多彩に活動!みつびし最旬トピックス

多彩に活動!
みつびし最旬トピックス

「歴史の層を感じる街」東京を再発見

ー東洋文庫、古地図片手に丸の内を歩くワークショップ開催ー

タグを選択すると同じカテゴリの他の記事が探せます。

6月2日、日本最古・最大の東洋学研究図書館である東洋文庫が、ワークショップ「見て!歩いて!古地図を楽しもう ~一丁倫敦と呼ばれた丸の内」を実施しました。

三菱第三代社長・岩崎久彌が創設した東洋文庫は100万冊を超える蔵書を所蔵しており、その中には日本およびアジア各地の貴重な古地図も多数含まれています。今回のワークショップは、そうした所蔵資料を活用しながら、三菱グループと深いゆかりを持ち、日本の近代化を象徴する街、東京・丸の内を歩き、古地図を通してその歴史的変遷をたどろうという企画です。座学とフィールドワークを組み合わせた構成で、約20名が参加しました。

前半は、三菱グループの会員制レストラン・三菱クラブで、古地図など歴史資料のデジタル活用に取り組む(株)HUMIコンサルティング代表・中村佳史さんによる講義が行われました。参加者は東洋文庫所蔵の江戸時代の古地図のコピーを見ながら、古地図の基本的な読み解き方について学びます。

まずは座学から。古地図の読み方を説明する講師の中村佳史さん(右)。
先生の話に熱心にメモを取る参加者の皆さん。授業中さながらの真剣な光景。

中村さんによると、江戸時代、現在の皇居周辺には大名屋敷が立ち並んでいましたが、屋敷に表札はなく、訪問には地図が欠かせませんでした。このため、江戸時代を通じて100を超える地図製作業者が存在していたといいます。また、古地図に書かれた城門のマークを見れば、一般人の通行の可否が判断できること、屋敷の主の身分(旗本・御家人など)も、記号を通して読み取れることなどが紹介されました。

さらに、今日の千代田区や港区に見られる地名の多くが、そこにあった大名屋敷に由来していることも紹介され、地図を通じて地名の由来や都市の構造が浮かび上がる様子に、参加者は熱心に耳を傾けていました。

続いて、東洋文庫ミュージアム学芸員・篠木由喜さんが、東洋文庫が所蔵する地図資料について解説。東洋文庫のコレクションの中核を成す岩崎久彌の収集品(岩崎コレクション)には、江戸の古地図が数多く含まれており、それらを通じて、日本の地図出版の歴史をたどることができます。日本の古い地図が宣教師の手によってヨーロッパにもたらされ、西洋の世界地図における日本の姿のもとになっていることも、実際の地図資料を見るとよくわかります。

東洋文庫が所蔵する国内外の地図を教材に、日本の地図の歴史を解説する篠木由喜さん。
参加者に配布された古地図(左)類。この日は江戸と明治、2種4枚の地図を使用。

明治時代に入ると、地図は一般に普及し、訪日外国人向けに制作された地図なども登場します。今回のワークショップでは、江戸期の大名屋敷を描いた切絵図と、明治期の外国人向け地図が、街歩きの際の資料となりました。

後半は、古地図と現代の街並みを比較しながらの街歩きです。和田倉門から出発し、東京駅、三菱一号館、東京国際フォーラム(旧東京府庁跡)、明治生命館、日比谷公園、桜田門、そして二重橋といった、歴史的スポットを歩いて回る、約2時間の行程でした。

地図を手に街歩きスタート。目の前の東京駅と、1990年頃の東京駅の写真を見比べると、写真にはまだ高層ビルがないので空の広さが全然違う!
要所要所で中村さんの解説を聞き、理解を深める参加者の皆さん。今いる場所は江戸の地図だとこのあたり、ということも興味深い。

各ポイントでは中村さんの解説が加えられ、過去と現在の風景の違いを古地図や古写真を通して視覚的に確認することができました。なかでも印象的だったのは、三菱一号館美術館と東京国際フォーラム周辺の風景。現在の東京国際フォーラムの場所にはかつて土佐藩邸があり、土佐藩出身で三菱の創業者・岩崎彌太郎が足を運んでいた場所です。時代を経て十字路を挟んだ反対側に近代オフィスビルの先駆け・三菱一号館を建てた岩崎久彌。どんな思いで一丁倫敦と呼ばれたこの周辺の景色を見ていたのだろうと思うと、見慣れた丸の内の景色が、いつもとは違って見えてくるようでした。

馬場先通りと大名小路の十字路に立つ三菱一号館。2009年に復元、「三菱一号館美術館」としてオープンした。館内には一号館の歴史資料館もある。
1894(明治27)年に竣工したオリジナルの三菱一号館。三菱第二代社長・岩崎彌之助が政府から払い下げを受けた丸の内地区に、三菱が最初に建てたオフィスビル。

「歴史ある街というと、例えば奈良や京都がよく挙げられると思いますが、実は高層ビルの立ち並ぶ東京こそ、江戸・明治・昭和そして現在という歴史の層を感じられる街です。私たちは歴史の流れからは離れられないんだということが、よくわかりますよね」と中村さん。ワークショップの終点となった二重橋が見える皇居外苑で、かつての草原が今や超高層ビル群へと変わった風景を、参加者たちは静かに見入っていました。

将軍家の圧倒的威厳を今に残す江戸城のお堀と、高層ビルが立ち並ぶ現在の丸の内。東京の「歴史の層」がありありと見える。
「三菱が原」と呼ばれた頃の丸の内を描いた絵。購入した彌之助が「竹を植えて虎でも飼うさ」とうそぶくほど、何もない土地だった。

実は今回のワークショップは、受付開始からわずか15分で満席となる盛況ぶりでした。中には栃木県からはるばる訪れた方も。参加した皆さんにお話を伺うと、「東洋文庫の市民講座に前から興味がありました。今回はランチつきの街歩き企画で、気軽に参加できそうだったので友人を誘って来ました」「末廣農場に行ったことがあり、同じ久彌ゆかりの東洋文庫の企画ということで参加しました」「街歩き企画が好きでよく行きます。前から好きだった東洋文庫が街歩きを開催するとウェブサイトで知って申し込みました」といった声が聞かれました。

現在、東洋文庫ミュージアムはリニューアルオープンに向けて休館中ですが(2026年1月開館予定)、その間も蔵書や研究の成果を広く社会に還元するという使命のもと、さまざまなワークショップや講座を開催しています。興味のある方は公式SNSのフォローやウェブサイトでの告知をどうぞお見逃しなく。

※2025年6月16日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。