ライフスタイル企画

2023.09.07

旅企画「目的旅のススメ」

知的好奇心を満たす大人の社会科見学へ

食、産業、歴史など、体験型の旅の人気が年々高まっている。ただ滞在するだけではなく、地域の郷土食や伝統文化、受け継がれてきた産業に触れたり、そこにしかない唯一無二の施設に訪れたり。ほんの少しでも“非日常”を味わうことは、大きなリフレッシュ効果を生むだけでなく、知的好奇心をくすぐる刺激となり、日常に役立つ“ヒント”を与えてくれるきっかけになることも。暑さが落ち着いてくる今日この頃、自身のアンテナ感度を高め、学びある旅へと出かけたい。

写真提供/国土交通省江戸川河川事務所

“地下神殿”とも称される世界最大級の地下放水路、『首都圏外郭放水路』を歩く

埼玉県・東部の街、春日部市。かつては日光街道の宿場町として賑わったこの街だが、近年は“神殿のある街”としての方が有名かもしれない。

国内外から訪れる多くの人のお目当て、“神殿”とは地下50mを流れる世界最大級の地下放水路、『首都圏外郭放水路』のある一角を指す。

写真提供/国土交通省江戸川河川事務所

2006年に完成して以降、インフラツーリズムの観光資源としても注目され、早くから一般見学を開催。また、アーティストのミュージックビデオほか、多くのメディアでも取り上げられたこともあり、一度は目にしたことのある人も多いだろう。

巨大水槽内の空間に整然と太い柱が立ち並ぶ様子は、神秘的で荘厳な雰囲気を放ち、“地下神殿”と呼ばれるにふさわしいほど、観る者を圧倒する。

写真提供/国土交通省江戸川河川事務所

2018年8月からは、社会実験として民間企業と協力し、より集客を本格化。これまでに50万人を超える人々が訪れている。

だが本来の役割は、周辺の中川や綾瀬川が洪水になりそうな際、江戸川へと排水することで浸水する家屋の戸数や面積を減らすことにある。実際、『首都圏外郭放水路』の完成により、長年悩まされてきた洪水・浸水の被害は大きく軽減。今も周辺に暮らす人々の生活を守っている重要な施設だ。

写真提供/国土交通省江戸川河川事務所

そんな施設の役割をより深く理解できるのが、誰でも参加できる見学コースだ。設定されているコースは4つあり、どれに参加しても『首都圏外郭放水路』の壮大さを体感するには十分。ただ、全コースいずれも階段約100段の昇り降りがあるため、自力で歩行できることが参加条件となる。※子供は不可。

おすすめは、“地下神殿”と呼ばれる「調圧水槽」、巨大な竪穴「第1立坑」、心臓部の「ポンプ」、最奥部にある「インペラ(羽根車)」、すべての見どころを網羅した約110分の「インペラ探検コース」。

腿まである長靴を履き、ヘッドライト付きのヘルメットをかぶって深さ50cmの水の中を歩けば、気分はもう冒険者だ。

写真提供/国土交通省江戸川河川事務所

複雑な概要や仕組みは、まず最初に学びの施設「龍Q館」でコンシェルジュが分かりやすく説明してくれるので、安心。

台風など水害に対する関心が高まるシーズンに、理解を深めておくためにも訪れたい。

『首都圏外郭放水路』

〒344-0111 埼玉県春日部市上金崎720
☎ 048・747・0281
開催日:毎日 ※施設点検日等により休止の場合あり
開館時間:10時~16時
見学料:「地下神殿コース」約60分1,000円、「ポンプ堪能コース」約100分2,500円、「立坑体験コース」約110分 3,000円、「インペラ探検コース」約110分4,000円
※事前予約制(WEBサイト、もしくは電話で申し込み)

飛行機を間近で見られるまたとないチャンス! 『ANA Blue Hangar Tour』

浜松町と羽田空港を結ぶ東京モノレール。その路線上、「羽田空港第3ターミナル」駅と「羽田空港第1ターミナル」駅の間にある「新整備場」という駅をご存じだろうか。

周辺にはカフェなども一切なく、駅の利用者のほとんどは航空関係者。多くの人にとっては、ただ素通りするだけの駅だが、実はこの駅こそ、ANAの機体工場見学ツアーの最寄り駅。

駅から歩いて約15分。巨大な物流倉庫のような外観のビル1階に設けられた受付には、ツアー時刻が表示されたディスプレイが掲げられ、まるで空港のチェックインカウンターのよう。

