トップインタビュー

2023.05.25

三菱ふそうトラック・バス

岐路に立つトラック・バス業界を世界トップクラスの技術で牽引

オープンマインドで多様性を尊重した職場作りを推進したい

三菱関連企業のトップのお考えやお人柄をお伝えする連載『トップインタビュー』。第2回は三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペン代表取締役社長・CEO(最高経営責任者)に、グローバル企業のトップから見た日本人の働き方や、カーボンニュートラル化に取り組む思いを聞いた。

三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEO(最高経営責任者)
カール・デッペン(かーる・でっぺん)

1966年、ドイツ・ニーダーザクセン州生まれ。1990年、当時のダイムラー・ベンツ社に入社。メルセデス・ベンツ社副社長 コスト管理部門本部長、ダイムラートラックホールディングス社取締役 アジア地域責任者などを経て2022年1月より現職。三菱ふそうトラック・バスには2003~2007年(購買・物流本部長)に次ぐ2度目の赴任となる。

――デッペン社長はドイツのご出身で、大学院で経営学修士号(エグゼクティブMBA)を取得したあと、1990年に当時のダイムラー・ベンツ社(現メルセデス・ベンツ社)に入社されています。なぜ自動車メーカーに?

デッペンきっかけは学生時代の教授の紹介です。とはいえ、当時の私は車やバイクが大好きな若者だったので、ダイムラー・ベンツ社での仕事は非常に興味深く、わくわくするものでした。入社するまでは、これほどエキサイティングな会社とは思っていませんでした。

さまざまなバックグラウンドの人との交流は私の財産

――購買部門でキャリアを積み、2011年からは経営に携わっています。トルコや中国、ブラジルなどドイツ以外での経験も豊富です。これまでのビジネス人生を振り返り、一番印象に残っているエピソードをひとつ、お聞かせください。

デッペン答えをひとつに絞るのは難しいですね。光栄なことに、私は自身のキャリアのなかで、さまざまな国籍や文化などのバックグラウンドを持つ方々と一緒に働くことができています。ドイツやブラジル、日本などでの経験を通して、多様な人財が多様な視点を持っていることに気づかされたことは、大きなギフトだと考えています。多様性の半面、優れた人財には共通事項もあります。世界中どこに行っても高いモチベーションと画期的なアイデアや思考を持った方々がいて、強いブランドを体現し、お客様に素晴らしいサービスを提供していました。

――赴任された先々で、素敵な出会いがあったのですね。

デッペンはい。一方で、仕事で落胆した経験もあります。あるプロジェクトを担当していたとき、それが頓挫してしまいました。当たり前のように思っていたことがある日突然なくなってしまったのです。そのときは心底がっかりしましたが、同時に、立ち止まって自分を見つめ直す必要があると感じました。そうしたときに頼りになるのは自分の強みであり、信念です。前に進むためには、引き続き課題に向かって新しいアプローチを探していかないといけないと強く思いました。大事なのは何があっても決して諦めないこと、「Never give up」の精神です。

――2003~2007年にも、三菱自動車工業から独立した直後の三菱ふそうトラック・バスで購買・物流本部長を務めていました。今回トップとして2度目の日本勤務が決まったときにはどう思われましたか?

デッペン20年前に日本で過ごした時間は、今振り返ってもいい思い出しかありません。その頃当社は激動の時代でたいへん困難な状況に置かれていましたが、日本という国で、日本人の方々とともに仕事ができたことには深く感謝しています。ですから2021年に社長就任の話をいただいた時には、大変誇りに思うと同時にうれしかったですね。来てみたら、20年前と比べて大きな進展もありました。20年前に目指していたことがしっかり形になっていたのです。世界でトップクラスの商用車技術、さらに、「お客様第一」の精神で常にお客様に寄り添うビジネススタイルが、実にいい形で融合しているように思えます。日本の物流業界にはいろいろな制約があり、当社のお客様は非常に厳しい状況で経営の舵取りを強いられています。そうしたなかで、当社はお客様が一番よい形で成功を収められるお手伝いをさせていただいています。世界170以上の国と地域でビジネスを展開していますが、成功裡にやってこられたのはこうした強みがあるからではないかと思います。

20年間で従業員の働き方も「グローバル」へと変化

――前回とは資本関係も変わり、三菱ふそうトラック・バスは今や60カ国以上の方々が働くグローバル企業になりました。社長を含め経営陣も半数以上が海外の方です。この環境をどのようにお感じになっていますか?

デッペン実は20年前に私が初めて日本に来たときも、勤務地はこの川崎工場でした。当時も何千人という従業員がここで働いていましたが、外国人はたったの2人。私はそのうちの1人でした。周囲の日本人の方々は「なんだ、変な外国人がいるな」と思っていたかもしれません(笑)。それが今は大きく様変わりしています。日本人がインドやドイツで仕事をしたり、逆にインド人やドイツ人が日本で仕事をしたりすることが当たり前になりました。多様な国籍の従業員の想像力、発想力、知識などを寄せ集めていくことで、お客様に対してよりよいサービスをご提供できるアイデアが生まれます。私たち経営陣も、オープンマインドで従業員と一緒に考えていくという体制ができていると思います。

――20年前に社長の下で働いていた従業員が、「日本人や日本の働き方に大変理解がある」と話していたそうです。日本人の仕事の仕方で好ましいと思われるのはどんな部分でしょうか?

