Challenges for the Future:
助成者インタビュー

【vol.9】東京2020パラリンピック開会式・閉会式成功に大いに貢献!!栗栖良依氏/認定NPO法人スローレーベル 理事長

昨年の夏の栗栖良衣さんへのインタビュー(本サイトvol.3)では、東京2020の延期が決まったタイミングでお話を伺いましたが、一年後の今年、2021年夏に開催されたパラリンピックの開会式、閉会式は多くの人々に大きな感動を呼び起こしました。栗栖さんはじめスローレーベルのスタッフの皆さん総勢50名が関わり、この成功に寄与されました【写真1】。

【写真1】認定NPO法人スローレーベル 理事長 栗栖良依さん、スローサーカス ディレクター 金井ケイスケさんとのツーショット パラリンピック会場にて
【写真1】認定NPO法人スローレーベル 理事長 栗栖良依さん、スローサーカス ディレクター 金井ケイスケさんとのツーショット パラリンピック会場にて

開会式、閉会式に参加した障がい者パフォーマーの多くは、自らがオーディションに手を挙げ、「これを機会に自分の人生を変えたい」といった強い希望を持たれた方たちでした。また、軽度な障がいの方ばかりでなく、重度の障がいを持った方たちも、強い意志を持って参加されました。こうした方々が開会式・閉会式で思う存分、生き生きとパフォーマンスを披露できた裏には栗栖さんとスローレーベルのこれまでの努力があったと言えます。

その第一は、長年に亘ってスローレーベルが培ってきた障がい者が活躍できる環境を整備するなどのノウハウやリソースが活用されたことです。具体的な例としては、障がいのあるパフォーマーが安全に舞台に立てるように環境を整える「アクセスコーディネーター」という人材を供給しました。また、パフォーマンスの際に、障がい者の方々と一緒に伴奏者としてステージに立つ「アカンパニスト」も大いに活躍しました。「アクセスコーディネーター」は、栗栖さんが東京でのオリパラが決まった直後、障がい者の方々に集まってもらい準備を始めようとしたところ、呼びかけても誰も来てくれなかったという経験がありました。それを機に、障がい者の方々にとって、自宅から普段行き慣れていない場所に移動したり、障害のない人に混ざって活動に参加する上での心理的ハードルがいかに高いかを痛感し、その解消のための人材開発に取り組んできたのです。

こうした人材開発により、障がい者の方々の周囲の環境を整備する一方、障がい者の方々自身のパフォーマンスの芸術的表現能力に加え、身体能力向上が大事である点に着目し、その観点からのトレーニング手法の開発にも取り組んできました。特に、今回の開会式・閉会式は障がい者の方が通常であれば出向くことのない、夜間の屋外でのイベントのため、様々な配慮が必要でした。障がいのある人とない人の垣根を取り除くために、このように具体的なハードルを綿密に把握し、真正面から解決する努力をされてきたのです。

こうして、「アクセスコーディネーター」や「アカンパニスト」が的確なスキルを持って準備・リハーサル段階から、障がい者の方々をサポートしていたところ、一緒に参加していた他の一般スタッフに、そうしたスキルやその背景にあるマインドが伝わり、チーム全員の一体感が生まれました。これが成功のもう一つの大きな要因と言えます【写真2】。

スローレーベルの「アクセスコーディネーター」・「アカンパニスト」は全員で22名程度でしたが、彼らが障がい者パフォーマーをサポートする様子を、一緒に参加した何百人もの大勢のスタッフが見ているうちに、自分たち自身が障がい者の方々に対してどのように接すればよいか理解を深めていきました。

【写真2】エアリアル稽古のようす
【写真2】エアリアル稽古のようす

例えば、開会式・閉会式に参加した多くのプロのダンサーたちは、普段は演出家や振付師の指示に完璧に応えることが重要でしたが、今回は、環境や体調の変化などで予測不可能なところもある個性も強い障がい者パフォーマーの方々と一緒になって、また、目標が「誰一人取り残されることなく、みんなが完走すること」となると、常に周りを見ながら、その場その場で自分の判断でどのように踊るかを考えなければなりません。そうすると、普段以上に自分の個性を発揮することで対応するようになり、その結果、障がい者の方々をサポートするというよりは、対等な立場でお互いの個性をぶつけ合い、とても楽しかったといった感想が多く聞かれたそうです【写真3】。

こうして入念に準備された結果が、テレビを通じて多くの方々がご覧になったように、希望と勇気を与えてくれた素晴らしい開会式、閉会式になりました。障がいのあるなしに関わらず、多様性の中でそれぞれの個性を生かし、また、お互いを尊重する社会を築いていく未来への力強いメッセージが発信されました。

【写真3】アカンパニストの皆さん
【写真3】アカンパニストの皆さん

プロフィール

認定NPO法人スローレーベル 理事長/プロデューサー
栗栖良依(くりす・よしえ)氏

アート、デザイン、エンターテイメントの世界を自由な発想で横断し、人や地域を繋げて新しい価値を創造するプロジェクトを展開。2008年より、過疎化の進む地域で市民参加型パフォーマンス作品を制作。2010年、骨肉腫をきっかけに右下肢機能全廃。障害福祉の世界と出会う。2011年「SLOW LABEL」を設立。2014年にヨコハマ・パラトリエンナーレを立ち上げ、総合ディレクターを務める。パフォーマンスプロジェクト「SLOW MOVEMENT」では、総合演出として創作の指揮をとりながら、障害のある人が芸術活動に参加するための環境整備や支援人材の育成に取り組む。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」受賞。2016年にはリオ・パラリンピック旗引き継ぎ式のステージアドバイザーを務める。東京2020パラリンピック開閉会式ステージアドバイザー。