ライフスタイル企画

2023.05.11

旅企画「目的旅のススメ」

庭園を歩き、花を愛で、緑に包まれて…。深呼吸を誘う初夏の旅へ

暑すぎず寒すぎず、一年で最も快適に過ごせる初夏は、新緑が美しく輝く季節。太陽の日差しを思いきり浴び、濃度を増していく緑の瑞々しさは、見ているだけで深呼吸を誘う。また、花菖蒲や蓮、桔梗、紫陽花など、清涼感たっぷりの花々が、私たちを楽しませる。梅雨を迎えるその前に、たっぷりの緑に癒され、エネルギーをチャージしよう。

本家フランス公認、幻の青い睡蓮が咲く『北川村「モネの庭」マルモッタン』

高知空港から車を東へ走らせること約60分。あの幕末の志士、中岡慎太郎の故郷でもある北川村は、人口1200人足らずの小さな村だ。村自体、緑深い山間にあり、のんびりとした日本の田舎町の原風景が広がる。

美しい空と川、満天の星が自慢のこの村だが、その名が全国的に知られているのは、世界に誇る“庭”があるからだ。

印象派の巨匠、クロード・モネ。彼はフランスのジヴェルニーにある自宅の庭を“生きたキャンバス”として、草花や木々を植えて愛でていたという。そんなモネが半生を過ごした「最高傑作」と自慢する庭を、本家モネの庭の協力により、高知の自然の中で再現。

フランス芸術アカデミー並びにクロード・モネ財団公認の世界で唯一の“もうひとつのモネの庭”。それが『北川村「モネの庭」マルモッタン』だ。

園内は『水の庭』、『花の庭』、『ボルティゲラの庭』の3つのエリアで構成され、四季折々でその姿を変える。庭を散策すると、彼が描いた風景に迷い込んだような、そんな錯覚を覚えるほどだ。

一年を通して、草木や花々が彩る風景を楽しめるが、モネの代表作であり、オランジュリー美術館に展示されている大連作『睡蓮』の世界が『水の庭』に広がるのは4月から10月上旬。

赤や白などの温帯性睡蓮に加え、6月下旬からはモネが生涯咲かせることが叶わなかった熱帯性の“青い睡蓮”が池を彩る。

また、池の周囲には藤や柳、桜といった日本でもなじみ深い樹木も配され、太鼓橋とバラアーチといった日本と西洋の文化が融合した風景は、ここでしか見られない。

印象派クロード・モネならではの感性の庭は、“生きている美術館”そのものだ。

『北川村「モネの庭」マルモッタン』

施設写真

〒781-6441 高知県安芸郡北川村野友甲1100
☎ 0887・32・1233

開園時間 9時~17時まで(入園は16時30分まで)
休園日 6月〜10月の第一水曜日、12月〜2月末日
入園料 大人(高校生以上)1,000円、小人(小中学生)500円、小学生未満無料

那須の文化リゾート『アートビオトープ那須』で建築家・石上純也氏が手掛けた『水庭』を歩く

建築家が手掛けたランドアートとして世界的に評価された“作品”を鑑賞し、感性を磨く旅に出る。

そんな初夏の小旅行ならば、栃木県・那須塩原⾼原の⼭麓、横沢に佇む『アートビオトープ那須』へ。

自然と融合するリゾートという『二期倶楽部』の思想を受け継ぎ、2007年にオープンした新たな文化施設の敷地内には、坂茂氏設計による全室スイートタイプのヴィラと『レストランμ』、そして美しいランドアート『水庭』が、訪れるゲストを深くやさしく包み込む。

なかでも建築家・石上純也氏の緻密な計算により、318本の樹木、160個の池がモザイクのように配置された『水庭』は、圧巻。

元々この場所にあった樹木や水、苔、石といった要素を生かして、かつて牧草地だった地に新しい風景を生み出したというこのランドアート。実際に身を置き、せせらぎの音に耳を傾け、大小さまざまな飛び石を進んでいくと、静かに心も体も解けていく。

設計を手掛けた石上純也氏は、この『水庭』で芸術選奨美術部門文部科学大臣新人賞(2018年)のほか、2019 年に創設されたデンマークの新しい建築賞、オベルアワードを受賞。

「建築の未来の道筋を再定義できる影響力のあるアイデア」として、単なる珍しいデザインの庭ではなく、人間と自然との関係性に改めて思いを巡らす作品として高い評価を受けているのも納得だ。

もうひとつの楽しみは、『水庭』を臨む空間でいただくフレンチ。

“シード(種)からテーブルまで”をコンセプトに、40km圏内で生産された食材を取り入れたアートのように見目麗しいフレンチは、一皿一皿、供される度に心が躍る。

宿泊ゲストやレストランゲストでなくても、『ガイド付き水庭ツアー』を別途予約すれば水庭を見学することは可能。

五感をたっぷり刺激し、リフレッシュする休日にぴったりのデスティネーションだ。

『アートビオトープ那須』

〒325-0303 栃木県那須郡那須町高久乙道上2294-5
☎ 0287•74•3200

『スイートヴィラ』
客室数15室
平日一泊二食付き1名6万6,559円(税サ込み)〜

『RESTAURANT μ(ミュー)』
営業時間 12時~13時/18時〜19時ラストオーダー
ランチ8,470円、ディナー1万9,360円(税サ込み、いずれも『水庭』自由見学付き)
※前日12時までの予約制
☎ 0287•78•3200
RESTAURANT μ(ミュー)を予約する

『ガイド付き水庭ツアー』
11時/14時 1人2,970円

川端康成の小説にも登場する『京都府立植物園』のクスノキ並木に抱かれて

桜や紅葉に彩られた京都の美しさは息を呑むほどだが、初夏の青紅葉やクスノキ並木がもたらす風景とて、決して負けていない。

とくに本格的な夏が訪れる前の京都は、街全体が清涼感あふれる新緑に包まれ、散策するだけでも気持ちいい。

神社仏閣めぐりをしながら新緑と戯れるのもいいが、実は京都通がこぞっておすすめするのが初夏の『京都府立植物園』だ。

JR京都駅から車でも電車でも約20分というロケーションにありながら、その敷地面積は24haと広大で、園内には約12000種類、約12万本の植物が植えられ、訪れる人を楽しませている。

なかでも大正13年の開園当初に植えられた樹齢100年を超えるクスノキが200mにわたり立ち並ぶ並木道は、京都を舞台に四季折々の美しい風景や京都の伝統を描き、双子の姉妹の数奇な運命を描いた川端康成の小説『古都』にも登場。

緑のシャワーが降り注ぐ場所として知られている。

また、園内では年間を通じて四季折々の花々、6月にはばら園、あじさい園、はなしょうぶ園が次々と見ごろを迎え、多くの人の目を楽しませる。

他にも園内の花壇では、丸いフォルムが愛らしいアリウム ギガンテウムといった珍しい植物の姿をカメラに収めることも可能だ。

京都を訪れるのが二度目、三度目であれば、ぜひ『京都府立植物園』へと足を運んでみてほしい。京都の奥深さをさらに知るに違いない。

『京都府立植物園』

〒606-0823 京都府京都市左京区下鴨半木町
☎ 075•701•0141

営業時間 9時~17時(入園は16時まで)
年末年始(12/28〜1/4)休

構成・文/一寸木芳枝