三菱のアート

2023.04.20

NHK朝ドラ『らんまん』のモデル、牧野富太郎直筆の図譜も!

東洋文庫ミュージアムの展覧会
「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」は5月14日まで!

4月3日から始まったNHKの連続テレビ小説『らんまん』を、楽しみに見ている人も多いだろう。昭和36年度の第1作『娘と私』から数えて108作目となる『らんまん』の主人公・槙野万太郎は、「天才植物学者」と呼ばれる牧野富太郎がモデルだ。幕末の1862年に高知県の自然豊かな町に生まれ、明治、大正、昭和という激動の時代を植物への飽くなき探求心で駆け抜けたこの人物への注目が高まるにつれ、“美しい植物の絵„を目にする機会も増えているのでは?
現在、東京駒込の東洋文庫ミュージアムで開催中の展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」もそのひとつだろう。

牧野富太郎『日本植物志図篇』より1888~91(明治21~24)年 東京刊

牧野富太郎『日本植物志図篇』より
1888~91(明治21~24)年 東京刊

近代日本の植物学の知識を加え、精密な植物図を多用した牧野富太郎の自費出版作。執筆や作図のみならず、印刷の際には印刷所で働いて技術を得るほどの熱意で制作。本作は日本における現代的な植物図鑑のはじまりといわれている。

東洋文庫コレクションに見る“フローラとファウナ„

詳細なスケッチをもとにした植物の絵は“ボタニカルアート(植物画)„と呼ばれ、世界中の珍しい植物の記録と紹介を目的として描かれるもの。鑑賞のための“絵„ではなく研究に必要な“画„であり、古代エジプトや中国などで薬草を見分けるために図譜(画集)がつくられたのがはじまりといわれている。
植物だけでなく、珍しい動物や色とりどりの鳥類、不思議な姿をした昆虫など、さまざまな生物のスケッチは、簡単に高画質な写真や動画を撮ることができる現代だからこそ、より魅力的に映るのではないだろうか。

そんな動植物の図鑑や図譜のコレクションを多く所蔵しているのが東洋文庫だ。
三菱第3代当主の岩崎久彌が1924年に設立した東洋文庫は、その分野では日本最古で最大を誇る東洋学の研究図書館。国宝5件、重要文化財7件を含む約100万冊の蔵書をもち、それらは無料で閲覧でき、貴重本や絵画などはデータで公開。一般向けの講演会なども行っている。その蔵書のなかには、オーストラリア出身のジャーナリスト、ジョージ・アーネスト・モリソンが北京赴任中に蒐集した“モリソン文庫„と呼ばれる、極東関係の貴重な文献約2万4000冊も含まれている。
今回の展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」では、そんな東洋文庫の蔵書のなかから、史料として貴重なものから、すぐれた鑑賞作品といえるものまで、たっぷり楽しめるのだ。

ジョン・グールド『アジアの鳥類』より「雉」1850~83年 ロンドン刊

ジョン・グールド『アジアの鳥類』より「雉」
1850~83年 ロンドン刊

19世紀のイギリスを代表する鳥類学者であり剥製師のグールド。ダーウィンに高く評価されていたという学者としての能力は、美しい図版づくりにも発揮されている。彼のスケッチをもとにしたリトグラフに、1枚ずつ手作業で彩色された。

G・マイスター『東洋の園芸師』より1731年 ドレスデン/ライプチヒ刊

G・マイスター『東洋の園芸師』より
1731年 ドレスデン/ライプチヒ刊

江戸時代に東西交流が行われていた長崎へ、1680年代に2度にわたって来日したオランダ東インド会社の庭園技師、マイスター。日本や東インド地域、アフリカの植物についてまとめた本書で、日本の植物の生態や栽培方法、庭園文化がヨーロッパに初めて紹介された。

貝原益軒『大和本草』より1709~15(宝永6~正徳5)年

貝原益軒『大和本草』より
1709~15(宝永6~正徳5)年

江戸時代を代表する本草学者の貝原益軒が、古い文献の誤りを正すために制作した『大和本草』は、本草学(中国および東アジアで発達した医薬に関する学問)が、研究者自らが現地へ赴き足で探して観察し、その成分や効能を調べる学問へと変化するうえで大きく貢献。その後、日本の本草学は薬用植物だけでない植物全般、動物や鉱物に加え、自然界全般を扱う博物学に拡大することになる。日本産を集めたフローラ(植物誌)とファウナ(動物誌)という意味でも大変貴重な書といえるだろう。

