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2023.07.27

映画・ドラマ・動画配信・・・ビジネスパーソンにおすすめBEST3

働き盛り世代に「癒し」と「勇気」を与えるストーリー

心のサプリメントになるような作品がある。登場人物たちのひたむきに生きる姿ややさしさに溢れた言葉が、明日への活力を養ってくれるのだ。毎日、がんばって働くあなたにこそ観て欲しい。「癒し」と「勇気」を与える3本のストーリーを選びました。

夢と声を失ったバレリーナ再生物語~映画『裸足になって』

バレエダンサー、フーリアの再起を描く映画『裸足になって』の舞台は北アフリカのイスラム国家、アルジェリアだ。日本からは遠い国、しかも不安定な社会情勢の中で暮らす少女の話だが、言語や文化を超えて、強いヒロイン像を感じとることができる。

冒頭、地中海の潮風を浴びながら、ひとりストイックに踊り続ける彼女は夢を追う少女に過ぎない。母親と二人暮らしの貧しい生活を支えるために働く必要はあるものの、一流のバレエダンサーになる未来が彼女を待ち構えているように見える。親友のソニアやバレエ仲間の前で見せる明るく屈託のない笑顔が尚更そう感じさせる。

だが、そんなフーリアを突如、不運が襲う。ある日から踊ることも声を出すこともできなくなり、当たり前だった日常が奪われてしまうのだ。失意に暮れ、孤独と寂しさ、そして障害を抱える彼女の再生物語はここから始まる。夢を壊され、生きる意味を見失ってしまったときに必要なものは何か。そんなことも問いかけてくる。

フーリアにとってその答えは、新たに出会った支援施設の女性の仲間たちから導き出されていく。彼女たちだってさまざまな事情を持ち、それでも生きることを決してあきらめず、今があることにフーリアは気づくのだ。自分だけを見つめていても見えてこなかったものなのかもしれない。時に、他者を見つめることで見えてくるものがあるように、フーリアは一歩ずつ歩き始める。自分が最も輝けるダンスとも再び向き合い始めていくのだ。

ともに手を取り合う仲間たちの存在が彼女を癒し、勇気づけていくこともこの作品の美しさである。気持ちを手話で伝える会話が、その美しさをより一層印象づけている。フーリアの心に再び芽生えていく強さが手に取るように伝わってくるのだ。この作品の製作総指揮を務めたのが、第94回米国アカデミー賞で耳の聞こえない「ろう者」の男性として初めて演技部門を受賞した『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァーであることを聞くと、なおのこと納得できる。

また物語の構想から手掛けたムニア・メドゥール監督はドキュメンタリー出身者とあって、リアリティさも申し分ない。実際に、信ぴょう性を持った人物像を構築していくために情報収集を積み重ねていったという。なお、フーリアを演じたアルジェリア出身のフランス人女優リナ・クードリは、メドゥール監督の初長編作であり、第72回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出された『パピチャ 未来へのランウェイ』の出演からの縁になる。

今回の作品『裸足になって』でヒロイン像が丁寧につくられているのは、わけがあるようにも思う。自分の中にもフーリアがいることに気づかせるためではないか。そして、自身と重ね合わせることによって、今できることを今一度見つめ直すきっかけまで与えてくれそうだ。

『裸足になって』配給:ギャガ 原題:HOURIA/99分/フランス・アルジェリア
©THE INK CONNECTION - HIGH SEA - CIRTA FILMS - SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA - LES PRODUCTIONS DU CH'TIHI - SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT
7月21日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

“普通”であることの心地良さを描く~Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』

人気漫画を原作にドラマ化した『舞妓さんちのまかないさん』も人と人の関わり合いに癒しがある。そして仕事の使命を貫く勇気をさりげなく伝える作品だ。2018年のカンヌ国際映画祭では映画『万引き家族』で最高賞パルムドールを、そして今年のカンヌでも手掛けた映画『怪物』が脚本賞を受賞するなど人間ドラマの名手である、是枝 裕和監督初のNetflix作としても知られる。

