三菱のアート

2023.08.10

13図が勢ぞろい! 応挙の写実でない写実!? こんな守景初めて見た!

静嘉堂@丸の内の展覧会
「あの世の探検」でワクワク探検!

●「あの世の探検」とは? 気になるタイトルの展覧会には謎解きの楽しさも!

「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―」という、お化け屋敷の企画名のような展覧会が8月11日から始まる。「あの世」とはご想像通り仏教における極楽や地獄を指している。じつは静嘉堂文庫美術館のコレクションをなす核のひとつが「仏教美術」で、しかもちょっと変わった作品や、希少で貴重なものが多いという。
そんなコレクションのなかでも、勢ぞろいでの展示は24年ぶり(!)となる「地蔵菩薩十王図」と「十王図・二使者図」(あわせて13図)や、「普賢菩薩像」と円山応挙(まるやまおうきょ)の「江口君図(えぐちのきみず)」の見比べ、なんでこんな仏画が?という「苦行釈迦図」や「妙法蓮華経変相図」の面白さに、久隅守景(くすみもりかげ)の仏画まで…と、今回もちょっと知るときっと見たくなる作品が目白押しだ。

●圧倒的熱量で描かれた「十王図」は、巨大な風俗図屛風のような面白さも

1999年、2007年、2016年以来の展示となる「十王図・二使者図」。本展覧会では、十王信仰と地蔵信仰の関連により、中央に「地蔵菩薩十王図」を、その両脇に「二使者図」を配置し、さらに左右に5幅ずつ「十王図」が並ぶ。この13図がそろって一列で展示されるのは初の試みだという。

「十王図」とは、死後に地獄へ落ちてひどい目にあわないようにと、冥界で生前の罪を裁く十王を供養するために描かれるもの。しかし本作がほかの十王図と大きく違うのは、その表現だ。
いずれも王だけが異様に大きく、地獄の獄卒(牢獄の役人)や裁きの様子などを詳細にびっしりと、鮮やかな色彩でエネルギッシュに描かれている。そのどれもが、十王図としては特異なのだという。人物や状況などをじっくり見る面白さは、洛中洛外図屛風などの巨大な風俗画を鑑賞する楽しさに通じるだろう。

重要美術品「地蔵菩薩十王図」(中央) 高麗時代・14世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
重要美術品「十王図・二使者図」 元~明時代・14世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

「十王図・二使者図」より「第十 五道転輪王」 静嘉堂文庫美術館蔵

会場で左端に展示される「十王図・二使者図」の「第十 五道転輪王」を見てみよう。椅子に腰かけた巨体の五道転輪王(図1)は甲冑を身に着けているが、これはほかの十王図には見られない姿だ。その頭上には、死後転生するといわれる天道、人道、修羅道、餓鬼道、畜生道が(図2)。画面の一番下には、地獄の獄卒牛頭の役人に槍で攻められている亡者が描かれている(図3)。
極楽か地獄か。来世では人間なのか、動物なのか、それとも…? 地獄に落ちたらどんな刑が待っているのか? 絵解きをしながら、じっくり鑑賞するのが楽しいだろう。

図1
図2
図3

●静嘉堂文庫美術館にはユニークな仏教絵画がザックザク!

この「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―」展での注目すべき仏教絵画は「十王図」だけではない。ドでか頭の「苦行釈迦図」や、ゆるかわな「妙法蓮華経変相図」など、〝らしくない仏教絵画〟にも注目だ。

一般的な苦行釈迦図は、修行を積んでいた岩場からやせ細った体でふらつくように出てきて、うつろな表情で風に吹かれている…といったイメージだ。しかし静嘉堂文庫美術館の「苦行釈迦図」は、異様に頭が大きい半身像で、強烈なインパクトを放っている。

「苦行釈迦図」 高麗時代・14世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

また、素朴な筆使いで描いた「妙法蓮華経変相図」も面白い。妙法蓮華経変相図とは、法華経で説かれた教えや釈迦の奇跡などを描いたもの。本作もゆるかわ的タッチになごむが、実はきりっとした墨線や文字、ビビッドな色使いと、見どころも多い。法華経だけが女人成仏を認めていたため、8歳の聡明な少女が法華経の教えによって仏になったという「龍女成仏」などが描かれている。
このような絵を〝説話画〟ともいうが、この中国南宋時代の「妙法蓮華経変相図」は、日本の説話画に与えた影響も大きいという。

「妙法蓮華経変相図」(部分) 南宋時代・12世紀~13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

●数奇者の蒐集とは違う岩崎 彌之助コレクション

静嘉堂文庫美術館コレクションの重要な一角をなす仏教絵画だが、なぜこれほどまでに〝特異〟な作品が多いのか――それは、岩崎 彌之助は数奇者として美術品を蒐集したのではないからだ。
明治元年に発令された神仏分離令による廃仏毀釈や、その後の文化財の海外流出に危機感を強くもった彌之助は、とにかく日本の文化財を守らねばという思いでさまざまな美術品を蒐集する。この画家が好き、こういう作品が好きということではなく、選り好みするのでもなく、機会があれば購入したのだろう。その結果、数奇者好みではないが〝希少〟〝貴重〟〝特異〟なものが岩崎家に集まり、他に類を見ないコレクションを形成。それが端的に表れているのが、これら仏教絵画というわけだ。

●〝写実の応挙〟の写実じゃない写実!? 3幅見比べたらぐんと面白い!

