
5月17日、東京都八王子市の「明治安田生命八王子グリーンランド」にて、英国の名門ラグビークラブ「リッチモンド」を迎え、全三菱ラグビーフットボール倶楽部の選抜チーム「全三菱チーム」と単独チームで出場の三菱製鋼ラグビー部「MSM STEELERS」による親善試合2ゲームが行われた。
当日は朝から雨が降り続き、グラウンドコンディションは終始厳しいまま。それでも3チームとも一歩も引かぬ熱戦を展開し、フィジカルの強さが際立つ試合内容となった。悪天候のなかでも、三菱グループの選手達は持ち味を存分に発揮し、訪れた観客に力強いプレーを届けた。
全三菱ラグビーフットボール倶楽部 ― 各社の力を結集した横断チーム
全三菱ラグビーフットボール倶楽部は、国内ラグビー最高峰のリーグワン ディビジョン1に所属する三菱重工相模原ダイナボアーズをはじめ、三菱グループに所属する約20のラグビーチームをつなぐ統括組織である。
1928年に創設され、2018年には創立90周年を記念してイギリス遠征を実施。グロスターやオックスフォード&ケンブリッジ大学の合同チーム、さらには英国議会チーム(ロンズ&コモンズ)などと試合を行い、海外チームとの交流を深めてきた。
今回のリッチモンドとの親善試合には、三菱商事ラグビー部のFB山田拓磨選手をキャプテンに据え、東京海上日動火災保険、三菱地所、三菱商事、三菱マテリアル、三菱UFJ銀行、明治安田生命保険、三菱電機ビルソリューションズといった各社のラグビー部から計30名の選手が登録された。
特別試合や記念大会の際には、日頃はそれぞれの会社単位で活動している選手が横断的に集い、一つのチームとして「全三菱チーム」が編成されている。
なお、全三菱ラグビーフットボール倶楽部は2028年に創立100周年を迎える。現在、100周年に向けてさまざまな企画を検討している。
リッチモンド・フットボール・クラブ — ラグビーの原点から来た名門クラブ
リッチモンドの正式名称はリッチモンド・フットボール・クラブ(Richmond Football Club)。1861年に創設され、世界で2番目に古いラグビークラブとして知られている。初のクラブ間試合や、世界で最初に創立されたラグビー協会であるラグビーフットボールユニオン(RFU)の創設8クラブの1つとなり、世界初のナイター試合、そしてラグビーの聖地であるトゥイッケナム・スタジアムでの初試合など、ラグビーの歴史を形づくる数々の瞬間に立ち会ってきた。
1986年には女子チームを立ち上げ、2000年代以降に9度のリーグ優勝を達成するなど、女子ラグビーの先駆者的存在でもある。1995年にはプロ化を受け入れ、男子チームはプレミアシップまで昇格。1999年には財政難により一時活動を停止したものの、メンバーの尽力により地域リーグから再出発を果たした。
2016年にはふたたび2部リーグ「チャンピオンシップ」へ復帰し、現在は「ラグビーの原点(Rugby’s Original)」として、男子・女子ともにコミュニティラグビーの最高レベルで活動を続けている。
日本人では日本ラグビー界のレジェンド・平尾誠二氏が大学卒業直後に1年間プレーしたクラブとしても知られている。
なお、リッチモンドでは1963年のケニアを皮切りに、21回のツアーを実施。今回はスタッフや選手、約40名が5月7日に来日。13日間の日程で、平尾誠二氏の母校である同志社大学で「平尾誠二メモリアルゲーム」など、大学や企業のラグビーチームと親善試合を行うとともに、富士山観光や相撲観戦を楽しんだ。
コンディション不良でも、互いの気迫がぶつかり合う好ゲームに

大雨のなか、リッチモンドのタックルを抜け、ボールを持って走る全三菱の相部(三菱商事)。
第1試合は、全三菱チームとリッチモンドとの対戦。全三菱チームは序盤から何度も敵陣ゴール前まで攻め込むも、あと一歩のところでトライにはつながらない展開が続いた。それでも前半24分、粘り強く攻め続けた末にようやくウイングの矢野がゴール左に走り込んで、初トライを奪い、試合の流れを引き寄せた。

矢野(三菱地所)のトライシーン。
途中、視界が遮られるほど雨脚が強まり、パスもつながりにくくなる場面もあったが、両チームの集中力は途切れず、フィジカルな攻防が続いた。なかでも印象的だったのは、リッチモンドの大柄なフォワード陣に対し、全三菱の選手達がひるむことなくボールを持って突進を繰り返す姿だ。試合は10対34でリッチモンドが勝利を収めたが、全三菱の健闘が随所に光った内容だった。

ノーサイドの笛とともに全員が肩を組み合ってお互いの健闘を讃えあう。
続く第2試合は、MSM STEELERSとリッチモンドとの対戦。雨は第1試合よりもやや小降りとなり、パスがつながる場面も見られたが、グラウンドのぬかるみは依然として厳しく、選手達の足元は泥にまみれていた。

声をかけ合い、丁寧にパスをつなぐMSM STEELERS。
とくに目を引いたのは、相手が大型の選手であっても、複数人でしっかりとタックルに入り、確実に止める場面の多さである。普段 からともに練習を重ねてきた仲間同士だからこそ生まれる、信頼と息の合ったプレーが随所に光っていた。
なお、試合は31対12でMSM STEELERSが見事に勝利をおさめた。

