三菱のアート

2023.10.26

技巧もテーマも知るほど面白い! 本展でやきものの見方に開眼!?

静嘉堂@丸の内が開館1周年にお届けする「二つの頂」って、なに?

●超絶技巧が満載! 中国陶磁史のツインピークス、ざっくり知るだけでも見たくなる!

絵画、書画、工芸、陶芸…日本で現在“美術”として鑑賞されるものの多くは中国に由来する。静嘉堂文庫美術館が世田谷から丸の内に移転して1年というタイミングで開催されている特別展「二つの頂―宋磁と清朝官窯」は、8000年という中国陶磁の歴史の中での二つの“頂点”に着目した展覧会。日本のやきもののルーツのひとつでもあるその“頂”を、会場からのレポートも含めて眺めてみよう。

●中国陶磁器といえば華やかな絵付け? 清朝の官窯磁器はまるで絵画だ!

本展覧会のタイトルである“二つの頂”とは、宋時代(960~1279年)と、清時代(1616~1912年)につくられたものを指す。
全国的に陶磁器の産地が増加し、技術的・芸術的にも高まりを見せたのが宋時代。そのあとの元(1271~1368年)には現在でも日常生活で使われている青い染付が、明(1368~1644年)になると赤絵や色絵といった上絵付けの技術が普及。元や明時代に発達したこれらの染付や上絵付けは、美術館で見るような華やかな大皿や瓶・壺類や、身近な食器としてなじみがあるはず。中国の陶磁器といってイメージが浮かぶのはこういう類だろう。

それらが技術と意匠の両面で頂点に達したのが清時代。政府直営の陶磁器工場である官窯(かんよう)が磁器の名産地である景徳鎮に置かれ、康熙帝(こうきてい)、雍正帝(ようせいてい)、乾隆帝(けんりゅうてい)という3代の皇帝たちの治世に大きく発展した。

官窯では、皇帝が使う食器類や、宮廷を飾るやきものが制作された。清朝第4代皇帝の康熙帝は中国の歴史の中で最も長く在位し、質素倹約に努めて国力増強をはかった皇帝で、漢民族の文化を尊重し、文化事業にも熱心だった。その皇子として生まれた雍正帝は目が肥えていたこともあってか、自分の審美眼を官窯の製品にも反映させている。釉薬を研究させて色数を増やしたり、黒、緑、黄など色とりどりの単色釉の器をつくったり。そして第6代皇帝の乾隆帝は、祖父や父とは異なり派手なことが大好き。蓄えてきた国力を使い、離宮や庭園などの造営事業や文化事業に注力、さらには民間レベルからも歴代の財宝を集め、清朝皇帝のコレクションをほぼ完成させている。

最新の技術と最高の材料を用い、皇帝のために制作された清朝官窯のやきものは、現代でも美術的価値の高いものとして世界的に評価されている。近年では、国外へ流出したものを中国人が買い戻して価格が高騰…という傾向もあるようだ。

「粉彩菊蝶図盤」大清雍正年製銘 景徳鎮官窯
清時代・雍正年間(1723~1735年) 口径50.4㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

粉彩は、18世紀前半に西洋の七宝焼の技術をもとに開発された、清朝を代表する絵付けの技法。高温で焼いた白磁の上に絵付けしてから再び低温で焼き付ける、上絵付けの一種。粉彩によってピンクや水色などの中間色やグラデーション、微妙な陰影をつけた絵画的な文様表現が可能となった。青白く発光するような白磁の肌に、澄んだ色彩のグラデーションによる絵の美しさに見とれるだろう。

「粉彩梅花喜鵲図象耳瓶」大清乾隆年製銘 景徳鎮官窯
清時代・乾隆年間(1736~1795年) 高さ48.5㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

月夜のもと花が咲き乱れる梅の枝に、鵲(かささぎ)が30羽。中国で鵲は喜びを告げる鳥であり、梅に鵲は吉祥モチーフ。30羽はひと月を表し、総じて「毎日喜びあふれる」ことを表す。象の頭部が耳として付いている瓶もめでたい造形であり、乾隆年間にはこのような“吉祥もりもり”な陶磁器が制作された。可憐に咲く梅花の奥に見える月の表現にもうっとりするはず(右図)。

●日本人好みはシックなこちら? 宋代は華やかでなくとも驚きの技巧が満載!

