ライフスタイル企画

2023.06.22

スタイリスト川上さやかの仕事服論

断言します!
一生ものの仕事服はない

スタイリストの川上さやかさんがビジネスパーソンの服装への疑問や迷いを解消し、背中を押すファッションエッセイ。明日の仕事服を選ぶのがラクになり、自信がもてるヒントを教わります。今回は「ベーシックな仕事服は何年経ってもずっと着ていいのか」について回答してもらいました。

「新入社員になったら一張羅のスーツが必要だ」「一人前になったら一生もののスーツで自分をさらにブラッシュアップ」などという言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。これらの言葉から、会社のドレスコードをクリアしていて、飽きずに長く使えそうなベーシックなデザインの仕事服は、一度納得いくものを買ったら、そのままずっと使えるだろうというイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか。
ですが、実は一生使える仕事服は存在しません。

仕事のここぞという場面に、がんばって手に入れた服が、自分を鼓舞してくれることがあるのは事実。けれど、どんなにベーシックなデザインだったとしても、時代の空気感やトレンド、自分の年齢や体型の変化に合わせて、定期的に更新していかなければならないのです。

例えば、20代の頃に着ていたスーツが、30代になった今でも着られたとしても、5年10年経つと、デザインの流行は変わってしまっているので、シルエットが古くさく見えてしまうのです。またどんなにスリムな人でも年齢とともに体の肉づき感は変わってくるので、服のいらないところにシワが出てしまったり、着心地が快適でない場合もあるかもしれません。
さらに、年齢を重ねるとともに、職場での立場も変わってくるでしょう。年相応の貫禄を演出するには、20代の頃に着ていたスーツでは力不足。仕事服は着用回数も多くなるアイテムなので、生地が摩耗したり消耗したりと物理的にくたびれてきてしまう問題もありますよね。このように、さまざまなところで“不具合”が出てきてしまいます。

どんな年齢でも、もし5年、10年同じものを着ている人がいたら、手持ちの仕事服の買い替えを検討されることをおすすめします。ファッションのトレンドだけの視点でいうと、ここ最近の流れでは、3年程度ならトレンドが大きく変わることはないので、3年を目処にクローゼットにある仕事服をチェックして、見直すのがいいでしょう。

買い替えをする場合におすすめしたいのは、「自分はこれまでこのブランドを愛用してきた」「私はこのサイズをいつも選んでいる」などの固定観念をいったん外すこと。年齢や役職も変わっているので、今の自分に最適な服を考え直す必要があるからです。

この点で、スタイリストの仕事として失敗してしまった経験がありました。私は20代、30代のモデルさんに服を着せることが多く、そのときに選んでいるようなブランドの服を何の気なしに40代のモデルさんに着せたのですが……大きな違和感を覚えてしまったのです。服のデザインは素敵だったし、スタイルのよいモデルさんだからサイズも入るのですが、モデルさんに対して素材感が安っぽく見えてしまい、さらにいまいち体にフィットしていなかったんです。そのときに、やはりそれぞれのブランドがターゲットにしている年齢層に合う服を選ぶことの大切さを改めて学びました。

どのように買い替えをしていけばいいか分からないという方は、これまでよりも少し上の年齢をターゲットにしたファッション雑誌や、百貨店やショッピングモールなどで、いつもより上の年齢向けのフロアやお店を見てみてください。そして実際にそういったブランドの服を試着してみると、“今の自分”にしっくりとくる服を見つけることができるはずです。

最後に、また違う視点で、買い替えをおすすめしたい理由を紹介しようと思います。それは、ここ最近の日本の気候です。夏は年々暑くなり、仕事服を着ているだけで汗だくになり疲れてしまうような猛暑日もありますよね。そんな状況で助けてくれるのが、接触冷感機能やマシンウォッシャブルなど機能性に優れ、進化した仕事服です。
数年前まで、服に機能性を求めるならデザインは妥協しなければならないことが多かったのですが、今ではどちらもうまく両立させたものが見つかります。ジャケットなのに洗濯機で丸洗いできて、シャツなのにアイロンがいらない……こんな便利なアイテムに出合えるのも数年ごとに仕事服を見直すからこそ。高機能なアイテムは、清潔感に繋がり、さらには職場における印象のよさにも繋がっていきます。
大金をかけて一生ものの服を買う必要はありません。ぜひ今の自分にぴったりの仕事服を探してみてください。

プロフィール

写真

川上さやか(かわかみ・さやか)
スタイリスト

ファッション雑誌『Oggi』(小学館刊)やファッションブランドのウェブコンテンツなどで活動するスタイリスト。大手銀行の社員からこの仕事に転身した異色の経歴の持ち主。シンプルでベーシックな中にもひとワザ効いたおしゃれさが光るスタイリングや、リアルな仕事服のコーディネート提案が人気。著書『おしゃれになりたかったら、トレンドは買わない。』(講談社刊)も好評発売中。instagram:@sk_120

イラスト/山口奈津 構成・文/高橋香奈子