特集

2023.08.31

防災

関東大震災から 100 年、技術革新と共創によってレジリエントな社会を構築 <三菱グループの防災への取り組み ―前編―>

関東大震災発生時に開設された三菱臨時診療所

「ドナタデモ」。これは100年前、1923年に発生した関東大震災で丸の内に開設された三菱の臨時診療所の壁に書かれた文字だ。三菱グループは、関東大震災直後、丸の内診療所をはじめ6ヶ所の三菱臨時診療所を開設、延べ4万人以上を手当てした。

あの日から100年。今、レジリエントな社会の構築が求められているなか、前後編にわたって三菱グループの防災に対する考え方や取り組みについてご紹介していく。前編は三菱地所グループと三菱ケミカルグループの取組を特集する。

大丸有エリア全体で防災の意識を高める三菱地所グループ

100年前に起きた関東大震災。三菱地所の防災に対する取り組みはそこから始まった。当時、三菱臨時診療所を開設し多くの人々を救って以来、三菱地所は、自分たちの命を助けるだけでなく、まちの人々とともに助け合うための訓練を地道に行ってきた。

帰宅困難者を受け入れる

2011年に発生した東日本大震災では、震源地から遠く離れた関東でも交通インフラが麻痺し、大量の帰宅困難者を出すことになった。まちが混乱を極めるなか、かねてから帰宅困難者の受け入れを訓練に取り入れていた三菱地所は自主的に受け入れを行い、2012年には帰宅困難者収容施設に関する協定を千代田区と締結した。三菱地所総務部の田中 京祐さんはエリア防災に取り組む理由について説明する。

「ビル単体の防災訓練では、有事の際にビルの設備や大きさ、管理会社さんの運用レベルなどによってばらつきが出てしまいます。エリア全体で取り組むことによって、対応力やマンパワーを含め支援できることの幅が広がります。三菱地所では『防災隣組』という名称で、大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)の他社管理を含めたビル、テナント様、行政と連携しながら、相互で帰宅困難者の受け入れや備蓄品のやりくりなどをできるようにしています」

三菱地所が毎年9月に行っている防災訓練も今年で97回目となる。2023年からは来街者に対しても開かれた訓練メニューを増設。消火器や消火栓の操作訓練、座るだけでリアルな揺れを体験できる地震ザブトンの展示ブースなどを設けるほか、丸ビル、新丸ビルの就業者が一斉に避難する大規模な訓練も実施する。

三菱地所レジデンスによる防災訓練で住民が自ら動く

三菱地所グループの三菱地所レジデンスでは、マンションの共用部に防災倉庫を設け防災備品を設置し、防災計画書を物件ごとにオリジナルで作成。さらに、より実践的な活用を目指し、2014年に社員有志による組織「三菱地所グループの防災倶楽部」を発足した。現在は約140人のメンバーが所属。過去9年間で122物件、延べ3万9071世帯で防災訓練を実施した。

2014年10月に三菱地所レジデンス社員有志による「三菱地所グループの防災倶楽部」を発足

防災倶楽部がまず初めに行ったことは、東日本大震災被災者のリアルな声を届けることだった。地震発生時の様子だけでなく長引く避難生活で直面した数々の困難。報道ではオブラートに包まれがちなトイレについても、衣装用ケースに用を足した、高齢者がトイレを我慢するため食事を摂らなかった、といったリアルな声をそのまま伝えた。その言葉は居住者たちにとって被災を自分ごととして捉え、自発的な防災行動につながるきっかけとなった。防災倶楽部に携わる三菱地所レジデンス 経営企画部 サステナビリティ推進グループ 澤野 由佳さんは次のように説明する。

「トイレにおいては、水や食糧と並んで非常に困ったというお話をお聞きしたので、各マンションにおける防災訓練でも、下水道管路のマンホールの上に簡易的なトイレ設備を設けるマンホールトイレを実際に組み立てる訓練をしています。安否確認訓練も必ず行います。安否確認シートを各住戸の扉に貼り、担当の居住者が1戸1戸確認。実際にやってみることで、近隣に住んでいる人のことを意外と知らないことに気づき、ふだんからコミュニケーションを取ることで、災害時の助け合いにつながると実感。まずは挨拶から始めようと取り組み始めたマンションもあります」

