三菱のアート

2023.04.13

〝時代〟が動いた!〝美術〟も変わった!?

静嘉堂文庫美術館の特別展「明治美術狂想曲」で変わりゆく日本の〝美術〟を支えた岩崎彌之助をリスペクト!

美術ってなんだろう?――そう思ったことはないだろうか。2代静嘉堂文庫長・諸橋轍次が編纂した『大漢和辞典』で“美術”を引くと、「美をあらわすことを目的とする芸術。建築・彫刻・絵画・音楽・文学など」とあるが、「美術」という言葉自体は明治時代初期にドイツ語の[kunstagewerbe]を訳したもの。現在、東京丸の内にある静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で開催されている特別展「明治美術狂想曲  Meiji era Art Capriccio」へ出かけると、日本における〝美術〟の成り立ちの片鱗をうかがうことができるかもしれない。

渡辺省亭原図・濤川惣助「七宝四季花卉図瓶」
明治時代(19~20世紀) 1対 七宝 静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間:通期

色彩の境界線を最終段階で外す「無線七宝」という技術を生み出し、釉薬のぼかしを生かした絵画的表現で活躍した七宝作家・濤川惣助。明治から大正時代にかけて欧米を魅了し、現在日本でも大人気の花鳥画家・渡辺省亭による原図を美しい色彩で再現した。

豊かな自然に囲まれた屋敷でも、室内外を美しく飾る日本人

西洋からさまざまな文明が流入した明治時代は、まさに〝美術〟の黎明期。それ以前も、日本人は襖や壁に絵を描かせ、美しい屛風を飾り、建物の部材にも彫刻を施し、手の込んだ工芸品など、美しいものを愛でた。だがそれは、貴族や大名など特別な身分や階級の者の生活を豊かにするためや、人をもてなすための調度品であり、あるいは権力を誇示するために利用されたものだ。政治も身分制度も変わり、ファッションも建築も生活様式も急ピッチで西洋化された明治という時代は、日本の美術史にとっても大きな転換期であった。
江戸幕府が滅亡し、明治新政府による神道国教化政策に発する廃仏毀釈が全国で行われていたその時期、三菱第2代社長の岩崎彌之助は、絵画や刀剣、茶道具、陶磁器など多くの文化財の破壊や海外流出を目の当たりにし、それを防がなければと強い信念を抱く。そしてそれは静嘉堂文庫の創設や、2022年の丸の内への美術館移転へとつながっていく。

幕末から明治時代は日本のアートシーンも大賑わい!

落合芳幾「末広五十三次 程ヶ谷」 ※初公開
慶応元(1865)年 大判錦絵 静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間:5月10日(水)~6月4日(日) ※初公開

江戸幕府第14代将軍徳川家茂の上洛を主題とした浮世絵、東海道シリーズの1枚。港にも近い程ヶ谷(現在の横浜市保土ヶ谷あたり)らしく西洋人も描かれ、幕末の様子がうかがえる。

河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」のうち「極楽行きの汽車」
明治5(1872)年 紙本着色 静嘉堂文庫美術館蔵
※展示期間:4月8日(土)~5月7日(日)

狩野派や歌川国芳に学び「画狂」とも称された河鍋暁斎が、パトロンの娘の追善供養に制作した画帖より。明治初期ではまだめずらしかった列車が描かれている。

開催中のこの特別展では、江戸時代の余韻や新時代の幕開けを見ることができる浮世絵や絵画、超絶技巧として現在も人気の明治時代の工芸など、明治時代を立脚点とした静嘉堂コレクションを展観。なかでも注目したいのが、彌之助と〝明治美術〟との接点をテーマにした展示だ。