図鑑に夢中になった子ども時代がよみがえる?
大人が見ても楽しい動植物画

もちろん、本草学や博物学といった学問についての知識や興味がなくても本展は十分に楽しい。
西洋医学や植物学を日本に伝え、科学的な視点で日本の自然や文化をヨーロッパに紹介したドイツ出身の医師シーボルトが、長崎のオランダ商館に勤めるため来日したのが1823年。今年はシーボルト初来日から200年という節目の年であり、東洋文庫が所蔵するシーボルトの名著『日本植物誌(フローラ・ヤポニカ)』の美しい植物画も展示されている。また、日本で最初の本格的な植物図鑑である岩崎灌園の『本草図譜』や、展覧会図録のような仕上がりの平賀源内『物類品隲』なども、展示の目玉のひとつといえるだろう。

フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト『日本植物誌』より1835~70年 ライデン刊

フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト『日本植物誌』より
1835~70年 ライデン刊

日本の植物学者の協力を得て採取した植物標本をもとに、ドイツの植物学者ツッカリーニを共同研究者に迎え生涯をかけてまとめた図鑑。写真のアジサイは、シーボルトが長崎で出会い愛した女性の名前からとって〝Hydrangea Otaksa〟という学名がつけられた。

岩崎灌園『本草図譜』より1828(文政11)年

岩崎灌園『本草図譜』より
1828(文政11)年

日本各地で2000種類もの植物を写生した、本草学者の岩崎灌園。それまでの本草書の図が稚拙だったことに不満を感じ、20年もの年月をかけて日本初となる本格的な彩色植物図鑑である本書をまとめた。

平賀国倫(源内)『物類品隲』より1763(宝暦13)年

平賀国倫(源内)『物類品隲』より
1763(宝暦13)年

1757年から5回にわたって開催された薬品会(物産会)の出品物約2000点から360種を選び、産地の表示や解説とともに紹介。

ジョン・ヘンリー・リーチ『中国・日本・朝鮮の蝶類』より1892~94年 ロンドン刊

ジョン・ヘンリー・リーチ『中国・日本・朝鮮の蝶類』より
1892~94年 ロンドン刊

イギリスの博物学者で熱心な昆虫採集家のリーチが、東アジア、モロッコ、カナリヤ諸島、ヒマラヤなどで8年をかけて収集した蝶類をまとめたもの。日本では九州から東北まで採集に出かけている。

江戸の一大園芸ブームにイギリス人植物学者も驚いた!

揚州周延『江戸風俗十二ヶ月之内 九月 染井造り菊ノ元祖』

揚州周延『江戸風俗十二ヶ月之内 九月 染井造り菊ノ元祖』
1889(明治22)年 錦絵 3枚綴
画像:国立国会図書館デジタルコレクション
※本展での展示はなし。

日本では、古くから植物を栽培して観賞する文化があり、その熱が高まったのが江戸時代。
江戸では椿や牡丹、梅、桜、菊、朝顔など園芸用植物の品種改良も盛んで、当時の人気浮世絵師・歌川国芳に学んだ揚州周延が描いた上の錦絵のように、品評会なども行われていた。庭園から町中の植栽、長屋に並ぶ植木鉢まで、身分を問わず植物が愛好された園芸ブームの様子を、幕末に来日した植物学者のローバート・フォーチュンは「日本人は皆が生来の花好きである」と伝えている。

『桜華八十図』より(作者、制作年不明)

『桜華八十図』より(作者、制作年不明)

江戸を中心とした各地の桜80種の写生図集。江戸時代末期ごろに現在東洋文庫があるあたり(旧・上駒込村染井、現・豊島区駒込)の植木職人が売り出したソメイヨシノは、明治時代に全国に普及した。

壷天堂主人 著・森春渓 画『花壇朝顔通』

壷天堂主人 著・森春渓 画『花壇朝顔通』より
1815(文化12)年刊

奈良時代に遣唐使が薬草として中国から持ち帰り、やがて観賞用として栽培された朝顔。本書は1808年ごろに江戸で起こった第1次栽培ブームを受けて刊行された朝顔図鑑。

坂本浩雪 写『山茶椿二品録』

坂本浩雪 写『山茶椿二品録』より
江戸時代後期・19世紀

江戸幕府2代将軍徳川秀忠が好んだことにより、多様な園芸品種が開発された椿。本書の制作主は不明だが、序文に「庭にある300種あまりの椿から珍しい品種を選んで描かせたもの」とある。

日本で古くから読み継がれてきた本草書から、ヨーロッパの博物学者たちが研究した日本やアジアの自然界のスケッチ、明治時代の「植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎まで、東西の図鑑や図譜といった“本の中のアート„を楽しむ展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」。学術的に価値の高い史料ながら、自然界の美しい色彩や奇妙な造形が目を楽しませてくれる展覧会なのだ。

展覧会DATA

東洋文庫ミュージアム

「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」

会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)


会期:2023年5月14日(日)まで

会期中休館日:火曜日

開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)

入館料:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、中・高校生600円、小学生以下無料


問い合わせ:☏ 03・3942・0280

ホームページ http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/

Twitter @toyobunko_m