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2023.05.25

映画・ドラマ・動画配信・・・ビジネスパーソンにおすすめBEST3

若手社員が見るべき「仕事と人生」がテーマの物語

「仕事と人生」をテーマにした映像作品は多い。人を描く物語は、仕事と密接に絡み合うことが多いからだ。とくだん若手社員は、仕事とは何か?人生とは何か?と立ち止まって悩むときもあるはず。そんなときに何かのヒントを得られるような3本の作品を選びました。

働き者の料理人が抱く野心~Netflix タイ映画『ハンガー』

タイの高級レストランを舞台にしたNetflixオリジナル最新映画『ハンガー:飽くなき食への道』は、一見すると料理人のサクセスストーリーのようであり、アジア作品の王道である格差社会をテーマにしているとも言えるが、ありふれた話を扱っているだけではない。仕事を通じた自己実現の欲求を鋭い視点で描いている。タイトルの「ハンガー」は食への飢えと野心の2つの意味を持つ。

物語は、20代の主人公アオイの視点から主に語られる。演じるのはタイで最も注目を集める若手女優でモデルのチュティモン・ジョンジャルーンスックジンだ。働き者で、思いやりのあるアオイを好演している。

若さと料理の才能を持つアオイだが、バンコクの旧市街にある実家兼食堂でタイ風焼きそばをひたする作る日々のなかでは自分でもそれに気づかない。そんな彼女に転機が訪れる。タイ随一の高級料理店「ハンガー」に引き抜かれ、トップシェフのポール(ノパチャイ・チャイヤナーム)の下で働くことになる。

夢のような職場を手にしたとき、アオイが発した台詞は特に印象的だ。「特別な存在になりたい」と彼女は言う。独創的な料理を提供し続け、成功者として人々に崇められるポールを意識した言葉であり、実に現代的で野心に満ち溢れている。ただし、危険な匂いも漂う。

畳み掛けるようにアオイに試練が襲ってくる。パワハラ体質のポールに、ヒエラルキー型組織の料理店の内部、さらにセレブやエリート、政治家たちが求める食事は見栄を張るためのものであることを知る。極端な描き方ではあるが、アオイが家族と営んでいた食堂とは真逆の世界であることは確かだ。

アオイが抱いていた仕事に対する野心は、彼女にとって本当に追い求めるべき価値があるものなのか。この問いかけこそ、作品の核にある。

Netflixが3月にソウルで開催した第1回APACフィルムショーケースの会場で、メガホンを取ったシッティシリー・モンコンシリー監督に直接話を聞く機会も得た。作品に込めたメッセージを確かめると「私たち人間は実際に何に飢えているのか、満腹になることはあるのか。そんな疑問を投げかけている」という答えが返ってきた。

食を通じて表現した人間の欲望は「現代社会の人々が直面している問題でもある」ともモンコンシリー監督が指摘していた。実際に自分事として考えさせられる台詞が多々ある。そんななか、渇望し続けたアオイがラストで辿り着く答えは、心を満たすものになっている。

『ハンガー: 飽くなき食への道』Netflixにて独占配信中。
尺:2時間10分/制作国:タイ/出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、ノパチャイ・チャイヤナーム、ガン・スワスティ

米倉涼子と松本穂香が演じるプロフェッショナルな仕事~Amazonプライム・ビデオ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』

プロフェッショナルな仕事とは何か。Amazonオリジナルドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』は、そんなシンプルな問いかけにまっすぐ応えてくれる作品だ。

米倉涼子演じる国際霊柩送還士の伊沢那美が、国境を越えて遺体を遺族の元へ送り届ける仕事に全力を尽くす姿は何より印象的。「必ずご遺体とご遺族に最期のお別れをさせてあげる!」という台詞は彼女の前向きなキャラクターを言い表す。

毎話、海外で起きた大きなニュースの裏側で犠牲になった邦人や旅行中に事故や病気で亡くなってしまった人を取り上げながら、故人の死に隠された秘密や遺族の事情にも迫っていく。そこで那美はどう動くのか。ときに強引だが、プロ意識に触れることができる。

