三菱のアート

2025.05.29

性格は正反対なのに実は仲良し、というストーリーも胸熱!

知ってるつもり!? ルノワールとセザンヌの「違い」がわかる
三菱一号館美術館の“2人展”が面白い

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「日本人によく知られている西洋の画家トップ10」に入るだろう、ルノワールとセザンヌ。19世紀から20世紀初頭に活動した同世代のフランス人画家による〝2人展〟ともいえる展覧会「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」が、イタリアのミラノ、スイスのマルティニ、香港を巡回し、いよいよ東京にやって来る。5月29日(木)から約14週間にわたって三菱一号館美術館で開催される「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」は、〝知っているつもりのフランス人画家〟のイメージを少々変えることになるかもしれない。

パリだけではなく南仏でも、家族ぐるみで親交した!

印象派のピエール=オーギュスト・ルノワール(1841~1919年)、ポスト印象派といわれるポール・セザンヌ(1839~1906年)は、ともに19世紀後半から20世紀初頭にかけてのパリ画壇を彩った巨匠といわれる。印象派の中心メンバーであり、印象派から離れてもサロンでも成功を収めたルノワールと、画家としての登竜門であるサロン(官展)では落選続きで、印象派展にもあまり参加しなかったセザンヌという、異なる個性をもった2人。

ルノワールは陶器産業で知られるフランス中西部のリモージュに生まれ、13歳の時にパリで陶器の絵付け見習い師になるも、工業化のあおりをうけて失職。以前からの夢だった画家になることを目指して画塾に入り、そこでモネやセザンヌに出会う。
一方のセザンヌは、フランス南部のエクス=アン=プロヴァンスの実業家の家に生まれ、名門リセから地元大学の法学部へ進学するが画家になる夢を捨てきれず、父の反対を押し切ってパリへ。
「1860年代から70年代、パリのカフェに芸術家が集まって議論したりするような場面にルノワールは参加していました。一方セザンヌは彼らと接触はしていたものの積極的ではなく、パリと地元のエクスを行ったり来たり。社交的なルノワールと、社交が苦手なセザンヌでしたが、なぜか2人は親密でした。セザンヌのもとを訪れたルノワールが肺炎にかかり、セザンヌと彼の母親が看病したというエピソードもあります」とは、本展覧会を担当した学芸員の岩瀬慧さん。

印象派のグループやパリの芸術家たちの社交の場ではなく、個人的に親交を深めた2人。パリだけではなく、セザンヌのテリトリーである南仏が2人をより近づけたともいえる。
「作品を通しても、たとえば屋外に出て描く風景や風俗、裸婦像、花や果物などの静物画というように、描き方は違っても好んで描いたモティーフはある程度共通しています。セザンヌの代名詞的なりんごを描いた作品や、ルノワールの花の絵、それぞれの親密な人物の肖像画など、今回の展覧会ではオランジュリー美術館とオルセー美術館から52作品をご覧いただけます」

ピエール=オーギュスト・ルノワール「花瓶の花」

1898年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

ポール・セザンヌ「わらひもを巻いた壺、砂糖壺、りんご」

1890~1894年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

顔に青い絵具!? 違いを知ればより興味深く鑑賞できる

親密な交友も、制作の共通点もあったルノワールとセザンヌだが、違いについても知っておくのが作品鑑賞のコツ。「それぞれに鑑賞ポイントがあるところも、2人による本展の面白さだと思います」と岩瀬さん。
印象派が課題としたのは、鮮やかな色彩で太陽の光を画面に採り入れて描き出すこと。絵具は混ぜ合わせて色をつくり出すのではなく、純色に近い絵具を筆にとり、キャンバスに点描や筆のタッチを残して描く筆触分割(色彩分割)という手法が用いられた。液晶画面が小さなドットの集合で映像を見せるのをイメージするとわかるだろうか。

