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2024.10.10

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.13

食欲の秋を読書でも!
今こそ読みたい「おいしい本」3冊

BOOK REVIEW メインビジュアル

暑く長い夏もようやく終わって、食べ物のおいしい季節がやってきた。親しい友人や家族と秋の夜長にゆったりディナーを楽しむもよし、ワインやチーズをお供に本で「美食」と触れ合うのも魅力的だ。今回は食を題材にした小説2作と現代の食文化を丸ごと教えてくれるような食指南書をご紹介。

古本食堂 新装開店

古本食堂 新装開店
原田 ひ香著 角川春樹事務所(1,760円)

神保町の街が最近人気だ。海外からの旅行者も多く、レトロブームで純喫茶や古書店を散策する若者も増えている。そんな神保町にさらに足を運びたくなるような一冊がこちら。著者の大ロングセラー『古本食堂』の第二弾だが、前作を読んでいなくても全く問題なし、ここから楽しめる。
「あたしは鷹島古書店のシャッターを開けつつ、はあっとため息をついた。」そんな一文で始まる主人公の珊瑚は、70代。1年前に急逝した兄の跡を継いで古書店を営んでいる。姪孫の美希喜が大学院卒業後に店に入り、カフェコーナーを設けることを提案、コーヒーと「おすすめの本の紹介」のセットを始めることに。いざレイアウト変更をしようと書棚を動かすとその壁には…。
近隣で店を営む人、作家志望のこじらせ系青年、古い婦人雑誌を探している中年女性などさまざまなお客さんが訪れる。ビジネスとも地域社会貢献とも違う「ご近所さん」の温かさがある。差し入れのお弁当が食べきれず、お客さんやご近所にお裾分けしたり。そしてここに登場するのがたくさんの本と食べ物。本は誰もが知る著名作家や名作だし、食べ物も天ぷらにうなぎ、カレーと昔から親しまれたメニューだ。物語に触れること。三度の食事を楽しむこと。身近な人との関わり合いを大切にすること。ここに人生を幸せにする秘密が詰まっているのかもしれない。

おでかけ料理人 ふるさとの味で元気になる

おでかけ料理人 ふるさとの味で元気になる
中島 久枝著 文藝春秋(825円)

時代は違えど、こちらも下町の人情たっぷりの一冊。「おでかけ料理人」とは今でいうケータリングサービス業。日本橋の老舗帯屋「三益屋」の娘だったが、母は若くして亡くなり、父も亡くなったのち、祖母とふたりひっそり神田に移ってきた佐菜。教養のある祖母は手習い所で子に教え、16歳の佐菜は、知人のつてで煮売り屋で働くことに。三益屋時代、お手伝いさんに手解きを受けた料理のセンスと真面目な性格から、いくつかの家の朝餉作りを頼まれるようになったのが「おでかけ料理人」のきっかけ。第二弾の本書は「ふるさとの味で元気になる」というタイトルどおり、注文者の故郷の煮物や、昔手がけたかき揚げのルーツを求めて奮闘する姿が健気だ。
どんな食材を使い、どう下拵えをし、どう煮てどう味付け、どう盛りつけるか。その一つ一つに意味があり、物語がある。それは単なる美味の黄金律ではなく、食べる人への愛情の表れだ。誰かのために料理することの価値に大いに気づかされる。また同時に、どの味もその間に多くの人が関わっている。今ならやや過干渉と疎まれそうな人達が、ひと肌脱ぎ合って成り立っている街の暮らしが何とも温かい。そこにいつもちょっとした教訓もあるが、それが鼻につかないのも「料理」というクッションを挟んでいるからかもしれない。

美食の教養 世界一の美食家が知っていること

美食の教養 世界一の美食家が知っていること
浜田 岳文著 ダイヤモンド社(1,980円)

最後にご紹介するのはちょっとベクトルを変えて、「教養」としての食を伝える指南書。イェール大学で政治学を学んでいた当時、学生寮の食事があまりにまずかったことから食べ歩きに目覚め、ニューヨークを中心に美食ライフをスタート。大学卒業後はさらに食への探求を深めるため、フランス・パリに留学、その後南極から北朝鮮まで世界約127カ国・地域を美食のために訪れたという。1年のうち5ヶ月は海外で、3ヶ月を東京、4ヶ月を国内の地方で食べ歩いているという。つまり超インテリ・超マニアの美食家の語りにより、究極の食の価値を知ることができる。
ちょっと長めの「はじめに」(20ページを超える!)と第1章で、まずは著者の考える「食の意味」「美食とは何か」をオードブルに。続く第2章では「美食入門」として、情報収集の仕方や予約テク、メニューの選び方や評価軸など、現代社会における美食道のいろはを懇切丁寧にナビゲート。第3章では食から見た世界地図案内、第4章では近年の食のトレンドワードを取り上げてその実態を解説。第5章では著者の信頼する一流シェフを紹介し、第6章では食のサステナビリティについて触れるなど、地理歴史から政治経済、文化まで、まさに網羅的に現代の食の道を案内する。これ一冊あればミシュランにも食べログにも左右されることなく、自信をもって食と向き合えるかもしれない!

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイル、ウェルネスなどをテーマに雑誌やウェブ、広告、書籍などにて編集・執筆を行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。

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