時代は前後するが、工業技術が発達した宋代では、中国各地で白磁や青磁、黒釉など洗練されたやきものが生産された。のちの清朝官窯の絵付けに比べると地味だが、日本人的にはむしろこの時代のやきもののほうが好みかもしれない。
地味に見えるが、技巧を凝らし、手間ひまかけた装飾も「宋磁」の見どころだ。本展で鑑賞できるもののうち、いくつか紹介しよう。

下の画像の3点は、いずれも磁州窯(じしゅうよう)のもの。10世紀から近代まで庶民の日用品を生産した磁州窯は、鉄分を含んだ灰色や褐色の素地に泥状の白土を掛ける白化粧(しろげしょう)という技術を基本に、掻落(かきおとし)や鉄絵(てつえ)、三彩(さんさい)や紅緑彩(こうりょくさい)など多彩な技法を組み合わせ、多種多彩で装飾性豊かなやきものを生み出した。
素地に白泥を掛け、引っ掻いて模様を描く「線彫り」(画像1)。素地に白泥を掛けて線彫りし、できた溝に褐色の土を象嵌(ぞうがん)する「褐泥象嵌(かつでいぞうがん)」(画像2)。そして素地に掛けた白泥を面的に削り落とし、色土の素地を見せる「掻落(かきおとし)」と、緑や黄色の三彩をあわせて用いたもの(画像3)など、いずれも実際に見るとその技巧の複雑さや多様さに驚くはずだ。

宋代の陶磁器は「宋磁(そうじ)」と称され、陶磁史だけでなく、中国工芸のひとつのピークとして評価され、各国で蒐集家たちの垂涎の的となっている。

画像1

「白地線彫唐花文梅瓶」 磁州窯 
北宋時代・11世紀 高さ22.1㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

画像2

「白地線彫魚子地褐泥象嵌牡丹文枕」 磁州窯
北宋時代・11世紀 長径20.3㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

画像3

「緑釉白地掻落黒泥象嵌牡丹文枕」 磁州窯系
北宋~金時代・12~13世紀 長径33.2㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

●地味…だなんて見当違いだった!「宋磁」の注目作品を現場からレポート

岩崎 彌之助、小彌太と2代にわたって蒐集された、世界有数の質を誇る静嘉堂の中国陶磁コレクション。展示される約90点のなかから、展示会場での見方なども含めて紹介しよう。まずは、中国陶磁器の古典とも呼べる「宋磁」から。

「白地黒掻落牡丹文如意頭形枕」 磁州窯
北宋時代・12世紀 長径30.0㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

その姿から「富貴」を意味する牡丹は、唐時代から盛んに栽培されて品種改良も行われた。枕である本作の形は如意頭(にょいとう)といわれるもの。「富も地位も思いのままに……」という夢見を望んだものか?画像は、湾曲した板状の頭を載せる部分。多層の花弁をもつ大輪の牡丹の柄は非常にモダンでもあり、本展オリジナルグッズとして制作されたTシャツやトートバッグにも使用されている。

「青磁鼎形香炉」 南宋官窯
南宋時代・12~13世紀 高さ13.5㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

雨過天青(うかてんせい/雨が通り過ぎたあとの青空のこと)と評したくなるような、理想的な青磁色の香炉。全体に掛けられた釉薬や、南宋官窯の見どころである二重貫入(網目状に広がる黒いひびの間に、白く透明感のあるひびが見られるもの)は、会場で実際に目にすると想像以上に不思議で美しい。

●見飽きることがない!「清朝官窯」の注目作品を現場からレポート!