「モネと並び印象派の中心メンバーであるルノワールですが、その作品は彼なりの変遷があります。点やタッチの手法から、線で表現する線描芸術に移行していきます。今回ご覧いただく《風景の中の裸婦》は、人物は少し硬めに表現されていますが、背景は印象派的な技法が残っている作品。線描に回帰したガチガチに硬い作品もありますが、そうではなくふんわりとした印象をうまくつくり、背景の印象派的な手法とのバランスをとろうとしています。裸婦像というモティーフの選択そのものも、ピカソなど新しい世代の画家にはかえって新鮮で受け入れられたようです」

ピエール=オーギュスト・ルノワール「風景中の裸婦」

1883年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

社交的だったルノワールは人脈も広く、サロンに何度も入選するなどして制作の依頼もどんどん舞い込む。ところが一匹狼的なセザンヌは…。
「肖像画であれば、依頼主は美しく、よりよく描いてほしいもの。ルノワールは社交的であるだけでなく注文に応じた制作が比較的できる画家でしたから、評判が評判を呼んで注文も増えます。セザンヌは対照的で、理想的に仕上げるということをしないため、注文主の満足は得られなかったでしょう。そもそも他者に認められることや世間の評判などまったく意に介さず、独自の路線を進んだのがセザンヌです。晩年までまったく評価されない画家でしたから、人物の肖像画制作という注文も1890年代後半、セザンヌが50代半ばを迎えるまで、ほぼなかったと思います」

セザンヌが描いた肖像画は、妻や息子、ごく親しいコレクターといった人に限られていたとか。風景や静物同様、見たままを描くでもなく、理想化することもない。そういった形式に収まらないことの例として、岩瀬さんは「セザンヌ夫人の肖像」を挙げた。
「当時、顔に青色を用いるのは非常に特殊でセザンヌならでは、と思います。妻でなければ怒ったかもしれません。セザンヌは、モデルは動かないものだと非常に厳しかったとか。りんごは動きませんよね、とモデルに言ったという逸話も残っています(笑)。ルノワールはモデルに対してそこまで厳しくなかったようです」
下図の「セザンヌ夫人の肖像」の妻は、まさにビシッと静止している。厳粛な趣きさえある。対するルノワールの「ピエロ姿のクロード・ルノワール」に描かれた幼い三男の立ち姿はどこかやわらかく、体温や息遣いまで感じられるよう。独自の解釈や表現方法を貫いたセザンヌ、幸福感漂う生き生きとした表現のルノワール。それぞれの魅力を感じながら鑑賞してみてほしい。

ポール・セザンヌ「セザンヌ夫人の肖像」

1885~1895年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピエロ姿のクロード・ルノワール」

1909年 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

ルノワール、セザンヌ、そしてピカソ…印象が変わる?

ミラノから始まった巡回展「ルノワール×セザンヌ」。サブタイトルに「モダンを拓いた2人の巨匠」とあるのはどういうことだろう。
「会場構成の最終章が、その意図するところの種明かし的な展示室になります。ピカソがセザンヌの影響を受けていたとご存知の方は多いかもしれませんが、より古典的に見えるルノワールからもピカソは少なからず影響を受けています。20世紀初めのころ、ルノワールとセザンヌはピカソなど新世代の芸術の先駆的な存在だと位置づけられていました。当時2人はセットで語られることが多かったのですが、今回の展覧会はそういう視点も入れて構成しています」

本展のチラシ画像をご覧いただきたい。「きっと、印象が、変わる。」とあるのが読めるだろうか。まさにこのキャッチが本展の核心をついているようだ。
「セザンヌは、視点をずらしたり複数の視点をひとつの画面に入れ込んでみたりというように、見たそのままを描くのではなく捉え直して構築するという独自の作風に移行していきました。だから単純に印象派の画家だとはいいにくく、ポスト印象派というように語られます。そういったところが、キュビズムを創始したピカソやジョルジュ・ブラックらに大きな影響を与えたというのは、大事なポイントのひとつだと思います」

