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2023.11.30

映画・ドラマ・動画配信・・・ビジネスパーソンにおすすめBEST3

もうひと踏んばり!
がんばりたいあなたを鼓舞する物語

2023年も残り僅かとなり、もうひと踏んばりがんばりたいときです。そんなあなたにおすすめしたいのは、仲間に助けられながら一歩を踏み出し、果敢に闘う物語。実話に基づく社会派感動系から、スポ根もの、そしてSFヒーローアクションまで、鼓舞してくれること間違いなしの傑作3選をお届けします。

BLM運動の原点は1人の母親の行動にあった~実話に基づく映画『ティル』

今から約70年前の1955年8⽉28⽇にアメリカ合衆国ミシシッピ州マネーで実際に起きた「エメット・ティル殺害事件」をもとに、初めて劇映画化されたのが『ティル』です。キング牧師らが率いた公⺠権運動を⼤きく前進させるきっかけとなった事件といわれています。

日本人にとって馴染みが薄い歴史の一部なのかもしれませんが、SNSを通じて全世界から関心を集めたBLM(ブラック・ライヴス・マター)運動の原点であることを知れば、見方は変わるのかもしれません。まさにこの物語は、これまで声をあげられなかった弱者たちが抑圧構造に疑問を投げかけ、勇気を出して立ち上がる姿を映し出しています。その行動の根底には何があるのか、普遍的な事実を見つめている作品なのです。

悲劇に巻き込まれた息子を思って行動する1人の母親の視点から物語が進んでいくため、その描き方からも共感を得やすいものにしています。母親のメイミーと、14歳の息子のエメット・ティルは平穏な日々を送っていましたが、事件はエメットが初めて生まれ故郷を離れ、黒人差別が色濃く残るミシシッピ州の親戚宅を訪れた際に起こります。飲⾷雑貨店で⽩⼈⼥性に向けて「⼝笛を吹いた」ことで⽩⼈の集団から怒りを買ってしまい、壮絶なリンチを受けたあとに変わり果てた姿になってしまったエメットと対面したメイミーは、この陰惨な事件を世に知らしめるため、ある⼤胆な⾏動を起こしていきます。これこそ社会を動かす原動力となっていくのです。

実話であることに驚きを覚えながら、エイミーの息子に対する深い愛情と、まっすぐな正義感がストレートに伝わってきます。何よりも、絶望が希望に変わっていく瞬間は見逃せません。

このメイミーを全身全霊で演じたダニエル・デッドワイラーは、ゴッサム・インディペンデント映画賞など数々の賞レースで⼥優賞を総なめしました。作品そのものも高い評価を集め、60以上の映画祭で21 部⾨受賞、86 部⾨ノミネートという輝かしい実績を残しています。また祖母役で出演するのは、アフリカ系アメリカ人の俳優として最も名高いウーピー・ゴールドバーグ。ゴールドバーグは本作の製作にも関わり、ほか製作スタッフには映画『007』シリーズを手掛ける⼀流陣が名を連ねています。エメットの犠牲と母親メイミーの勇気を伝える価値があることに必ずや気づかされるでしょう。

『ティル』
12月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
製作:ウーピー・ゴールドバーグ(『天使にラブ・ソングを…』)、バーバラ・ブロッコリ(『007』シリーズ)
監督・脚本:シノニエ・チュクウ
出演:ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、ショーン・パトリック・トーマス、ジョン・ダグラス・トンプソン、ヘイリー・ベネット
2022年/アメリカ/シネマスコープ/130分/カラー/英語/5.1ch/原題『TILL』/字幕翻訳:風間綾平/PG-12/配給:パルコ ユニバーサル映画 
©2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved. 