例えば橋本雅邦の「龍虎図屛風」。これは明治28(1895)年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会(第1~3回は東京開催)に出品された6曲1双屛風だが、その制作にも彌之助が尽力している。1895年は平安京遷都1100年にあたる年でもあり、中井弘前京都府知事は京都と東京の画家の競演を企画。中井知事と親交があった彌之助がこの企画を資金援助などでバックアップし、京都の画家7名、東京の画家7名に屛風1双(2隻対の屛風)の制作が依頼された。実際に博覧会に並んだのは東西合わせて11双だったが、そのうち8双が静嘉堂の所蔵に。前後期を合わせると「龍虎図屛風」を含め4双を見ることができるので、「第4回内国勧業博覧会」は覚えておきたいキーワードだ。

(右隻)

(左隻)

橋本雅邦「龍虎図屛風」 重要文化財
1895(明治28)年 6曲1双 絹本着色 静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間:4月8日(土)~5月7日(日)

古典的な画題である「龍虎」が、豊かな色彩とドラマチックな構図、西洋画のような奥行き感をもって描かれた本作も、「虎の後ろ脚に力が入りすぎて腰が抜けているように見える」などといった酷評も一部にあったとか。昭和30(1955)年に近代絵画初の重要文化財として指定された橋本雅邦の代表作には、そんなエピソードも。

もうひとつ当時の世相を物語る1作として注目したいのが、近代日本美術に大きな足跡を残した洋画家、黒田清輝の「裸体婦人像」。これは彼がフランス滞在中に現地の女性モデルを描いた裸婦像で、明治34(1901)年の第6回白馬会展に出品された際、公序良俗に反するとして警察の指示により下半身を布で覆って展示された、いわゆる「腰巻事件」を引き起こした問題作。演出や作者の意図ではなく、作品の一部を隠して展示したことも話題となって広く知られることに。

黒田清輝「裸体婦人像」
1901(明治34)年 1面 カンヴァス、油彩 静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間:通期

本作品は岩崎家が購入後、高輪本邸のビリヤード室に飾られていた。ビリヤードは19世紀後半にイギリスで流行し、貴族のカントリー・ハウスにはこぞって専用ルームが設けられたが、当時は「紳士が集うプレイルーム」だったビリヤード室には、女性が立ち入ることはなかったのだとか。黒田清輝と彌之助の出会いは明治36(1903)年の白馬会と思われ、のちに清輝は彌之助の肖像画も手掛けている。

爆売れ「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」の販売もいよいよ再開!

ほかにも、明治工芸の名品である鈴木長吉の「鷹置物」や、輸出陶磁器として欧米で好まれた薩摩焼の「色絵金彩麒麟乗香炉」など、〝日本の美術〟黎明期につくられた作品を多く展示。 また、静嘉堂が誇る珠玉の国宝「曜変天目」もお目見え。これは明治13(1880)年の第1回観古美術会で披露されている。古美術再評価のきっかけになったこの展覧会で、明治時代の人々も光彩ゆらめくこの美しさに魅了されたのか――。何度鑑賞しても見飽きないこの茶碗の前では、やはり足が止まってしまうことだろう。

「曜変天目(稲葉天目)」 国宝
南宋時代(12~13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵
展示期間:通期

静嘉堂文庫美術館の丸の内移転と同時にオープンしたミュージアムショップの目玉商品が、「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」5,800円。あまりの人気に製造が追いつかず販売を休止していたが、ようやく販売再開に。

マンスリーみつびし 静嘉堂@丸の内

静嘉堂文庫美術館 静嘉堂@丸の内 静嘉堂ロゴ
割引クーポン

入場料200円割引券

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会期中の2023年6月4日(日)まで

展覧会DATA

特別展「明治美術狂想曲 Meiji era Art Capriccio」

会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)


会期:2023年4月8日(土)~6月4日(日)
※前期4月8日(土)~5月7日(日)、後期5月10日(水)~6月4日(日)で一部作品の入れ替えあり

会期中休館日:月曜日、5月9日(火)

開館時間:10時~17時(金曜日は18時閉館、入館は閉館の30分前まで)

入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※日時指定予約制(空きがあれば当日券も販売)


問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)

ホームページ https://www.seikado.or.jp/

Twitter @seikadomuseum