ライフスタイル企画

2023.04.20

スタイリスト川上さやかの仕事服論

服はあるのに明日着て行く服がない……。
新しい服を買う前にやるべきこと

スタイリストの川上さやかさんがビジネスパーソンの服装への疑問や迷いを解消し、背中を押すファッションエッセイ。明日の仕事服を選ぶのがラクになり、自信がもてるヒントを教わります。
初回は意外にも、“新しい服を買うよりも大事なこと”についてです。

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クローゼットに服はたくさん並んでいるのに着る服がない、服の組み合わせが思いつかない、またはコーディネートを毎日考えるのが面倒という時はありませんか? 新しい服を買って解決したいと思ってしまいがちですが、こんな時こそおすすめしたいのが「クローゼットの整理」です。

まず、クローゼットの服をアイテム別に分けていきます。コート、スーツ、ジャケット、トップス、パンツというように。さらに、各アイテムを色ごとに分けていきます。それが終わったら、アイテムごとに淡い色から濃い色、もしくは濃い色から淡い色のグラデーションになるように、クローゼットに戻していきます。ハンガーで掛けるタイプのラックはもちろん、引き出し式の衣装ケースやタンスの場合でも、この並びをキープしたまま服を収納します。

すると、たったこれだけのことなのに、たくさんのメリットがあることに気づくはずです。一つ目は、「こんな服持っていたんだ!」と意外な発見があること。自分が抱えることのできる仕事の量に限りがあるのと同じで、自分の頭の中で把握できる服の数にも限界があります。そのため、アイテム分け、色分けをしていくうちに、クローゼットで眠らせてしまっていた服の存在に気づくことができるのです。久々に手に取るアイテムのおかげで、新しいコーディネートが思い浮かぶこともあるでしょう。もし、そのアイテムが今の自分にとって必要のないアイテムであれば、処分してしまっても構いません。余計なアイテムが減ることは、洋服を捜しやすくなるメリットにもなりますから。

二つ目は、服の組み合わせを考えるのがラクになり、毎朝時短ができることです。着ようと思っていたアイテムを捜す時間がなくなるのはもちろん、短い時間で精度の高いコーディネートが考えられるようにもなります。例えば、今日はネイビーのパンツをはこうと最初に決めたとします。その後、どの色のトップスにしようかと決める時、服が色別に並んでいるので、簡単にベストな色を比較することができます。そして、トップスは白に決めたとします。白トップスコーナーにある、無地の白シャツなのか、ストライプの白シャツなのか、さらには白ニットなのか……。同じ白トップスでも、より良い組み合わせを考えることができるのです。もし白トップスがあっちにも、こっちにもある状態なら、手早く効率よくコーディネートを考えることはできません。“机の上が乱れている人は仕事ができない”という話を耳にしたことがある人もいると思いますが、クローゼットが乱れていると、コーディネートもうまくできないのです。

三つ目は、自分の服の好みを把握でき、今後の買い物がスムーズになることです。自分のクローゼットは、好きな服の傾向を映す鏡です。服を色分けした時に、大半の人は色に偏りがあると思いますが、それで構いません。いちばん多くあった色=自分が好きな色、自分が着ていていちばん落ち着く色です。なので、今後はその色を軸にワードローブを構築していけばいいのです。これからの季節、シャツなど薄手のトップスが春の最初の買い物になる人も多いでしょう。そんな時、例えば自分のクローゼットにネイビーの服が多いなら、ネイビーと相性の良い薄いピンクのトップスなら活躍しそうだと容易に想像ができます。薄いピンクのトップスをネイビーのパンツに合わせるだけで春らしい着こなしが完成します。さらには、クローゼットの中身を把握していることで、白いパンツも持っているから、薄いピンクのトップスをネイビーのジャケットの下に着るのも爽やかで素敵! とどんどんコーディネートの想像を広げて行くことができます。新しく投入しようとしているアイテムが、自分の手持ちの服を使って、どれくらい着回せるかの検討がしっかりできていれば、買ったのに結局着なかったという失敗をなくすことができるのです。

スーツの場合であっても、どの色が多いかで、相性の良いネクタイや小物の色が分かるので、無駄な買い物がなくなります。例えば、ネイビーのスーツが多いなら、ネクタイやベルト、靴はブラウンがあると便利。ベルトの金具の色はゴールドがおすすめ。グレーのスーツが多いなら、ネクタイはブルー、ベルトや靴は黒、ベルトの金具の色はシルバーと相性抜群です。

クローゼットの整理は最初は時間がかかりますが、お金をかけずにいつでもすぐ始められ、その結果新しい時間を生み出し、無駄な買い物を減らすという大きな成果につながっていきます。春の始まりだけと言わず、衣替えのシーズンごとにクローゼットを整理し続けていくことで、自分にとって最適化されたワードローブを容易に保っていくことができます。

そして余裕が出てくれば、さらにおすすめしたいのが、服のメンテナンスです。シワのないピンとしたシャツを着ている人と、シワのあるヨレッとしたシャツを着ている人では、どちらが素敵かと言われたら、その答えは一目瞭然。今はハンガーにかけたままの状態で手軽にシワを伸ばせるスチームアイロンが数千円から1万円程度で購入できるので、シャツやジャケット、パンツにスカートなど、シワが気になるアイテムがあれば、身支度の前にパパッとスチームアイロンをかけるだけで蘇ります。ニットの場合は、着る前や脱いだあとにハンガーにかけ、ブラッシング。毛玉を取ることもできますし、長い間きれいな状態で保てます。ジャケットの下にニットを着る場合でも、ニットのブラッシングをしているか否かで、顔映りまで変わってしまうほど。ブラシは、柔らかな豚毛がおすすめ。花粉を取り除いたり、静電気を抑えたりする効果もあります。

これらの洋服のケアも、新しい洋服を買わずとも、自分の手持ちアイテムをまた新たな心持ちで楽しむことができるのがメリット。なお、アイロンやブラシは箱にしまったり奥に収納したりせず、いつも見えるところに置いておくことも大事。すぐ手に取れるところにあることで、こういったお手入れが面倒にならず、やりたい時にさっと済ますことができるからです。

ファッションを仕事にしている私でさえも、これまでたくさんの買い物の失敗を重ねてきました。だからこそ辿り着いた整理することの重要さ。新しい季節の始まりに、一度自分のクローゼットと向き合ってみませんか?

プロフィール

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川上さやか(かわかみ・さやか)
スタイリスト

ファッション雑誌『Oggi』(小学館刊)やファッションブランドのウェブコンテンツなどで活動するスタイリスト。大手銀行の会社員からこの仕事に転身した異色の経歴の持ち主。シンプルでベーシックな中にもひとワザ効いたおしゃれさが光るスタイリングや、リアルな仕事服のコーディネート提案が人気。著書『おしゃれになりたかったら、トレンドは買わない。』(講談社刊)も好評発売中。
instagram:@sk_120

イラスト/山口奈津 構成・文/高橋香奈子