三菱と横浜の「縁」(えん・ゆかり)

三菱と横浜の「縁」(えん・ゆかり)

横浜で生まれる交流がKAITEKIを加速する

-三菱ケミカルグループ-

横浜の各地を訪問し、三菱グループと横浜が織りなす縁(えん/ゆかり)を紹介するシリーズ。第12弾は三菱ケミカルグループの三菱ケミカルです。同社は横浜市に複数の拠点を持ち、鶴見区では化成品の製造などを行う関東事業所(鶴見地区)が、青葉区では同社で国内最大となる研究開発拠点「Science & Innovation Center」(以下、SIC)が、それぞれ活動しています。今回は2022年に新研究棟を竣工したSICへ。青葉台駅前に地域との交流を推進する「リビングラボプラザ」もオープンし、社内外の研究者のみならず、地域の市民や教育機関などを巻き込んで、循環型社会の実現を目指す新たなイノベーションを展開しています。

※「三菱ケミカルグループ(MCGグループ)」は三菱ケミカルグループ株式会社とそのグループ会社を指します。

横浜で50年、イノベーションのメイン拠点

SICの新研究棟。各フロアを機能別に分け、異分野の研究者とも出会える構造になっている

SICは約21万㎡の敷地(横浜スタジアム約6個分の広さ)に大小約100棟の建物が並ぶ広大な研究開発拠点です。敷地の約4割を森林が占めており、緑豊かな研究環境を維持・保全しています。

横浜におけるSICの歴史は半世紀に及びます。1976年に川崎市から移転。2017年に三菱ケミカル横浜研究所となり、その2年後にSICと改称。基礎研究を中心に中長期的な研究開発をしています。

「三菱ケミカルグループは2035年のありたい姿を描いた経営方針『KAITEKI Vision 35』を策定しました。社会課題に最適なソリューションを提供し、素材の力で顧客を感動させる『グリーン・スペシャリティ企業』を目指しています。現在、国内の主要な10の研究開発拠点で創造性の高い研究に取り組んでいます。ここSICにはビッグデータやAIを活用するハイパフォーマンスコンピュータなど最先端の研究設備を集め、新研究棟がオープンイノベーションのハブとなって、多様な企業や大学、公的研究機関と連携しながら新技術の創出に挑んでいます」と、総務所管部長兼人事グループ長の岡崎大輔さんは語ります。

岡崎大輔さん。SICは研究員の発想と交流を大切にする場所と語る

「KAITEKI」とは、人、社会、地球の心地よさが続いていくこと。その実現を目指して、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの推進に注力しています。自社の多様な技術を、有機、無機、バイオ、機能設計、計算科学、分析物性、プロセスという7つのテクノロジープラットフォームに集約し、技術の進化やソリューションの提供、人材の育成に取り組み、イノベーションを加速させています。

「横浜は大学や企業、公的研究機関が多く、知的資源に恵まれていると感じます。世界にポジティブな変化をもたらすイノベーションへのポテンシャルが非常に大きい都市だと思います」と、岡崎さん。

循環型社会へ向けた市民との共創活動

三菱ケミカルは横浜において、KAITEKIを身近に感じられる新たな拠点を開設しました。それがSICの最寄り駅、東急田園都市線・青葉台駅前にある「リビングラボプラザ」です。地域と連携した活動を盛んに行っています。

リビングラボは「暮らし(Living)」と「実験室(Lab)」を融合した概念で、新しい技術やサービスの開発にユーザーや市民も参加する共創活動やその拠点のことです。リビングラボプラザでは、地域課題の解決や交流の推進を目的としたイベントなどを主催し、地域とのネットワーク構築を図っています。そして市民との対話の中から研究者が新しい観点を獲得することが期待されています。



青葉台のリビングラボプラザ。科学をテーマに市民と研究者がつながる場としてサイエンスカフェなどが開催される
小野祐樹さん。おすすめの自社開発素材を聞くと、主原料が植物由来の「DURABIO™」を教えてくれた

「リビングラボプラザの壁面には、初夏に日本に飛来する渡り鳥・アオバズクの絵が飾られています。研究所のすぐそばに田園風景が広がる寺家町エリアには営巣地がありましたが、近年目撃数が減っています。アオバズクが戻ってこられる自然豊かな循環型の社会を一緒につくっていきませんか?と呼びかけています」。

そう語るのは、リビングラボ活動を担当する、研究推進部 交流推進グループの小野祐樹さんです。社会課題解決のために地域住民の皆さんとの対話を大切にしているといいます。

