ライフスタイル企画

2023.06.08

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.2

デジタル時代を生き抜き、人生を豊かにする
「リスキリング」を学ぶ3冊

AIやChatGPTなどがビジネスの基本ツールになる日も遠くなさそうな昨今、かつて学んだ知識と実務経験の積み重ねだけでは新時代を切り開く担い手にはなれそうにない。そんな今注目されているのが「リスキリング」や「リカレント」というキーワード。「リスキリング」とは従業員が新たな役割や職務に適応するためにスキルを身につけること、「リカレント」はスキルアップや自己成長を目指した個人の継続的な学習を意味する。これらの重要性は感じつつも、どこからどう手をつければよいか途方に暮れている人は多いはず。この3冊で今、大人が取り組むべき「学び」の全貌を把握し、ファーストステップを踏み出そう。

大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」 
誰も頼れない時代に就職してから学び直すべき4つの力
大前研一著 プレジデント社(1,540円)

働き方改革やコロナ禍で残業時間が減り、その代わりに増えたのが家族や友人と過ごす時間に並んで、「学びの時間」ではないだろうか。オンラインの講座や大学院など、学びの機会も増えている。とはいえ業務上の必要性や個人的興味がなければ、なかなか腰が上がらないのも事実。そんなビジネスパーソンのために、今なぜリカレント教育が重要なのか、何を学ぶべきなのかを説くのが本書。
著者が強く訴えるのは、稼ぐ力をつけるためには年齢を問わず常に学び続ける必要があるということ。第1、2章でデジタル時代におけるリカレント教育の必要性を、第3章では日本の大学のリカレント教育の現状と課題を説き、第4章でリカレント教育先進国の北欧やドイツの事例を紹介。最後に新たな取り組みをしている日本企業の事例を紹介するとともに、働く人一人一人に向けても個人が身につけるべきスキルを紹介している。
本書はおもに政府や企業に向けて提言しているものの、「従業員だから関係ない」と思うべからず。自社の研修や教育の目的や必然性を理解することも学びの価値を高めるし、時には会社の制度の動きを待つことなく、自ら学びに行く姿勢が重要だと、本書を読めば気づくに違いない。

リスキリング超入門 
DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」
徳岡晃一郎・房広治共著 KADOKAWA(1,760円)

先の本で学び直しの必要性を痛感した人が、「では何をどう学ぶべきなのか?」と考えたときにおすすめなのがこちら。共著者はライフシフト分野の専門家・徳岡氏と、国際金融のプロとして活躍してきた房氏。ともに国内外での教育やビジネス経験を豊富にもつ。そんな二人がグローバルな視点で今の日本で働く人々に必要な視点を伝える。
本書で重要だとしているのは「四つのS」―シナリオ思考、スピード感、サイエンスマインド、セキュリティ感度。「シナリオ思考」とは、先行きが見えないVUCAの時代に、自分なりの未来仮説を立てることで、そのスキルを磨くための具体的な手法も紹介している。「スピード感」とはタイムマネジメントや決断力。「サイエンスマインド」はSTEM分野全般で、データに基づいた論理的思考力、仮説力なども重要だ。「セキュリティ感度」とは環境、災害、紛争などあらゆる危機に対する高い意識。これら「四つのS」に対して、最終章ではここからさらに、年代別にどこに主眼を置くべきかも伝えてくれる、懇切丁寧な一冊。
今グローバル社会で必要とされているのは、そして自分に足りていないのはどんな視点や発想なのか、取り組むべき道がくっきり見えてくる。

1日1ページ、読むだけで身につく
世界の教養365
デヴィッド・S・キダー他著 文響社(2,480円)

最後に紹介するのは、今すぐ学びの習慣をスタートしたい!というとき、確実に一歩一歩知識を授けてくれる本書。『ニューヨークタイムズベストセラー』にも選ばれた、本国アメリカでも人気の一冊だ。一日5分読むだけで、1年後に世界基準の知性が身につくという魔法の(?)仕組み。ベッドサイドに置いて寝る前に読んだり、通勤時間のお供にするなど、ルーティンに組み込むと続けやすそうだ。
月曜日は歴史、火曜日は文学、そして芸術、科学、音楽、哲学、宗教…と曜日ごとにテーマを設けているため、万遍なく脳を刺激してくれる。取り上げているテーマは西欧偏重ではあるが、グローバルにビジネスをするならこのバランスを知ること自体も、学びのひとつになるのかもしれない。
日頃、キャッチーなネットニュースと自分に都合のいいネタで構成されたSNSの情報にばかり触れがちな時代だからこそ、俯瞰的な視点や想像力を鍛える脳のエクササイズとして最適。すべての知識を覚える必要はない。豆知識が増えるだけでも会話が豊かになり、読書や芸術鑑賞、旅などもいっそう味わいが深まるだろう。が、せっかくなら興味を抱いた分野を深掘りしたり、現代社会に照らし合わせてイメージしてみるなど、幅広く学びに役立てたい。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイル、ウェルネスなどをテーマに雑誌やウェブ、広告、書籍などにて編集・執筆を行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。