仕事の悩みを吹き飛ばしてくれるようなエンタメは明日への活力を養う。作品の中で繰り広げられる本音のトークや心に響くメッセージが視野を広げてくれることもあるはず。毎日がんばる中間管理職の皆さんのために、エネルギーチャージができる3本をお届けします。
星野 源と若林 正恭の上質トークにある「悩み」を解決する力
まさに“悩み”をテーマにした番組が「LIGHTHOUSE」〜悩める2⼈、6ヶ⽉の対話〜」だ。登場するのは、⽇本を代表するトップクリエイターとして活躍する星野 源と若林
正恭(オードリー)の2人だけ。2022年秋から2023年春の期間に⽉に1度、共に語り合った心の機微が記録されている。
総合演出した、同じくトップクリエイターの佐久間
宣行は、星野と若林は2人揃って「悩める⼈々の足元を照らす灯台でありながら、⾃分たちの⾜元は暗そう」だという。そんな意味を込めて、タイトルにもある「LIGHTHOUSE」を番組限定のユニット名として与えられた2⼈には共通点がある。
感性が高く、人への思いやりがあるゆえに悩みが深いのだ。
全6話の1話目から「大人になっても一向にストレスが減らない」という悩みを星野が打ち明けると、若林が「(ストレスが)ない振りをしないと、社会に受け入れてもらえない」と、掘り下げる。それは天才ゆえの悩みに留まらないもので、共感できる悩みである。「表現者としても中間管理職の年齢」だと話す若林の言葉にぐっと引き込まれていく人も多いだろう。
星野から「毎回、歌を作りたいなと思って」という発⾔も飛び出す。実際、星野が書き下ろした5曲の新曲が毎話のエンディングでライブパフォーマンスとして披露もされている。各収録で積み重ねられた会話からインスパイアを受けて作られた楽曲とあって、2人の言葉に共感した気持ちを再び歌を通じて、しみじみと味わいたくもなってくる。
2人の奥底にある思いを引き出していくような場所でトークが展開されているのも興味深い。かつて売れていなかった時期を過ごした高円寺の喫茶店から、東京の夜景が一望できるとあるホテルの一室まで振れ幅は広く、観客と呼応するライブステージでの会話も用意されている。そして、ラストに向けてドライブの車中では素顔も見せる。いちトーク番組を超え、2人の人生を垣間見ることができるような作りによって、自然と感情を揺さぶってくるのだ。
ラスト回の会話に辿り着くと、2人きりで話を続けてきたからこそ生まれたのだろうと思わせる言葉がちりばめられている。1つの悩みから解放された若林は「中年仕様の走り方が完成された」と清々しい表情を見せる。心がほどけるような星野の言葉も印象的だ。「今は共感されないしんどさも⼈⽣の伏線。今の悩みの中に
10年後 20年後の宝の地図がある」と語る。悩みを共感する力が次の未来を拓くことを教えてくれる番組なのである。
Netflix シリーズ「LIGHTHOUSE」〜悩める2⼈、6ヶ⽉の対話〜
Netflixにて世界独占配信中(全6話)
出演:星野 源・若林 正恭(オードリー)
企画演出・プロデューサー:佐久間 宣⾏
人気と実力を兼ね備えた米ドラマ「ホワイト・ロータス」の破壊力
ドラマ「ホワイト・ロータス /
諸事情だらけのリゾートホテル」は、仕事や人生の悩みを吹き飛ばしてくれるような破壊力のある作品だ。これまでシーズン1はハワイ、シーズン2はイタリアのシチリア島と、高級リゾート地を舞台にブラックコメディを展開してきた。良作揃いのアメリカHBOの中でも圧倒的な実力と人気を兼ね備えたシリーズなのである。
映画「スクール・オブ・ロック」を代表作に持つマイク・ホワイトが企画から制作総指揮、脚本、監督まで手掛ける。ホワイトの手にかかれば、優美なだけの楽園リゾートホテル物語に終わらないのだ。「ホワイト・ロータス」という架空のホテルでバカンスを過ごす裕福な宿泊客たちと、彼らをもてなすホテルの従業員たちの1週間を描くなかで、社会格差や権力主義、人生観など諸事情だらけの現実を辛辣に見つめながら、殺人ミステリーまで盛り込んでいる。これほど社会性と娯楽性、笑いと皮肉のバランスの取れた作品はないだろう。