青葉区の地域課題から生まれた竹炭墨汁

三菱ケミカルのサイエンスと地域が出会うとどうなるか。小野さんに主だった例を挙げていただきました。

「地域コミュニティ『SOZAi循環Lab』と三菱ケミカルが協力し、竹炭を使った墨汁づくりに取り組みました。竹炭を電子顕微鏡で観察すると、吸湿や脱臭にはあまり適した構造ではありません。ですが、とても脆くて崩しやすい。その点に着目して、竹炭をすりつぶして作るクラフト墨汁が生まれました」。

青葉区の地域課題となっている放置竹林を活用するアイデアのひとつになったそうです。

地域の竹林からとれた竹炭
「SOZAi循環Lab」と取り組んだ竹炭墨汁。詳しくはこちら

ケミカルリサイクルの技術を美大生に

横浜美術大学の学生を対象にしたサイエンスカフェ。身近なごみのリサイクルについて対話が広がった

2024年10月には近隣の横浜美術大学の学生を招いて、ごみのリサイクル技術をテーマにしたサイエンスカフェを開きました。

「プラスチックごみの正しい分別を知ってもらう『分別チャレンジ』を企画して、一般的なお菓子や食品のパッケージのうち、リサイクルできるものを当ててもらいました。

専門家とのトークタイムも設け、当社のケミカルリサイクルをご紹介して『環境のために自分たちになにができるか』を一緒に考える貴重な機会となりました」。

ケミカルリサイクルとは、使用済みのプラスチックを化学的な分解工程などによって油やモノマー(プラスチックを構成する低分子化合物)といった原料状態まで戻す技術です。従来のマテリアルリサイクルでは、異なる種類のプラスチックが混ざっているとリサイクルできませんが、三菱ケミカルには「超臨界水」と呼ばれる高温・高圧状態の水の中で使用済みプラスチックを分解・油化することで、効率よく原料レベルの油に再生する設備があります。このリサイクル生成油から作られるプラスチックは新品と同等の品質をもち、これまで安全や衛生面の理由からリサイクル材を使用できなかった分野でも利用が広がると期待されています。

2024年度卒業制作の優秀賞作品「暴れなまず」。
展示作品は半年に1回のペースで継続的に入れ替えている

「美大生の皆さんはアーティストの卵。将来、この技術を私たちとは異なる視点で社会に活かしていただけたらうれしいです」。

横浜美術大学とは、SICのエントランスに卒業制作作品を展示するなど、現在も交流が深まっています。

「科学は楽しい」を取り組みの原点に

専門家が身近なカビの不思議を語るサイエンスカフェ

ほかにも、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5領域を統合的に学ぶSTEAM 教育のイベントや、各種のサイエンスカフェなど、化学の専門家が自社の施設を飛び出して、地域とつながる多彩な活動を展開しています。

「循環型社会の実現を……と、初めから大きく構えるよりも『科学って楽しいね』という体感を原点にしてもらうことが大事だなと感じます。また、ワークショップやサイエンスカフェは大人たちにとっても科学的なリテラシーの再構築に有効だと考えています」と、小野さん。そして当初の目的のとおり、地域との交流は自社の研究者に刺激を与えているようです。

「私自身、子どもたちの視点にハッとすることが少なくありません。イベントに参加した研究者も、市民の皆さんとの会話の中でパッとなにかが開けた表情を見せるときがあります。彼らからポジティブな感想を聞けると、交流担当として喜びを感じます」。

手にしているのはクリンスイ(5年保存水)。ボトルに子どもたち自身が絵をつけることで防災用品を意識するアートワークショップも開催している

三菱ケミカルには研究者の挑戦を促す「10%カルチャー」という制度があります。研究者が業務時間の10%を好きな研究に使える取り組みです。青葉台でのリビングラボ活動も、こうした文化がひとつの土台となっているそうです。研究者どうしが交流できるSICの新研究棟と、イノベーションの萌芽を大切にする企業風土。そこに地域との連携が加わって、今後どんなケミストリーが展開されていくのか目が離せません。

「私たちは、横浜市とともに未来をつくる拠点として地域との共存共栄を大切にしています。皆さんとともに歩み、最先端の科学技術で社会課題に挑みながら、持続可能な社会の実現に貢献していきます」と、岡崎さんは語ります。

横浜という多様性と活力に満ちた都市との深い結びつきと、地域社会との強固なパートナーシップが、イノベーションの可能性を無限に広げる原動力となっています。

※2026年2月20日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。