第2試合が終わる頃には雨も上がり、それぞれの笑顔も光る。
三菱製鋼ラグビー部「MSM STEELERS」―地道な一歩を、仲間とともに
三菱製鋼ラグビー部「MSM STEELERS」は、地域リーグのひとつである関東社会人リーグ1部に所属し、昨シーズン(2024–2025)には悲願のリーグ優勝を果たした。部員は約30名。千葉県市原市と東京都江戸川区を拠点に、平日は業務に励みながら、週末や業務後の時間を活用して練習に取り組んでいる。
今シーズンは5人の新メンバーを迎え、No.8西松大輝キャプテンのもと、チーム力のさらなる向上を目指している。ラグビーを通じて心身を鍛えることはもちろん、チームワークや責任感といった企業人としての基盤を育む場として、社内外から厚い信頼を寄せられている。
試合が終われば肩を寄せ、ビールでお互いを讃え合うアフターマッチファンクション!
試合後には、戦いを終えた選手達が健闘を讃え合い、交流を深める「アフターマッチファンクション(After-Match Function、試合後の交流会)」がクラブハウスにて行われた。
ラグビーでは、どれほど激しくぶつかり合っても、試合が終わればノーサイド。勝敗を超えて、互いの健闘をたたえ、友情を育む。アフターマッチファンクションは、そんなラグビーならではの文化を体現する場である。勝敗以上に大切にされる、人と人とのつながりを象徴する時間だ。

千葉会長の合図で、選手、スタッフ全員で「カンパイ!」。
今回も、3チームの選手達は泥だらけになったジャージを脱ぎ、リラックスした表情で交流に臨んだ。ファンクションの冒頭では、全三菱ラグビーフットボール倶楽部の千葉太会長が英語と日本語を交えてスピーチ。伝統あるリッチモンドと親善試合を実現できた喜びと、多くの関係者による支援への感謝の言葉を述べた。

リッチモンドから記念のボールが千葉会長に手渡された。
痛いけど、仲間のために戦う。相手を讃える。そんなラグビーの魅力とは

激しくぶつかりあったり、タックルしたり、見応えのあるラグビー。危険そうにも見えるが、本来は紳士のスポーツだ。仲間との協調性を大切に、相手のことをリスペクトするので、仲間づくりや子どもの成長にも良い影響を与えることができると言われている。そんなラグビーの魅力を全三菱ラグビーフットボール倶楽部の千葉会長、池田監督、山田キャプテンに聞いてみた。

全三菱ラグビーフットボール倶楽部会長
千葉 太 氏(三菱地所)
今回、リッチモンドのような伝統あるラグビーチームと対戦する機会をいただいたことに心から感謝します。
ラグビーは「One for all, all for one」の精神を体現するスポーツです。
ラグビーは、正直言って痛いし、怖いし、きつい。ですが、自分を犠牲にしてでも仲間のために体を張って戦う。そこにラグビーならではの魅力があると思いますし、そんな強い責任感とプライドを持った素晴らしい仲間が沢山できるところもラグビーの良さですね。そして、試合が終わればノーサイド。勝敗を超えて、相手を讃えるという文化が根付いている点も、他のスポーツにはない魅力だと思います。
今心配していることはラグビー人口の減少です。危険だというイメージを持たれることもありますが、安全確保の為に毎年のようにルールが改正され、事故を防ぐための配慮がなされていますので、ぜひ多くのお子さんにラグビーを経験してもらいたいですね。

全三菱ラグビーフットボール倶楽部 監督
池田 元氏(三菱地所)
リッチモンドは、実際に対戦してみてあらためて、フィジカルの強さだけでなく、スキルの高さも兼ね備えた、非常にいいチームだと実感しました。今回は、全三菱チームとして各社から比較的体格のある選手を選出して臨みましたが、厳しい天候のなかでも選手たちは集中力を切らさず、よくリッチモンドと戦ってくれたと思います。とくにあの雨と足場の悪さの中で、最後まで身体を張り続けた姿勢は評価に値しますし、チームとしてのまとまりも感じられました。
会長も話していたように、ラグビーは仲間のために戦うスポーツです。自分のためだけでなく、チームメイトのためだからこそ、限界を超える力が出せるという場面がある。
せっかくですので、読者の皆さんにも一度ラグビーの試合を観戦してみていただけたらうれしいです。リーグワン所属の三菱重工相模原ダイナボアーズのようなプロチームでもいいですし、自社や地域にあるクラブチームでも構いません。強いチームには手に汗握る緊張感がありますし、たとえ勝てないチームでも、選手たちのぶつかり合いや走り切る姿からは、十分すぎるほどの迫力を感じていただけると思います。

全三菱ラグビーフットボール俱楽部 キャプテン
山田 拓磨氏(三菱商事)
伝統あるリッチモンドと親善試合をさせていただけたことは、本当に貴重な経験でした。天候には恵まれませんでしたが、それぞれの選手が自分の持ち味を発揮し、いい試合ができたと思っています。ラグビーは、一人ひとりが異なるバックグラウンドを持ち、得意なこともさまざまです。それぞれができることを持ち寄り、声をかけ合い、工夫しながらひとつのボールをつないでいく。そうした積み重ねが、まさにラグビーの醍醐味だと感じています。
また、ラグビーに取り組むことで、自然と仕事に対する責任感や姿勢も磨かれていきます。グラウンドでは状況判断が求められる場面が多くありますが、その判断力は、ビジネスの現場でも大いに活かされていると実感しています。