さらに、タワーマンションではエレベーターが停止した場合を想定し、ウォータータンクに水を入れて階段で高層階まで運ぶ訓練や、ハザードマップに該当するマンションであればその災害を想定した訓練をするなど、物件のニーズに合わせた防災訓練を行う。

マンホールトイレを実際に組み立てる訓練

そして、三菱地所同様、三菱地所レジデンスにおいても、まち全体のエリア防災に取り組む。千葉県の「津田沼奏の杜」エリアでは三菱地所グループが分譲・管理している4物件に加え、同エリアの戸建居住者・他社分譲マンションの管理組合とも協働しながら約2,300世帯を対象に防災訓練を行い、行政や地域の学校、商業施設とも連携。ハード面の強化だけでなく、人々の意識や人と人の繋がりといったソフト面をまち全体で強化することで、災害を乗り越えるレジリエントな社会を目指す。

三菱ケミカルアクア・ソリューションズの地下水膜ろ過システムが水のBCP対策に

人々とまちが災害を乗り越えるうえで欠かせないものが、水だ。電気やガスに比べて水の自助のハードルは高い。三菱ケミカルグループの中で水処理を担う三菱ケミカルアクア・ソリューションズが開発した地下水膜ろ過システムは、井戸からくみ上げた地下水を浄化し飲用水とすることで水ライフラインを確保し、事業継続(BCP)を可能にする。現在、役所や駅、学校、商業施設、ホテル、スポーツクラブなど1300件以上に導入されている。ある自動車会社では地域と災害協定を結び、有事の際は地下水膜ろ過システムによる水を自社の給水車で地域に運ぶ。

販売が始まった1997年当時は、単価の安い井戸水を活用して水道代を削減しようという目的で導入するケースがほとんどだったという。転機となったのは東日本大震災。水道管の破損などによる断水があったなか、このシステムを所有する施設では、一時的に停電によって稼働が止まったところもあったが、電気が復旧次第、問題なく水を使うことができた。

「震災以降は医療機関からの注文、問い合わせが増えました。介護施設でも災害時に入居者様にすぐに移動していただくことは難しいため、たとえ経費節減にならなかったとしても、発電機とセットで導入したいというお客様が増えました」

と語るのは、同社ウェルシィ事業部 地下水営業部長の藤林 一博さん。藤林さんによれば、施設の設計の段階から井戸水が使えるかどうか問い合わせをするケースも増えたという。


飲料水はペットボトルで備蓄できたとしても、生活用水はなかなか手に入りにくい。近年は地震だけでなく気候変動による自然災害も増加している。2019年に千葉県を襲った台風においても、停電を起因とする長期の断水が起きたが、地下水膜ろ過システムを導入する透析医療の施設から「何とかシステムを継続して稼働したい」と依頼され、協力会社とともに尽力した。同営業部の金子 栄二さんは次のように語る。

「水道事業を管轄する自治体としてはこうしたシステムは抵抗があるかもしれませんが、庁舎が断水しては職員たちがトイレにも行けず災害対策本部の機能が下がってしまう可能性があります。このシステムの導入をご検討いただきたい」(金子さん)

「弊社は、BCP対策として『非日常には日常から対応』を掲げています。ふだんからこのシステムをお使いいただくことで、いざというときにも問題なく水を使い続けられる。断水被害にあったあるお客様からは『ふだんは意識していなかったけれど、いざというときにありがたみを感じました』とおっしゃっていただきました」(藤林さん)

官民連携により日常から災害時に対応

非日常には日常から対応――。三菱地所が丸の内に約100台設置したデジタルサイネージ「丸の内ビジョン」は、ふだんはエリア内のCMや街の情報を配信しているが、災害発生時には、帰宅困難者受入施設の受入状況や備蓄品の配布状況、官公庁発信の地震情報など災害情報を集約して発信するプラットフォーム「災害ダッシュボード」に変わる。現在、千代田区災害対策本部と連携し、機能強化を進めているところだ。

三菱グループは日々進化するテクノロジーを生かしながら、地域の人々と手を取り合い災害に立ち向かう。

INTERVIEWEE

三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社

ウェルシィ事業部 地下水営業部長 兼 地下水カスタマー部長 藤林 一博

ウェルシィ事業部 地下水営業部 担当課長 金子 栄二

ウェルシィ事業部 地下水営業部 栗原 邑珠