ライフスタイル企画

2023.11.16

旅企画「目的旅のススメ」

受け継がれる伝統。クラシックホテルで過ごす冬のホリデー

冬の足音が近づいてくるとともに、やってくるホリデーシーズン。 感謝祭、クリスマス、ニューイヤーetc. イルミネーションに彩られた街は高揚感に包まれ、 行き交う人の表情もどこかうれしそうだ。それはきっと、今年1年を無事に終えられるという安堵と、 もうすぐ迎える冬のホリデーに心躍らせているからかもしれない。帰省する人、自宅でゆっくり寛ぐ人、 海外でのカウントダウンに参加する人。どう過ごすかはそれぞれだが、ホテルステイ、という選択もある。

日本のクラシックホテルのパイオニア『富士屋ホテル』で歴史に触れる

ここ数年、都市部ではホテルのオープンラッシュが続くが、何も新しいだけがホテルの魅力ではない。 明治、大正、昭和、平成、そして令和という時代とともに、幾多のゲストと歩んできたクラシックホテルは、 その趣ある空間と積み重ねてきた歴史が今なお人を惹きつける。

今年1年を振り返り、来たる年に向けて英気を養う休日であれば、 伝統と革新を備えたクラシックホテルで過ごす、というのもひとつ。

箱根・宮ノ下で日本初の本格的なリゾートホテルとして誕生し、1878年に創業した『富士屋ホテル』。

創業から145年。大火、震災、第二次世界大戦、そして平成の大改修と、幾度となく荒波を乗り越えてきた 『富士屋ホテル』は、まさにクラシックホテルのパイオニアと呼べる存在だ。
建物や経営も日本式が当たり前だった時代に、洋館を建設。外国人ゲストをもてなすために、パンや肉類を取り寄せ、 洋式サービスを提供するといった先進性は、創業者である山口仙之助の海外経験が原点だったという。

見どころはたくさんあるが、とくに荘厳な建築群は“ホテル最大の個性”とも称され、細部に至るまで美しく、 時間を忘れてしまうほど見入ってしまう。

中でも1930年から愛されているメインダイニングルームは、その名前に“THE FUJIYA” と名付けられるほど、 「これこそまさにフジヤ」という強い思いを表現している。

日本アルプスの高山植物636種が描かれた天井高6メートルの折り上げ格天井、 欄間や柱にひそむさまざまな彫刻の下で味わえるのは、洗練された洋の味。 朝食はフルサービスブレックファスト、ランチとディナータイムは創業当時のレシピを受け継いだ 伝統的なフランス料理と、いずれも席に着いた瞬間からワクワクが止まらない。

「キャビアフラッペ」を皮切りに、鮑や伊勢海老など豪華食材を掛け合わせたフルコース 「創業145周年記念コース」(¥32,000)は、2024年3月31日までの期間限定。 “記憶に残る”料理として旅を盛り上げてくれる。

客室は2018年から約2年間、開業以来初となる本格的な大改修が実施された際に、すべてリニューアル。

1906年に建築された西洋館は、端正でシック。ヨーロピアンなしつらえの「ヒストリックデラックスツイン」は、 控えめながらもエレガントな空間で、心地よく過ごすことができる。

また改修では、スパやミュージアムを新設。 館内の隅々に息づくノスタルジーな趣はそのままに、“新生ホテル”として、さらなる未来に向け、歩みを進めている。

箱根旅行の際、ビジターとして立ち寄るなら、『レストラン・カスケード』へ。 1920年建築の旧宴会場を復元した空間では、名物のカレーを味わえるとあり、多くのゲストが訪れる。

レストラン自慢のコンソメを贅沢に使用した「ビーフカレー」(¥3,900)は、 牛乳で煮出したココナッツミルクとピクルスの漬け汁が隠し味。 ホテルカレーならではの芳醇でふくよかな味わいに酔いしれたい。

ヘレン・ケラー、チャーリー・チャップリン、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ夫妻など、 多くの著名人にも愛されてきた『富士屋ホテル』。

誕生からこれまでの道のりは館内の「ホテル・ミュージアム」でも触れることが可能だ。 貴重な資料や写真に知的好奇心を刺激されながら、歴史に思いを馳せる。そんな冬のホリデーにぴったりだ。

『富士屋ホテル』

〒250-0404 神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359
☎ 0460・82・2211
総客室数:120室
ヒストリックデラックスツイン1室2名利用1名あたり5万5,000円(税サ込み・入湯税別)〜

『メインダイニングルーム・ザ・フジヤ』
営業時間 洋朝食7時30分~10時(LO 9時30分)、昼食11時30分~15時30分(LO 14時)、夕食17時30分~22時(LO 20時※要予約)

『レストラン・カスケード』
営業時間 昼食11時30分~15時30分(LO 14時)、夕食17時30分~21時30分(LO 20時)

愛され続ける“文化遺産”としての使命を担う『東京ステーションホテル』

インバウンドが活況を見せる昨今だが、100年以上前も同様に、訪日外国人が急増。 宿泊施設の需要が高まるなか、誕生したホテルがある。

それが、エキナカという“最強の立地”を誇る『東京ステーションホテル』だ。

1915年に開業して以来、国内外の賓客はもとより、 多くのゲストに愛されてきた歴史あるホテルが位置する東京駅丸の内駅舎は、2003年に国の重要文化財に指定。

2007年から約5年間の保存・復原工事を経て甦ったその姿は、夜になるとさらに美しさを増し、 東京を代表するフォトスポットとしても有名だ。

『東京ステーションホテル』がその名を知られるわけは、その立地や歴史だけが理由ではない。 日本を代表する文豪たちにまつわるエピソードもまた、このホテルを特別なものにしている。

