ライフスタイル企画

2023.05.18

健康企画「ビジネスパーソンのためのヘルスケア」

よく眠り、よく生きる。
“睡眠投資”で仕事も人生もうまくいく!

しっかり眠ったはずなのに、日中に強い眠気や疲労を感じたり、集中力の低下からケアレスミスを連発したり……。プレゼンや試験など「勝負」の前日、布団に入っても全然眠れない。そんな体験はありませんか? 睡眠の質と時間を見直すだけで、人生は確実に変わります!

ナポレオンの睡眠時間は3時間、レオナルド・ダ・ヴィンチやトーマス・エジソンもショートスリーパーだったなど……。睡眠と人間の能力を直接結びつけるような逸話は多い。しかしこれは睡眠が科学的に研究される以前の単なる伝説の類。近年は日本人の睡眠時間の短さが負債のように溜まっていく「睡眠負債」が指摘されている。実は私たちの睡眠時間と健康について医学的に明らかになったのは21世紀になってからなのだ。
実際にはどのぐらいが適切なのか。睡眠障害の研究と治療に40年ほどあたってきた東京足立病院院長の内山真さんに話を聞くと——。

「最近の調査で、高血圧や糖尿病、高脂血症、うつ病、認知症が睡眠時間と関係しているということが明らかになってきました。6時間から8時間ぐらいの人が生活習慣病にも心の病にも、そして認知症にもなりにくいというのです。短すぎるのや長すぎるのはよくありません。睡眠時間を4時間に短縮したところ血糖値のコントロールが悪化したという実験結果があります。一方で、睡眠は長いほど健康によいと思われていましたが、9時間以上という睡眠の長い人は、通常の睡眠時間の人や短い人と比べて認知症になりやすいことが分かりました。65歳を過ぎてから1時間、2時間と睡眠時間が長くなった人は、変わらなかった人や短くなった人に比べて認知症罹患のリスクが高かったという調査結果があります」

実験的な睡眠不足で、翌日の血圧・心拍数ともに上昇した
Tochikuboら, Hypertension,1996(提供:内山真さん)

睡眠時間と糖尿病発症の相対危険度(男性 1139名16年間の追跡調査)
Yaggiら, Diabetes Care, 2006(提供:内山真さん)

さらに、睡眠時間は短くても長くても、うつ病になる危険度が高くなるという調査結果もある。

睡眠は長すぎてもダメ ふつうが一番

「睡眠時間はふつうが一番なんです。睡眠不足は問題ですが、睡眠時間をあまり欲ばる必要もないようです。たくさん眠りたいときもあると思いますが『あぁもうちょっと眠っていたいな』ぐらいで起きるのがよいと思ってください」

だからといって、毎日適切な睡眠時間を実現しようとしても、できないこともある。

内山さんがすすめる 快眠法は簡単だ。
① 「夜の時間をゆったりと楽しみ、眠くなってから床につく」
② 「眠れなかったら、起きてリビングルームなど別の部屋に行く」

いずれも眠りにこだわりすぎないというのがベースになっている。
眠れないと悩む人には心が軽くなる言葉に聞こえる。

がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、精神疾患を招く睡眠時無呼吸症候群

働き盛りの人に心配なのが睡眠時無呼吸症候群だ。睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まったり、浅く弱くなったりすることで、日常生活にさまざまな障害を引き起こす疾患。体内に酸素が足りない状態が続けば、心臓や血管に負担がかかり、夜間突然死や、心不全、脳卒中、心血管障害などのリスクがある。さらに認知機能への影響により、交通事故や集中力・記憶力の低下、日中の眠気、生産性の低下、うつなども発症しやすくなってしまう。

「睡眠」と「呼吸器内科」が専門の「RESM新横浜」理事長の白濱龍太郎さんに話を聞く。白濱さんは、睡眠時無呼吸症候群の診断と治療のエキスパートだ。

「体が酸欠状態になっているため、細胞が『酸素がなくても生きていける細胞』に変化して増殖を始めてしまい、がん細胞が増殖しやすくなり、がんのリスクもあります。がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、精神疾患の5大疾病すべてに睡眠の異常が関わっていると考えてほしい」
もし職場で自分のパフォーマンスに対して不本意だなと感じたり、本来の力が発揮できずミスがあったりしたら―。
「そんな時は、『最近の睡眠はどうかな』と睡眠を振り返ってほしい。メンタルが落ちたらまず睡眠、というように関連づけて睡眠を考える癖をつけてほしいです。
<家族からいびきが大きいと指摘された><高血圧や糖尿病がある><朝起きた時から頭重感がして、午前中に眠気がある>この3つの症状がある人は要注意です」
気になる人はまずは検査を受けよう。