右/重要文化財「普賢菩薩像」 鎌倉時代・13世紀  静嘉堂文庫美術館蔵
中央/重要美術品「江口君図」 円山応挙筆 江戸時代・寛政6(1794)年  静嘉堂文庫美術館蔵
左/「幽霊図」 源応挙落款 静嘉堂文庫美術館蔵

仏教絵画の白眉といえば「普賢菩薩像」だろう。静嘉堂文庫美術館にも鎌倉時代の「普賢菩薩像」があるが、本展覧会では円山応挙「江口君図」とのコラボ鑑賞も目玉のひとつだ。

応挙以前の肉筆浮世絵の美人画や、応挙以降の円山四条派の美人画の代表的なレパートリーのひとつとされるのが、この応挙の「江口君図」。西海と京都をつなぐ河港として栄えた江口にいた遊女は「江口君」と呼ばれたが、その遊女を普賢菩薩に見立てたのが本作だ。
応挙といえば写実性に秀でた絵師だが、本作も髪の毛や、まつ毛や眉毛の1本、あるいは帯の織目に至るまで、頭部や上半身は本物のようによく描かれている。かと思えば、聖獣といわれた白い象に腰かけている様子には違和感が。体重が乗っていないというか重量感がないというか、紙人形を折って座らせているかのようだ。象にしても、この時代はすでに日本にもいたはずだが、漫画やアニメのようで写実的ではない。
「江口君」と呼ばれた遊女たちをモデルにしながら、この女性はすでに菩薩であり、実体感のない幽霊なのかもしれない。彼女が着ている着物に柳が描かれているのも、あながち幽霊とは無関係…ともいえない?

そしてもう1作。「江口君図」を中央にして、「普賢菩薩像」と反対側に展示される「幽霊図」との見比べも面白い。これは「源応挙」という落款がある水墨画。「江口君図」の顔とそっくりなのだ。「普賢菩薩像」「江口君図」「幽霊図」の3幅が並んで鑑賞できるのも、この展覧会の見どころのひとつである。

●またしてもお宝が! こんな久隅守景、見たことない!

「納涼図屛風」久隅守景筆 江戸時代・17世紀 国宝 東京国立博物館蔵

出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp/) 

日本美術をちょっと知った人なら、久隅守景といえば東京国立博物館の「納涼図屛風」(上図)や、京都国立博物館の「四季耕作図」を思い浮かべるだろう。京都という都会でいろいろあって疲れちゃったから金沢へ移り住み、周辺の農村の様子や農民の日常を素朴なタッチで描いた…のが久隅守景という絵師の超ざっくりしたプロフィールだが、そのイメージを一新する仏教絵画がある。いや、静嘉堂文庫美術館にあったのだ。それが修復後は初、20年ぶりの公開となる「釈迦十六善神図」だ。
十六善神とは、大般若経とその信奉者を守護する16の護法善神のこと。守景による「釈迦十六善神図」も、ほかのもの同様、お釈迦様を中心に護法善神などを描いているが、「あの、のほほんとした田園風景を描いた守景が…」という目で見ると、失礼ながら「きちんと描けてる!」というギャップにワクワクするはずだ。

重要美術品「釈迦十六善神図」久隅守景筆 江戸時代・17世紀  静嘉堂文庫美術館蔵

またしても、静嘉堂文庫美術館のコレクションの妙を展観することとなった「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―」。残暑厳しい折、程よく冷えた美術館で体をクールダウンしながら、あの世の絵画鑑賞で時間を過ごしてみてはいかがだろう。

マンスリーみつびし 静嘉堂@丸の内

静嘉堂文庫美術館 静嘉堂@丸の内

展覧会DATA

「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―
Exploring the World Beyond: The Ten Kings of Hell」


会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)

会期:2023年8月11日(金・祝)~9月24日(日)

会期中休館日:月曜日 ※9月18日(月・祝)は開館、9月19日(火)休館
開館時間:10時~17時(金曜日は18時閉館、入館は閉館の30分前まで)


入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※日時指定予約優先(当日券も販売)


問い合わせ:☏050・5541・8600(ハローダイヤル)

ホームページ https://www.seikado.or.jp/

Twitter @seikadomuseum

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会期中の2023年9月24日(日)まで