三菱のアート

2023.11.16

貴重な史料の展覧会へ行ってみた!

東洋文庫ミュージアムの企画展
「東南アジア~交易と交流の海~」の楽しみ方

今回は、東洋文庫ミュージアムで10月4日から開催されている展覧会「東南アジア~交易と交流の海~」を現場からレポート。 “美術品”としてではなく“貴重な史料”として収集されていながら、鑑賞する楽しさや面白さもある品々を紹介しよう。

●影絵芝居の人形がお出迎え。緻密な細工にびっくり!

まずは第一部「東南アジアを俯瞰する」で展示されている「ワヤン・クリ」の図版だ。
インドネシアのジャワ島で行われる影絵芝居に使う人形や、影絵芝居自体のことを「ワヤン」という。 芝居の主役は細工を施したこの操り人形だ。逆光がつくり出す人形のシルエットや人形そのものを見せるため、 美しい色彩や透かし彫りが施されている。展示されているのはワヤンを描いた図だが、 薄暗いなかでこの人形たちが物語を紡いでいる様子を想像しながらじっくり見てほしい。 ちなみに…ワヤンはひとつの演目が6~8時間かかるという超大作であるため、誕生日や通過儀礼の際などにオールナイトで上演されるのだそう。

「ワヤン・プルウォ」の操り人形。水牛の革に「こんな細工が!」と目を凝らして見入ってしまうはず。

●そもそも東南アジアってどこからどこまで?

アジアとヨーロッパとの交易では、東南アジア原産の良質なスパイスや香木が大きな役割を果たした。 特にヨーロッパの食文化に欠かせなかったのがスパイスで、需要が高まった15世紀以降にはアジアと直接交易をするため新たな航路を開拓。 貿易とカトリックの布教が一体となって行われた。

写真右手前が“フランスの地図製作の父”と呼ばれた、地理学者サンソンによる『モルッカ諸島図』。
モルッカ諸島は「香料諸島』として知られていた。

●貴重な史料である美しい挿絵にも注目!

『アジアの鳥類』
(J・グルード 1850-1883年 ロンドン刊 東洋文庫蔵)

『インドシナ探検行』
(F・ガルニエ著 L・ドラポルト画 1873年 パリ刊 東洋文庫蔵)

東南アジアの豊かな自然に生息する動植物を描いた細密画や、フランス海軍によるインドシナ探検の記録、 そしてあのラッフルズ・ホテルで知られるトーマス・ラッフルズの著書などは、“記録”を超えた絵画作品としても見ごたえが。 自然も文化も異なる外来者は、東南アジアという地域をどのように見つめたのだろう。

“シンガポールの建設者”として知られるイギリスのトーマス・ラッフルズによる『ジャワ誌』。 花嫁や踊り子、高貴な婦人などを見せる展示では、ファッションやヘアスタイルなどに注目したい。

●本展開催の立役者は東洋文庫刊のこの書籍!

15世紀後半以降の東南アジアの市場で、外国からやって来た人々との商業活動を主導したのは現地の女性だ。 『東インド諸島への航海』という書籍に描かれたインド商人とマレー商人を相手に商談する女性の図からは当時の様子がうかがえる。 東洋文庫の東南アジア研究班による成果報告論集の表紙にも採用されている。

『東インド諸島への航海』(ウィレム・ローデウェイクスゾーン著、1915~25年、デン・ハーグ刊、東洋文庫蔵)と、東洋文庫の東南アジア研究班による成果報告論集。

●東洋文庫ミュージアムのスタッフ制服がラオスの民族衣装なわけは…

本展覧会で復活したのが、2011年~2020年にかけて採用されていた東洋文庫のミュージアムアテンダント(MA)の制服。首都ビエンチャンで仕立てた本格的なラオスの民族衣装だ。
スアという上着と、シンと呼ばれる巻きスカートによるもので、どちらも絹地製。
アジア全域の歴史や文化に関する専門図書館であり研究所である東洋文庫らしい制服をと考えた際に、日本ではあまり知られてはいないけれど「アジアのどこかの国の…」と想像できる、 このラオスの民族衣装を採用することになったのだとか。
ほかにも、ベトナムのアオザイをアレンジしたベトナム航空のフライトアテンダントの制服や、インドネシアのろうけつ染めであるバティックのシャツも展示されている。

展覧会期間中、受付などのスタッフも着用。

●東洋文庫ミュージアムにはこんな仕掛けも!

東洋文庫ミュージアムには、企画展以外にもお楽しみが用意されている。そのひとつが展示室に入る前の「回顧の路」だ。

廊下が部分的にガラス張りになっているのがこの写真でわかるだろうか。その上を歩くと…。

ガラスの下の底が見えず、一体どれくらい深いのかわからないのだ。
高所恐怖所の人には堪らない「クレバス・エフェクト」という仕掛けだが、実はこれ、深さはなんと10㎝しかない!  鏡の組み合わせで底なしのように見えるだけで、2005年愛・地球博での三菱未来館@earthでも使われた、特許を取得している技術なのだとか。


このほか、「モリソン書庫」コーナーやミュージアムショップ、別館には小岩井農場が運営するレストランも。 展覧会の紹介とともに、これらの施設もいずれご案内する予定なのでお楽しみに!

美術館データ

東洋文庫ミュージアム

「東南アジア~交易と交流の海」

会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)


会期:2023年10月4日(水)~2024年1月14日(日)
会期中休館日:火曜日、年末年始(12月28日~1月2日)
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
     11月15日(水)は14時最終入館、15時閉館

入館料:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、高校生600円、中学生以下無料


問い合わせ:☏ 03・3942・0280

ホームページ http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/

X(旧Twitter) @toyobunko_m