4月3日から始まったNHKの連続テレビ小説『らんまん』を、楽しみに見ている人も多いだろう。昭和36年度の第1作『娘と私』から数えて108作目となる『らんまん』の主人公・槙野万太郎は、「天才植物学者」と呼ばれる牧野富太郎がモデルだ。幕末の1862年に高知県の自然豊かな町に生まれ、明治、大正、昭和という激動の時代を植物への飽くなき探求心で駆け抜けたこの人物への注目が高まるにつれ、“美しい植物の絵„を目にする機会も増えているのでは?
現在、東京駒込の東洋文庫ミュージアムで開催中の展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」もそのひとつだろう。
東洋文庫コレクションに見る“フローラとファウナ„
詳細なスケッチをもとにした植物の絵は“ボタニカルアート(植物画)„と呼ばれ、世界中の珍しい植物の記録と紹介を目的として描かれるもの。鑑賞のための“絵„ではなく研究に必要な“画„であり、古代エジプトや中国などで薬草を見分けるために図譜(画集)がつくられたのがはじまりといわれている。
植物だけでなく、珍しい動物や色とりどりの鳥類、不思議な姿をした昆虫など、さまざまな生物のスケッチは、簡単に高画質な写真や動画を撮ることができる現代だからこそ、より魅力的に映るのではないだろうか。
そんな動植物の図鑑や図譜のコレクションを多く所蔵しているのが東洋文庫だ。
三菱第3代当主の岩崎久彌が1924年に設立した東洋文庫は、その分野では日本最古で最大を誇る東洋学の研究図書館。国宝5件、重要文化財7件を含む約100万冊の蔵書をもち、それらは無料で閲覧でき、貴重本や絵画などはデータで公開。一般向けの講演会なども行っている。その蔵書のなかには、オーストラリア出身のジャーナリスト、ジョージ・アーネスト・モリソンが北京赴任中に蒐集した“モリソン文庫„と呼ばれる、極東関係の貴重な文献約2万4000冊も含まれている。
今回の展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」では、そんな東洋文庫の蔵書のなかから、史料として貴重なものから、すぐれた鑑賞作品といえるものまで、たっぷり楽しめるのだ。
江戸時代を代表する本草学者の貝原益軒が、古い文献の誤りを正すために制作した『大和本草』は、本草学(中国および東アジアで発達した医薬に関する学問)が、研究者自らが現地へ赴き足で探して観察し、その成分や効能を調べる学問へと変化するうえで大きく貢献。その後、日本の本草学は薬用植物だけでない植物全般、動物や鉱物に加え、自然界全般を扱う博物学に拡大することになる。日本産を集めたフローラ(植物誌)とファウナ(動物誌)という意味でも大変貴重な書といえるだろう。
図鑑に夢中になった子ども時代がよみがえる?
大人が見ても楽しい動植物画
もちろん、本草学や博物学といった学問についての知識や興味がなくても本展は十分に楽しい。
西洋医学や植物学を日本に伝え、科学的な視点で日本の自然や文化をヨーロッパに紹介したドイツ出身の医師シーボルトが、長崎のオランダ商館に勤めるため来日したのが1823年。今年はシーボルト初来日から200年という節目の年であり、東洋文庫が所蔵するシーボルトの名著『日本植物誌(フローラ・ヤポニカ)』の美しい植物画も展示されている。また、日本で最初の本格的な植物図鑑である岩崎灌園の『本草図譜』や、展覧会図録のような仕上がりの平賀源内『物類品隲』なども、展示の目玉のひとつといえるだろう。
江戸の一大園芸ブームにイギリス人植物学者も驚いた!
日本では、古くから植物を栽培して観賞する文化があり、その熱が高まったのが江戸時代。
江戸では椿や牡丹、梅、桜、菊、朝顔など園芸用植物の品種改良も盛んで、当時の人気浮世絵師・歌川国芳に学んだ揚州周延が描いた上の錦絵のように、品評会なども行われていた。庭園から町中の植栽、長屋に並ぶ植木鉢まで、身分を問わず植物が愛好された園芸ブームの様子を、幕末に来日した植物学者のローバート・フォーチュンは「日本人は皆が生来の花好きである」と伝えている。
日本で古くから読み継がれてきた本草書から、ヨーロッパの博物学者たちが研究した日本やアジアの自然界のスケッチ、明治時代の「植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎まで、東西の図鑑や図譜といった“本の中のアート„を楽しむ展覧会「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」。学術的に価値の高い史料ながら、自然界の美しい色彩や奇妙な造形が目を楽しませてくれる展覧会なのだ。
展覧会DATA
「フローラとファウナ 動植物誌の東西交流」
会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)
会期:2023年5月14日(日)まで
会期中休館日:火曜日
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
入館料:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、中・高校生600円、小学生以下無料
問い合わせ:☏ 03・3942・0280
ホームページ http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/
Twitter @toyobunko_m