デビュー作からその中身の濃さが絶賛された。ハワイを舞台にしたシーズン1は、ハネムーン中の若い美男美女のカップルに、成功したビジネスウーマンとその家族、母親の遺灰と共にやってきた傷心のおひとり様の女性のゲストという何やらそれぞれ問題を抱えていそうな登場人物に加えて、作り笑顔でいっぱいの従業員たちもそれに劣ることなく不快なキャラクターが続出した。そして、最後には不思議と勇気づけられるという後味のよさがある。
アメリカテレビ界の最高峰の賞と言われるエミー賞では2022年度のリミテッド・シリーズ部門ベストとなる作品賞を受賞したほか、ホワイトが監督賞、脚本賞を受賞、ジェニファー・クーリッジが助演女優賞、マレー・バートレットが助演男優賞と5部門を受賞し、プライムタイム・エミー賞での最多受賞作となった。
高い評価を受けて継続されたシーズン2も今年度の賞レースで受賞歴を伸ばしているところだ。勢いそのままにシーズン3の制作が進められているという。日常を程よく忘れさせ、さらにはエネルギーチャージできる上質な作品へのニーズは確実。
「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」
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U-NEXTにて見放題で独占配信中
転んだときに気づきを与える人生喜劇「良くも、悪くも、だって母親」
最後の1本は韓国ドラマ「良くも、悪くも、だって母親」を挙げたい。悩んでいる時は壁にぶち当たったような感覚になるものだが、この作品は発想の転換によって道は必ず開けるということを教えてくれる。
我が子のために悪い母親になって必死に生きる母ヨンスンと、突然の事故によって、野心あふれる検察官から子供の頃の精神状態に戻ってしまった息子ガンホを主役に、失った幸せを探すというストーリーが全14話の中で展開される。起伏の激しさと共に、奥深い人生喜劇の余韻が冷めないのがこの作品の良さである。
笑いと感動を余すところなく表現した演技も心地よい。母ヨンスンは舞台俳優から今や注目作に引っ張りだこの実力派ラ・ミランが、息子ガンホはNetflix大ヒットシリーズ「グローリー」をはじめ話題作に出演し続ける売れっ子かつ演技派のイ・ドヒョンが演じているとあって、ひとつひとつの台詞に重みがある。
ジャンルの枠組みを超えた展開がこれまた夢中にさせる。家族愛に復讐、サスペンス、さらにラブロマンスの要素も嫌みなく投入されているのだ。ガンホの幼馴染で恋人のミジュを演じるアン・ウンジンの自然体の演技とイ・ドヒョンの相性の良さは抜群で、爽やかな世界観を作り出した。
制作陣の実力も確かなもの。韓国で最も権威ある賞とされる百想芸術大賞でTV部門ドラマ作品賞を獲得した『怪物(原題)』のシム・ナヨン監督が演出し、映画『エクストリーム・ジョブ』でその手腕が認められたペ・セヨンが脚本を担当した。冒頭からメッセージ性に溢れ、文学的である。
母ヨンスンが養豚場を営む設定から、愛くるしい豚の姿が現れるその冒頭で流れるナレーションがこれだ。
「豚は顔を上げられない。地面だけを見続けなきゃいけない。豚が空を見られる唯一の方法。それは転ぶこと。そう、転んでこそ今まで知らなかった新しい世界が見られる。豚もそして、人間も」
たとえ失敗しても、行き詰まっても、私たち人間は視点を切り替える力を持っていることに改めて気づかせられる言葉である。
Netflixシリーズ「良くも、悪くも、だって母親」独占配信中
出演:ラ・ミラン、イ・ドヒョン、アン・ウンジンほか。
ライタープロフィール
文/長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
1975年生まれ。コラムニスト、ジャーナリスト。東洋経済、朝日新聞などで作品レビュー多数執筆。得意分野はコンテンツビジネス国際展開事情。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。