今回の展覧会では、ピカソの作品もオランジュリー美術館より2点出品される。
「1点は、モティーフの形態(かたち)を捉え直し、さまざまな角度から見た視点を複合的に盛り込み、解釈を変えていくというキュビズムらしい静物画で、セザンヌ的な視点の影響も見られる作品です。もう1点は、画面に対してボリュームの大きな裸婦像です。意外かもしれませんが、ピカソはルノワールの女性像を所有しており、古典期にはルノワールの影響が見られます」

「まだあった!」のお楽しみ小企画展も見逃さないで

1894(明治27)年に丸の内初の近代オフィスビルとして建設された三菱一号館。ジョサイア・コンドル設計のこの建物は老朽化により取り壊されたが、2009(平成21年)年、同地に再建され、三菱一号館美術館と「Café 1894」や「Store 1894」として現在に至る。もともとオフィスビルだったそのつくりを活かし、美術館エリアもまるで小さなオフィスの集合体かアパートのように、いくつもの展示室が連なるのが特徴であり魅力だ。
そんな1室を利用して、本展と同時開催となるのが小企画展「フランス近代美術の風景画―コローからマティスまで」。カミーユ・コロー、ギュスターヴ・クールベ、ウジェーヌ・ブーダン、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、アンリ・マティスらの風景作品を計10点展示。ルノワールとセザンヌを鑑賞した仕上げとして、印象派の作品をおさらいできるというわけだ。

「Café 1894」とのタイアップメニューは担当学芸員のお墨付き!

ランチコース、デザート、ディナーやカクテルなど、展覧会とのタイアップメニューも人気の「Café 1894」。今回も絵画のように美しくおいしいメニューが用意されている。特におすすめなのがブイヤベースとか。
「これ、めちゃくちゃおいしいです! 私がマルセイユで食べたブイヤベースよりずっとおいしい(笑)。お食事にはワインやウイスキーなどのペアリングもご提案します。2人の絵画からインスピレーションされて開発されたデザートもあります。ぜひ展覧会鑑賞の前後にお試しください」

上:タイアップランチ「南仏への旅路」2,800円(ニース風サラダ、真鯛のポワレ ハーブのピストゥとタプナードソース、パン、コーヒーor紅茶/販売時間11時~14時)
中:タイアップディナー「魚介のブイヤベース ルイユ添え」2,800円(販売時間17時~22時)
下:タイアップデザート「ルノワール《桃》 桃と紅茶アイスのパリブレスト」1,450円(販売時間14時30分~16時30分)

印象派とポスト印象派の名作を多く所蔵するパリのオランジュリー美術館が、初めてルノワールとセザンヌに焦点を当てて構成した世界巡回展「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた巨匠」。印象派の殿堂ともいわれるオルセー美術館からも作品が集結し、ルノワールとセザンヌの名作約50点が、日本では唯一、三菱一号館美術館にやって来る。西洋美術が語られる際によく見聞きする巨匠によるこの〝2人展〟で、印象が変わるか――丸の内に足を運んで確かめていただきたい。

左から:
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノの前の少女たち」

1892年頃 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
©GrandPalaisRmn (musée de l'Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

ポール・セザンヌ「3人の浴女」

1874~1875年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館蔵
©GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ポール・セザンヌ「青い花瓶》」

1889~1890年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
©Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF

ピエール=オーギュスト・ルノワール「イギリス種の梨の木」

1873年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
©Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF

美術館データ

三菱一号館美術館外観

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより
ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠


会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)

会期:2025年5月29日(木)~9月7日(日)
会期中休館日:月曜日
※7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)、9月1日(月)は開館。また6月30日(月)、7月28日(月)、8月25日(月)はトークフリーデーとして開館
開館時間:10時~18時(祝日を除く金曜日、第2水曜日、8月の毎週土曜日、9月1日~7日は20時閉館、いずれも入館は閉館の30分前まで)
入館料:一般2,500円、大学生1,500円、高校生1,300円、中学生以下無料
※第2水曜日のみ17時以降入館のマジックアワー料金1,800円や、お得な期限付き早割チケットなどの前売券、静嘉堂文庫美術館との特別セット券などもあり。詳細は下記の公式HPにて。

問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)

展覧会ホームページ https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne/

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