手続きを済ませれば、これから本当に旅に出るような、そんな錯覚に陥ってしまう。

1969年からスタートしたANAの機体工場見学ツアーは、2022年4月にリニューアル。安全運航を支える「整備部門」、その実際の整備工程の一端を体験できる施設が加わった。

ツアーはまず、ANAグループの整備部門“e.TEAM ANA”が普段、どういった作業をしているかが分かる映像を観て、理解を深めるところからスタート。

期待がより高まったところで、いざ格納庫見学へと出発。どんな機体があるかは、その時々によるため、お目当ての機体に出合うまで、何度も通う人もいるとか。

最大7機が格納できるという第1号格納庫。それを3階デッキから眺めると、まずその広さに度肝を抜かれる。まるで巨大な映画セットに迷い込んだかのようだ。

1階フロアに降りたあとは、実物大の飛行機と整備士が働く姿が間近に迫る。時折、格納庫の外に目をやれば、飛び立ったばかりの飛行機が青い空を昇っていく姿に目を奪われる。

エンジンの迫力、美しい翼、そして凛々しい顔まで、シャッターチャンスがありすぎて、カメラを手放す時間もなく、格納庫見学の60分はあっという間。「もっと見たい!」という気持ちがリピーターを生むのも納得だ。

再びビルへと戻ったあとは、展示ホールを自由に見学。

原寸大模型の垂直尾翼や実物のフライトレコーダーを見られたり、国際線ビジネスクラスのシートに実際に座ったり。ここでも貴重な体験ができ、ますます好奇心が掻き立てられる。

また、ANAにはここ以外にも、客室乗務員や整備士などの訓練施設『ANA Blue Base』が見学できるツアーもある。飛行機好きなら、一度は訪れたい夢の見学ツアーだ。

『ANA Blue Hangar Tour』

〒144-0041 東京都大田区羽田空港3-5-5
開催日:火~土、日月祝・年末年始休(月曜日が祝日の場合は、翌平日も休館)
開催時間:9時30分~11時/11時~12時30分/13時30分~15時/15時~16時30分
料金:無料
※事前予約制(申し込みはインターネットのみ)

鋳物の町、高岡を代表するメーカー『能作』で日本が誇る“モノづくり”の現場に立ち会う

江戸時代から続く鋳物の産地、高岡市に拠点を置く鋳物メーカー『能作』。酒器や花器など、洗練されたデザインと職人による手仕事が生み出す美しい製品は、贈り物としても高い人気を誇る。

2017年に本社工場をJR新高岡駅から車で約15分の場所に移転、拡大。約4,000坪の敷地内には、新たにショップやカフェも併設し、“鋳物の町”を盛り上げている。

中でも、年間13万人が訪れるのが本社工場で行われているファクトリーツアーだ。1日に5回行われ、各回大盛況。

約30分という限られた時間とはいえ、鋳物場から仕上げ場まで、実際に職人が作業するすぐ横で “ものづくり”を体感できる経験は貴重だからだろう。

©車田保

ちなみに、ツアーガイドを担当するのは、『能作』の社員たち。外部委託をしないという選択には、高岡で400年にわたり受け継がれてきた鋳物の歴史、職人の技、自社の製品への強い誇りが感じられる。

『能作』で扱う鋳物は真鍮、錫の2種類。ツアーのクライマックスは、やはり金属を流し込む鋳物場での鋳造シーンだ。金属によって工程が分かれているのも興味深い。

型から外れ、崩れた砂の中から輝く製品が現れると、歓声が上がる。

仕上げ場では、それらを滑らかに磨き上げ、製品へと加工していく。どの工程にも必ず職人が携わっており、その熟練の技に思わず見入ってしまう。

ファクトリーツアーを終えたあとにぜひ参加したいのが「鋳物製作体験」。生型鋳造法という砂を押し固めて鋳型を作る方法で、ぐい呑みや小鉢、箸置きなどの錫製品を自身の手で作ることができる。

©車田保

完成までの工程を見学したあとだけに、作る難しさや鋳物の特性の理解がより深まるはずだ。

世界に一つのオリジナル作品を手土産に自宅に持ち帰れば、使うたびに想い出が蘇るに違いない。

『能作(のうさく)』

〒939-1119 富山県高岡市オフィスパーク8-1
☎ 0766・63・0001
開館時間:10時〜18時(カフェはLO17時30分)
休館日:年末年始(工場見学は日祝休。土曜は不定休)
工場見学開催時間:11時/13時/14時/15時/16時
見学料:無料
※事前予約制

『鋳物製作体験』
参加料:30分コース1,000円〜、90分コース3,000円〜 ※作るもので異なる。
10/1〜価格変更予定
※事前予約制

構成・文/一寸木 芳枝