「五彩百子図鉢」 「大清康煕年製」銘 景徳鎮官窯
清時代・康煕年間(1662~1722年) 口径17.7㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

ひとつの鉢に101人の唐子が描かれている。中国では陽数(奇数)は縁起が良く、101は陽数の極みとも。さほど大きくない鉢に101という数も驚きだが、実は出世モチーフが描かれている。1対(2碗)展示されているので唐子は202人。それぞれの動きや表情など、じっくり鑑賞する楽しみが。

「粉彩百鹿図壺」 「大清乾隆年製」銘 景徳鎮官窯
清時代・乾隆年間(1736~1795年) 高さ45㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

このデザインの壺は耳付きが一般的だが、乾隆帝の「耳がないほうがいい」という指示によってつくられた、ほぼ唯一の作品。鹿は財産などを意味する「禄」と同じ音、松は「寿」を表し、小さく描かれている蝙蝠(コウモリ)は「福」に通じるので、あわせて「福禄寿」になるという吉祥づくし。本作は単体でケースに展示されているので、360度すべてを見ることができる。寛いでいるような鹿ファミリーや、駆けっこをしているような若々しい鹿、求愛中?と思わせるカップルなど、まるで絵巻物を見るような面白さがあって、ぐるぐると何周もしてしまうかも!

画像5

画像4

重要美術品「青花臙脂紅龍鳳文瓶」一対 「大清乾隆年製」銘 景徳鎮官窯
清時代・乾隆年間(1736~1795年) 高さ46.3㎝/46.7㎝ 静嘉堂文庫美術館蔵

一対を龍側同士(画像4)、鳳凰側同士(画像5)にして並べるとそれぞれが向き合う。ひとつの壺のなかでも龍と鳳凰が向き合うように描かれているのだ(画像6と7)。

画像6  画像7

龍と鳳凰という主文様があとから描かれることを想定したうえで、まずは青花で雲や波濤などを描いて本焼成し、臙脂紅で龍と鳳凰を空白部分に描き込んで低温焼成した壺。目を凝らして実物を見ても、青と紅が重なることなく描かれていて見事。さらに細部は点描の集積で表現……と、当時の最高技術が用いられている。


宋代と清朝――。ふたつの“頂”の名品で、中国陶磁器の超絶技巧にたっぷり触れることができる展覧会は、12月17日(日)までの開催だ。

マンスリーみつびし 静嘉堂@丸の内

静嘉堂文庫美術館 静嘉堂@丸の内

展覧会DATA

「静嘉堂@丸の内 開館1周年記念特別展
二つの頂―宋磁と清朝官窯

First Anniversary Exhibition
Twin Peaks:

The Sublime Art of Song Ceramics
and the Sophistication of Official Kilns of Qing


会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)

2023年10月7日(土)~12月17日(日)

会期中休館日:月曜日(10月9日は開館、翌10日は休館)
開館時間:10時~17時(金曜日は18時閉館、入館は閉館の30分前まで)
※会期中、一部展示替えあり


入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※日時指定予約優先(当日券も販売)


関連イベント:キュレーターズ・ダイアローグ「中国陶磁の魅力を語る」
出光美術館学芸課長・徳留大輔氏をゲストにお迎えし、本展担当学芸員の山田正樹と、静嘉堂コレクションの中国陶磁や中国の窯址発掘・研究の最新情報について熱く語ります。


11月12日(日)14時~ 明治安田ホール(明治安田生命ビル低層棟4F)
詳細は静嘉堂文庫美術館ホームページでお知らせいたします。

問い合わせ:☏050・5541・8600(ハローダイヤル)

ホームページ https://www.seikado.or.jp/

X(旧Twitter) @seikadomuseum

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会期中の2023年12月17日(日)まで