那美はまた、仲間たちにも恵まれている。東京・羽田国際空港に事務所がある「エンジェルハース」女社長としての顔も持ち、共に働く国際霊柩送還士のメンバーには、松本穂香、遠藤憲一、城田優、矢本悠馬、野呂佳代、徳井優らが演じる多様な顔ぶれが揃う。

松本が演じる新入社員の高木凜子は、那美とはある意味正反対の性格で、ドライで合理的な今どき女子だ。凜子の目線で国際霊柩送還士という聞き慣れない仕事そのものを理解することもでき、そしてまた仕事を通じて自分の居場所を見つけていく若者の姿も描かれている。共感しやすいキャラクターだ。

ストーリーよし、キャラクターよしの背景には、第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した佐々涼子による同名タイトルの小説を原作に、Amazon Original ドラマとして新たに書き下ろし、作られている作品であることも大きい。『コンフィデンスマン JP』シリーズや現在放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』を代表作に持つ古沢良太を筆頭にした脚本家チームが手掛けている。

死に直面する厳しさと、仕事を通じた生きる喜びを同時に味わえる作品であることは間違いない。

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』Amazonプライム・ビデオにて独占配信中。全6話。
出演:米倉涼子、松本穂香、城田優、矢本悠馬、野呂佳代、織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)、鎌田英怜奈、徳井優、草刈民代、向井理、遠藤憲一ほか

仲間と共に成長するお仕事ドラマの最高傑作~Netflix 韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』

新人弁護士が仲間と共に成長していく話が実に清々しい。Netflix韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は世界中から共感を呼び、お仕事ドラマの最高傑作と言い切れるほどの作品だ。

演技派の韓国女優パク・ウンビン演じる主人公ウ・ヨンウは、発達障害の一種である自閉スペクトラム症を抱えるが、天才的な頭脳を持ち合わせる。そんな彼女が大手法律事務所の新人弁護士として働き始める話から始まる。周囲には偏見や悪意を向ける人物もいるが、全体的に優しい世界観に包まれている。

ヒットドラマの条件にあるキャラクター力も強い。ウ・ヨンウの愛くるしさは劇中で繰り返される「私の名前は逆から読んでもウ・ヨンウ。キツツキ、トマト、スイス……」という自己紹介の台詞にもよく表れている。好物はキンパ(海苔巻き)、無類のクジラ好きという設定が活かされたシーンも程よく散りばめられている。ウ・ヨンウの魅力を語れば、尽きることはない。

劇中では彼女を取り巻く仲間の人間性も繊細に描かれている。最初は戸惑いながらも次第にウ・ヨンウの頼れる味方になる先輩弁護士チョン・ミョンソク(カン・ギヨン)や、ウ・ヨンウと惹かれ合っていくイ・ジュノ(カン・テオ)、ウ・ヨンウの理解者の1人である同僚のチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)、ウ・ヨンウの親友トン・グラミ(チュ・ヒョニョン)などそれぞれ魅力的な人物像が多い。仲間との関わり合いのなかで成長していくウ・ヨンウの姿を見守ることができる

また法廷ドラマとしては現実を直視する社会派な面もみせる。白黒はっきりさせる裁判結果だけに集中させず、裁判を通じて登場人物たちに気づきを与える構成力にも優れている。

「ひとたびウ・ヨンウが事件を担当すれば、視聴者がこれまで見たことのないような展開になる」と、脚本を担当したムン・ジウォンが語っている通り、期待を決して裏切らないドラマなのである。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』Netflixにて独占配信中。全16話。
出演:パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギヨンほか。

ライタープロフィール

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文/長谷川朋子
1975年生まれ。コラムニスト、ジャーナリスト。東洋経済オンライン、朝日新聞などで作品レビュー多数執筆。得意分野はコンテンツビジネス国際展開事情。著書に『Netflix戦略と流儀』(中公新書ラクレ)。