白濱さんおすすめの「人生を変える睡眠力の上げ方」を紹介しよう。

① ぐっすりストレッチ

床に就く前に、首回しと、肩甲骨ほぐしをしよう!

◆首を横にひねり上げ下げする(3回程度)。反対側も同じように。

◆両肩に手を置き、右ひじ左ひじと交互に前回し。3回ずつ。後ろ回しも同様に。

② 首を温める

夕方以降は首回りがゆったりした衣類に着替えて、首回りを温めよう。入浴する場合は、浴室から出て1時間半を過ぎると体温が下がり始めて睡魔がやってくるので、寝床に入る時間から逆算して入浴しよう。

③ 夕食は就寝の3時間前までに済ませる

寝る直前のお酒は、睡眠の質の低下につながるので避けよう。

④ 睡眠環境を整える

寝室は暖色系のもので統一し、就寝時は照明を落とす。寝室にスマホを持ち込むのは避けて、スマホやパソコンなどブルーライトの光を浴びるのも就寝1時間半前からやめよう。

⑤ 昼寝を有効利用、Let’s「カフェインナップ」

13時から15時の間の30分間昼寝をすることではその後の作業のパフォーマンスを上げることができる。
カフェインの覚醒効果は飲んでから20、30分後ぐらいで現れるので、昼寝前に1杯飲む「カフェインナップ」をしてみては?

実際に三菱地所では仮眠30分で生産性向上を狙う「パワーナップ(短い昼寝)制度」を導入している。

移転(2018年1月)をきっかけに設置された三菱地所本社ビル内の仮眠室

街に出れば、睡眠と向き合える場所もある。『ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿』だ。

施設写真

ネスカフェ 睡眠カフェ in 原宿
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-22-8 ネスカフェ原宿店内
営業時間 11時~20時(最終受付19時)
https://suimin-cafe.jp/

最後に白濱さんからのビジネスパーソンに向けてのメッセージで締めよう。
「私もワーカホリックで、睡眠に意識を向けていなければ、仕事が続けられていなかったと思います。休憩や睡眠をとる時間が無駄だという人もいるかもしれない。でもそんなわけない。進化の過程で睡眠がなくならなかった理由がしっかりあるのです。睡眠を投資と考えてほしい。リターンは必ずあります。睡眠投資が仕事のパフォーマンスを上げ、病気を予防し、幸せな人生へと導いてくれるのです!」

内山真さんが座長を務めた「健康づくりのための睡眠指針2014」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

プロフィール

内山真さん
うちやま・まこと。東京足立病院院長。日本大学客員教授。東邦大学客員教授。
東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~2020年)、日本睡眠学会理事長(2017~2021年)、日本大学医学部付属板橋病院睡眠センターで外来診察も担当する。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成にあたり検討会座長を務めた。
『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)『睡眠のはなし』(中央公論新社)など著書多数。

白濱龍太郎さん
しらはま・りゅうたろう。横浜市にある睡眠・呼吸メディカルケアクリニック『RESM新横浜』理事長。慶應義塾大学特任准教授、福井大学客員准教授、順天堂大学非常勤講師、北里大学非常勤講師、武蔵野学院大学客員教授。日本オリンピック委員会強化スタッフ。
日本睡眠学会専門医、日本内科学会認定医、日本医師会認定産業医、米国睡眠学会学会員。
『ぐっすり眠る習慣』、『ぐっすり眠れる×最高の目覚め×最強のパフォーマンスが1冊で手に入る 熟睡法ベスト101』、『睡眠専門医が考案したいびきを自分で治す方法」、「病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』(いずれもアスコム)、『人生が劇的に変わる睡眠法』(プレジデント社)など著書多数。