公式Xアカウント:@TILL_MOVIE1215

崖っぷち人生から横綱へとのし上がろうとする物語~Netflix『サンクチュアリ -聖域-』

続いて紹介するのは、Netflixドラマシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』です。若手力士「猿桜(えんおう)」こと、小瀬 清という名のやんちゃな九州男児を主役に、崖っぷち人生から横綱へとのし上がろうとする物語が全8話にわたって描かれています。痛快さ溢れる物語として、2023年に配信されたNetflix日本オリジナルの中で話題を集めた作品のひとつでもあります。

主役に抜擢された元プロ格闘家の一ノ瀬 ワタルや、猿桜を「君は土俵に生きるべき人間だ!」と励まし続ける清水を演じる染谷 将太、そして猿桜を見出し育てる猿将親方役のピエール瀧など、個性的な登場人物が続々と登場し、憎めないキャラクターばかりです。もがきながら生きる泥臭さに心打たれてしまいます。

また単なるスポ根ものに終わらせていないのは、リアリティある映像に理由があります。力士役の俳優たちは、撮影の1年前から肉体改造の専門家やプロのスポーツトレーナー、そして栄養士の指導を受け続け、さらに1年以上かけて行われた撮影中も適宜肉体を鍛え上げていったそうです。限りなく本物さながらの力士に近づけていき、撮影後は手厚く「減量プログラム」のケアが行われるなど、ハリウッド映画さながらの役作りが迫力ある相撲物語として仕上げています。ダイナミックなカメラワークで映し出された過酷な稽古現場や真剣勝負の取組には思わず息を呑んでしまうほど。両国国技館の土俵をオールセットで作り上げてしまう製作予算のかけ方もNetflixドラマならではの醍醐味です。

メガホンを取った江口 カン監督が「挑戦から始まり、挑戦だらけで、最後まで挑戦だった」とコメントする言葉からは、これまであるようでなかった大相撲の世界をドラマ化した意欲作であることが伝わってきます。1500年以上も継承され続けてきた日本の伝統文化である大相撲の世界の旧態依然とした状況に切り込んだ台詞も多く、きれいごとだけで終わらせません。土俵は異常の上に成り立っているからこそ、“聖域=サンクチュアリ”であることがきっと腑に落ちるはずです。

Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』独占配信中

人間ドラマも奥深いSFヒーローアクション、ディズニープラス『ムービング』

最後の作品はウェブトゥーン漫画『Moving-ムービング-』を実写化したディズニープラス韓国オリジナルのドラマ「ムービング」です。ヒューマンタッチが巧みな韓国らしいSFヒーローアクションの世界にどっぷり浸かれます。

主人公はクラスで地味な存在でありながら、実は空飛ぶ力を隠し持っている高校生のボンソク。謎の美少女転校生ヒスと出会い、二人が互いに特殊能力の秘密を共有して惹かれ合っていく微笑ましさの裏で、能力者を狙う脅威が迫ってきます。その背景には、二人が生まれる以前の1990年代に超能力者たちによるブラック・オプスチームという国家極秘任務の結成があるというヒーローものならではの壮大な物語も味わえます。

ボンソクというキャラクターを愛くるしい笑顔と抜群の演技力で魅せたイ・ジョンハは、この役作りのために30kg増量して撮影に臨んだそうです。またボンソクと息の合う演技を披露したヒス役のコ・ユンジョンは注目作の出演が続く女優の1人です。韓国ドラマファンにはお馴染みの豪華キャストも揃い、ボンソクの母親役は韓国時代劇「トンイ」などを代表作に持つハン・ヒョジュ、父親役はロマンス系作品で数多く主演を務めてきたチョ・インソン、そして韓国を代表するベテラン俳優の1人であるリュ・スンリョンはヒスの父親役として出演し、奥深い人間ドラマとしても楽しめる重要な役どころを担っています。

映画『ザ・メイヤー』やNetflixヒットシリーズ『キングダム』シリーズなどを手掛けるパク・インジェ監督がメガホンを取り、脚本は原作ウェブトゥーンの作者であるカン・フル自らが担当しています。クオリティの高さに納得がいく面々によって作られているのです。

超能力を持つ登場人物による迫力あるアクションシーンは見どころのひとつにありますが、動静のバランスが良く、印象に残る台詞が散りばめられているのも「ムービング」のよさです。なかでも、ヒスが超能力を持つことを「少し違って、特別なだけ」と、ボンソクに伝えた台詞は多様性を受け入れる作品の世界観を表しています。愛を知って能力を開花させ、大事な人を守り抜く姿の熱量の高さを否応なしに感じる作品です。

『ムービング』
ディズニープラス スターにて全話独占配信中
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ライタープロフィール

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文/長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
1975年生まれ。コラムニスト、ジャーナリスト。東洋経済、朝日新聞などで作品レビュー多数執筆。得意分野はコンテンツビジネス国際展開事情。著書に「NETFLIX戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。