物語の主役は、故郷の青森を離れて京都にやって来た16歳の少女、キヨとすみれの二人だ。舞妓たちが共同生活を営む屋形で賄い料理を作るキヨを森 七菜が、将来を期待される舞妓さんのすみれを出口夏希が演じる。親友同士の二人が互いに助け合いながら祇園で共同生活を送る日常は見るだけでほっこりするが、それだけに終わらない。二人を取り巻く登場人物たちとの会話にも逐一温かみと生きる力を感じる。キヨとすみれにとって「生き生きできるのは、場所と人」であることを周りが理解しているからこそ、血のつながりはなくても、家族のような安心感を与えているのだ。

その周囲の面々には、豪華な俳優陣を揃えている。先代女将役の松坂 慶子に、女将役の常盤 貴子、人気ナンバーワン芸妓役の橋本 愛や出戻り芸妓役の松岡 茉優、先輩舞妓・つる駒役に福地 桃子の名前が並ぶ。そして、屋形のバーテンダー役にリリー・フランキー、舞妓の身の回りの世話をする男衆(おとこし)役に北村 有起哉、バーの常連客役には尾美としのりが起用され、どの登場人物にも奥深さがある。

このドラマの第2の主役はキヨが作る親子丼や豚汁、茄子の煮びたし、梅干である。食材の買い出しから調理の過程が始まり、「おあがりやす」「いただきます」と言葉を交わして食べるまで、実に味わい深く映し出す。お腹を空かせて観るときは要注意である。これだけおいしく見えるのは、キヨがまかないを誰にとっても「普通」の料理にすることを守り、貫いていることが大きい。それが素敵な普通の日常が生まれる原点を作っているのだ。

Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」独占配信中
©小山 愛子・小学館/STORY inc.
全9話/ショーランナー・筆頭脚本家・監督:是枝 裕和/プロデューサー:Genki Kawamura/出演者:森 七菜、出口 夏希ほか。

必要なのは“小さな勇気”⁈ 癒しドラマの傑作~韓国ドラマ『私の解放日誌』

三つ目の作品には韓国ドラマ『私の解放日誌』を挙げたい。退屈な人生からの解放を願う男女の心の動きをじっくり丁寧に描く傑作だ。今年3月に発表された韓国の総合芸術賞「第59回百想芸術大賞」でテレビ部門脚本賞を受賞した実績を持つ。

高い評価を受けている理由は、この作品ほど平凡な毎日を繰り返す男女のリアリティを描いているものはないからかもしれない。「とくに大きな問題があるわけではないが、なぜ幸せではないのか」という意表を突くような疑問がこの作品の大きなテーマにある。そして、この疑問に真摯に向き合う物語が展開されている。

主人公はサンポ市という架空の郊外の街に住む三十路超え三兄弟。この街での暮らしが不満の種の一つにある。安月給ゆえの実家暮らしで、しかも勤め先があるソウル市内まで片道1~2時間の電車通勤を余儀なくされる毎日を過ごしているからだ。ソウル生まれでないことに劣等感すら感じていることが会話の節々から伝わってくる。

三人兄弟の一番上の長女役は個性派女優のイエル、二番目の長男役はモデル出身のイ・ミンギ、そして末っ子の次女役は清純派のキム・ジウォンが演じ、物語の前半はそれぞれの人物像と退屈な日常を描くことに割かれている。話が展開していくカギは、この作品でブレイクしたソン・ソックが好演した謎の男ク氏にある。

このク氏に向けて次女が「私を崇めて」と告白する言葉の意味を知れば知るほど噛み応えがある。同時に、徐々に動き出す長女と長男の小さな勇気の積み重ねもじんわりと心に刺さってくる。タイトルにある「解放」がキーワードになり、これまでの感情のない人生の苦しみから解放されていく彼ら彼女たちの姿を見届ける価値は十分にある。

脚本は人気ヒューマンドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』を代表作に持つパク・ヘヨンが手掛け、監督はハートフルドラマが得意なキム・ソギュンという強力タッグだ。ひとつひとつの台詞をじっくり味わっているうちに、不思議と癒される。そんな作品だ。

Netflixシリーズ「私の解放日誌」独占配信中
出演:キム・ジウォン、ソン・ソック、イエル、イ・ミンギほか。

ライタープロフィール

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文/長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
1975年生まれ。コラムニスト、ジャーナリスト。東洋経済、朝日新聞などで作品レビュー多数執筆。得意分野はコンテンツビジネス国際展開事情。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。