デッペン日本とドイツの意思決定や意思決定に至るプロセスには違いがあるように思います。日本人が優れているのは、包括的に物事を見られること、そして、いったん決めたら全員一丸となってお互いをサポートしながら目標達成に向けて突き進む姿勢です。コミュニケーションのレベルも高いですね。社内外のビジネスの相手に関心を払いながら、高度な責任感と規律を持って仕事に臨んでいます。それこそが、日本のビジネスの成功要因ではないかと思います。

――日本通と伺っています。好きな日本食や日本のエリアがありましたら、お教えください。

デッペン日本は大変美しい国で、時間が許せば、私自身もいろいろなところに出かけて見て回りたいと思っています。とくに素晴らしいのは、北海道から沖縄まで、ひとつの国のなかで気候の面でも寒冷な場所、温暖な場所といろいろあることです。植物もそうですし、日本の食もまた実にバラエティ豊かです。選択肢が多過ぎて、これまで経験したもののなかからどれかひとつを挙げるのは難しいですね。

――ダイムラートラックグループも世界的な大企業ですが、三菱グループと似ていると感じる点はありますか?

デッペン両者には非常に多くの共通点があります。まず、長い歴史があること。そして、強いブランド力を持つこと。私は、ブランドとは「約束」であり、お客様に対して一度やりますと申し上げたことは必ず実行することであると考えています。さらに、世界のいろいろな地域でビジネスをしていること。ルーツは日本、ドイツと異なりますが、それぞれの市場で成功を収めています。そして、私たちはグループのDNAを持っています。それは、異なるビジネス環境や市場に適応できる、適切なやり方に自分たちを合わせていくことができるというDNAです。これも、双方のグループに共通するものだと思います。

――確かに、両グループとも150年近い歴史があります。

デッペン150年近く会社が存続していることを当たり前と考えてはいけません。会社としての根本理念や成功に向けてのアプローチもあるでしょうが、私たち自身も成功するうえではときに自分を見直していく必要があります。その時々の市場環境やお客様の状況に自分を合わせていく、それが一番重要です。ふたつのグループは長い歴史のなかで、こうしたグループの強みや、高いモチベーション、義務感などを醸成してきたように思います。

カーボンニュートラル化の課題を解決する技術開発が急務

――三菱ふそうトラック・バスは日本、北米、欧州において2039年までに新車をすべて電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)に切り替えると発表しています。そうしたなかで2023年3月9日に、フルモデルチェンジして性能や利便性を向上させた小型電気自動車(EV)トラック「eCanter(eキャンター)」の受注を開始しました。トラック・バス業界の現状と、今後どんな会社にしていきたいかをお話しください。

デッペン私たちの業界は今、100年に一度の大きな変革期を迎えています。世界各国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという「カーボンニュートラル宣言」を発しています。素晴らしいアイデアだと思われるかもしれませんが、カーボンニュートラルな社会へと変えていくには大きな課題が横たわっています。当社のお客様の「輸送」事業は現代社会で極めて重要な役割を担っています。例えば、いろいろな物を運ぶ物流は「経済の血液」とも言われますし、学校の送迎バスや観光バスなどは私たちの日常に欠かせない存在で、「現代のインフラ」を構築しているという見方もできるでしょう。そのなかで、私たちのお客様は今の快適なライフスタイルを維持したうえで、カーボンニュートラルへのソリューションを実行していかなければなりません。もちろん、当社もそのソリューションの一部でありたい、そこに貢献していきたいと切望しています。だからこそ、早い段階からゼロエミッション技術(環境汚染や気候変動を引き起こす廃棄物を排出しないエンジン、モーターなどの技術)に投資してきました。当社とドイツの素晴らしい技術の融合から生まれた新しい「eキャンター」は、当社のお客様に対して現代社会の快適な生活を変えることなくカーボンニュートラル化を進めていただくソリューションになり得ると自負しています。

――車両のラインアップや走行距離を増やし、予防安全性能も強化した「eキャンター」は、クライアント様がカーボンニュートラル化を推進する切り札になりそうです。普及のポイントはどんなところにあるとお考えですか?

デッペン大切なのは、お客様の行動様式をしっかり理解することです。何かを変える場合には、行動も変えていく必要があるからです。お客様との対話を通して、お客様はEVの走行距離や、信頼性を気にされていることが分かりました。当社では新しい「eキャンター」が大変効率のよい信頼性の高い商品であると自信を持っており、エコシステムのソリューションを提供することによって、お客様がこうしたゼロエミッション技術に不安のない形で移行していくお手伝いができたらと考えています。実際に利用されたお客様から安心の声・信頼をいただくことで、他のお客様もどんどん続いてくださることを期待しています。「eキャンター」は自信作ですが、当社の取り組みの一部に過ぎません。当社ではお客様のご要望に合わせ、バッテリー技術や燃料電池、水素の推進技術、もしくはこれらの技術をミックスしたものなど、さまざまな脱炭素化に向けた技術開発を行っていきたいと考えています。

国際派ビジネスパーソンとしてのキャリアも豊富なデッペン社長。日本人従業員の仕事ぶりへの評価は高い

――最後に、『マンスリーみつびし』の読者へメッセージをお願いします。

デッペンまず申し上げたいのは、私が、非常に国際色豊かな三菱グループの一員であることを大変誇りに思っているということです。そして、三菱ブランドという力強い企業の一員であることも。ビジネスパーソンにとって業界を問わず重要なのは、常にオープンマインドであることです。多様化が進むなかで心を開いて、自分のアイデンティティをしっかり見つけ、勇気を持っていろいろなことに立ち向かっていってください。将来に向けた準備として、自分の強みや能力をいかんなく発揮していただきたいですね。