例えば1956年頃に度々逗留していた松本清張。名作『点と線』で描かれた時刻表を使ったトリックの着想は、 客室から見渡せたプラットフォームを見て思いついたといわれていたり。

また、川端康成も同じく1956年に1か月ほど317号室(現在の3081号室)に滞在し、 後に原節子主演で映画化された『女であること』を執筆。映画にも使われた客室は、 公開後に予約が殺到したという逸話が残る。

他にも推理小説家の江戸川乱歩は度々、明智小五郎と怪人の駆け引きの舞台にこのホテルの客室を選ぶなど、 多くの作品の中でも生きているのだ。

作家たちの創作意欲を掻き立てるほか、私たちゲストの「カメラに収めたい」という気持ちを後押しするのは、 館内の細かなディテールがいずれもフォトジェニックだからだろう。

東京駅丸の内駅舎の美しいドームレリーフ、品のあるエレガントな雰囲気たっぷりの階段など、 まるで美術館に迷い込んだような錯覚を覚えるほど。

客室廊下には、東京駅や丸の内、昔のホテル写真が100点ほどディスプレイされ、移動中すら目を楽しませてくれる。

ホテルスタッフが館内を案内しながらガイドしてくれる「プライベート館内ツアー付きプラン」もあり、 東京駅やホテルにまつわる歴史や物語を語り継いでいる。

ゲストルームは駅前広場、駅舎ドーム、丸の内の街並みなど、バリエーション豊富なビューから選ぶことができ、 滞在する度に部屋を替えるリピーターも。

ヨーロピアンクラッシックなインテリアもラグジュアリーな雰囲気たっぷり。 女性ひとり旅、記念日ステイなど、さまざまな旅のストーリーに寄り添ってくれる。

都心のど真ん中に滞在するという、ある意味で“非日常感”たっぷりの休日を過ごすならここへ。 まだ知らない、新しい東京が見えてくるかもしれない。

『東京ステーションホテル』

〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
☎︎ 03・5220・111
総客室数:150室
ドームサイドコンフォートキング1室2名利用6万4,610円(税サ込み)〜

良質な温泉と豊かな自然に恵まれた『雲仙観光ホテル』

古くから外国人避暑地として親しまれてきた長崎県・雲仙。 日本初の国立公園にも指定され、やわらかな温泉と美しい自然に旅人たちは今も変わらず癒されている。

そんな人気の観光地でもあるこの地に、1935年に開業したのが洋風建築の『雲仙観光ホテル』だ。 1954年には、雲仙を舞台にした映画『君の名は』のロケにも使用され、その名が全国的に知られることとなった。

ホテルの“顔”ともいうべき外観は、15〜17世紀のヨーロッパでよく用いられた木造建築、 ハーフティンバーのスイスシャレー様式をいち早く取り入れ、自然と調和する佇まいは、今なお色褪せない。

雲仙をこよなく愛したハンガリーの文化使節、メゼイ博士が「東洋的であり、西洋的であり、しかも何ら不自然さがない」 と語ったように、内観もまた、懐かしさを残しながら、どこまでもエレガントだ。

元々、船会社から始まったというホテルだけあり、大海原を航海しながら旅する客船を 彷彿とさせるディテールもそこかしこに。

メインダイニングを筆頭に、1500冊以上が並ぶ図書室、大人の社交場を思わせる撞球室、 そしてジャズが流れる心地よいバーに至るまで、重厚感がありながらも、リゾートらしい抜け感があり、 客室以外で過ごす時間も滞在時の醍醐味だ。

そしてもちろん、温泉も、このホテルを語るうえでは外すことはできない存在だ。 島原の乱の後に藩主となった松平忠房の命で湯守となった加藤善左衛門が湯宿を創業。 以来、約350年以上、雲仙は温泉地として栄えている。

『雲仙観光ホテル』では、源泉の湧き出し口の温度が93.5℃という、非常に高温の湯を加水して温度を調節。 1年を通じてやわらかな湯心地が、旅人の心と体を芯から温めてくれる。

改修を経て生まれ変わった温泉浴室は、ドーム型の天井とステンドグラス、アール・デコ調に配されたタイルが印象的だ。

温泉に癒され、ぐっすりと眠った翌朝は、200畳の広さを誇るメインダイニングでいただく朝食がお楽しみ。 やわらかな日差しの中、雲仙地鶏の卵を使ったオムレツやフレンチトーストをゆっくり味わう時間は、“非日常”そのもの。

身も心も満たされれば、充電は完了。ホリデー明けにまたがんばれるパワーが湧いてくるはずだ。

『雲仙観光ホテル』

〒854-0621 長崎県雲仙市小浜町雲仙320
☎︎ 0957・73・3263
総客室数:39室
オリエンタルツイン1泊2食付き(2名1室利用1名料金)6万500円(税サ込み)〜

構成・文/一寸木 芳枝