、生き、悩んでいるかを伝える。カリフォルニア出身・在住の著者、竹田ダニエル氏が映すのはアメリカのZ世代中心ではあるものの、先の2冊と比べても当事者から見る景色はまたガラリと違うと気づく。最終章の「世代論」ではZ世代のことを「価値観が多様で流動的で矛盾している世代」と評する。Z世代を知るべく3冊を紹介してみたものの、最後のこの本に、数冊の本に触れただけでZ世代を知れるわけではないと釘を刺されるようだ。かといってもちろん、わからないと諦めては分断が起きる。理解する努力と、わかった気にならないこと、この両方の感覚こそ、多様化する社会をつなぐヒントかも知れない。

本タイトル

『映画を早送りで観る人たち
ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』

稲田豊史著・光文社新書(990円)

なぜ映画や映像を早送り再生しながら観る人がいるのか? その視聴スタイルの背景に何があるのか、映像や出版コンテンツはこの先どうなるのか…。疑問を解明すべく徹底した取材が現代の消費社会の実態をあぶり出す。

「#真相をお話しします」
結城真一郎著・新潮社(1,705円)

家庭教師の仲介営業マンの大学生、娘のパパ活を案じつつマッチングアプリに勤しむ中年男、リモート飲み会…令和の「日常」に潜む違和感が狂気に変わる。第74回日本推理作家協会賞受賞作を含む5篇。

「世界と私のA to Z」
竹田ダニエル著・講談社(1,650円)

アメリカ出身・在住のZ世代の著者が、自らを取り巻く社会の様子を具体例とともに俯瞰的に捉えつつ自身の思いをていねいに綴る本書は、国や世代を超えた時代の感覚に触れられる。月刊文芸誌『群像』の連載をまとめた1冊。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイル、ウェルネスなどをテーマに雑誌やウェブ、広告、書籍などにて編集・執筆を行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。