特集

2023.09.21

防災

関東大震災から100年、技術革新と共創によってレジリエントな社会を構築 <三菱グループの防災への取り組み ―後編―>

1923年に発生した関東大震災では、6ヶ所の臨時診療所を開設、延べ4万人以上を手当てした三菱グループ。あの日から100年。グループ企業が取り組む技術革新に加え、他社とも共創し、レジリエントな社会の構築に尽力してきた三菱グループの防災への取り組みをお伝えする。今回はその後編。三菱電機グループ、東京海上日動の活動及び三菱総合研究所が提唱する「レジリエントな社会」を総論としてご紹介する。

技術開発とエンジニアの体制強化、双方向から安全を守る三菱電機ビルソリューションズ

マンション、オフィス、病院、公共施設、商業施設⋯⋯高層化する現代の暮らしにおいてエレベーターはなくてはならないものとなっている。エレベーター・エスカレーターの開発・製造から据付・保守まで行う、三菱電機グループの三菱電機ビルソリューションズは、地震動のいち早い検知や異常時の対応システムなど長年培ってきた技術に加え、専門のエンジニア約6,000人の連携による早急な復旧対策とバックアップ体制といった多岐にわたる地震対策を備え、利用者の安全維持に取り組んでいる。

エレベーターの地震対策のひとつ「P波センサ付地震時管制運転(EER-P)」は、大きな揺れの(本震)S波より数秒前にやってくる初期微動P波をセンサが捉え、最寄り階に停止してドアを開く。その後到達した本震の大きさを地震感知器(S波センサ)が確認し、揺れが大きい場合には安全のため自動的に休止する。

休止したエレベーターを復旧するには、エンジニアによる点検が必要となる。エンジニアは、巻上機、制御盤の転倒や破損がないか、ロープ、制御ケーブルの絡まりや引っかかりがないかなど、機械室や昇降路内を細かく点検する。大規模な地震によって多数のエレベーターが休止した場合、1台1台エンジニアが回らなければならないため、復旧まで数日かかってしまうこともある。さらに、余震が繰り返し発生する場合もあり、その都度、復旧が必要となり相当な時間がかかってしまう。

早期復旧の助けとなるのが「ELE-Quick(エレクイック)」だ。「ELE-Quick」 は、休止したエレベーターにおける異常の有無を自動診断し、自動で復旧するシステム。ロープやケーブルが干渉していないか、戸開閉に異常がないか、異常音がしていないかなどを自動で確認することにより、異常がなければ運転休止時間を約30分(最下階から最上階の高さが30mの場合)にまで短縮することができる。復旧後は、安全のためエンジニアが再確認に訪問する。

三菱電機ビルソリューションズ 事業推進本部の岸本 俊氏は次のように語る。

「ELE-Quickは2006年10月から運用されており多くの実績があります。2021年10月に発生した千葉県北西部地震では、「ELE-Quick」の自動診断の対象となったエレベーター※の約80 %を自動復旧できました。大規模な地震が発生した場合は、交通機関や通信回線などの混乱により、復旧に時間がかかることが予測されます。「ELE-Quick」を導入いただくことでご利用のエレベーターを自動復旧できるだけでなく、エンジニアが病院、公共施設、高層住宅など緊急性の高いビルに優先的に駆けつけられるので、地域全体のエレベーターの早期復旧に貢献することができます」

日本は地震大国だ。2023年5月にも千葉県南部で震度5強を観測する地震が発生した。この時は、2,887台のエレベーターが停止したが、「ELE-Quick」による自動復旧と、早朝4時の地震発生直後から500人以上のエンジニア出動により、同日正午までには98.4%のエレベーターを復旧することができた。

頻発する地震に備え、エレベーターの耐震機能を向上させる技術開発というハード面と、一刻も早く現場に向かい、復旧するエンジニアの体制強化というソフト面の両面に日々取り組み、人々の安全を守っている。

※ELE-Quickの契約をしており、感知器(低)が作動して運転休止したエレベーター

東京海上日動が100以上の企業が参画する防災コンソーシアムを発足、災害レジリエンスの向上に取り組む

2021年11月、14の企業によって防災コンソーシアム「CORE」が発足した。発起人を務めているのは、東京海上日動。現在、業界をリードする100以上の企業が参画し、多種多様な業界が防災への高い関心を持っていることがわかる。

東京海上日動ではかねてより、自社とグループ会社のソリューションを用いて、防災・減災の検討を続けてきた。だが、保険会社のケイパビリティだけでは、激甚化する日本の自然災害に対するソリューションを全面的に供給することは難しいのではないかと課題を感じていたという。

そこで、業種の違う企業がタッグを組み、最先端テクノロジーを連携し、デジタルとデータを掛け合わせながら官民一体となることで、様々な災害に対応する商品やサービスの提供ができると考えた。そして“災害に負けない強靭な社会” の実現を目指す。その思いがCORE発足のきっかけとなったという。

COREでは複数の企業が防災・減災の4つの領域(現状把握・対策実行・避難・生活再建)における研究・実証実験・社会実装を行う分科会を設立して具体的なソリューション開発を行っている。東京海上日動では分科会を主導する企業を募集し、そこに参画したい企業との技術マッチングや連携を支援。また、防災においては、官民連携も重要なテーマとなるため、民間企業としての声を取りまとめて各省庁に届ける。

現在、10の分科会が立ち上がっており、ソリューションの検討や、参画企業間の協業が活発に行われている。そして、いよいよ具体的な事業展開を開始するフェーズに入った。「リアルタイムハザードマップの開発」もそのひとつ。水災における逃げ遅れや被害を極小化するために、防災IoTセンサやSNSなどから取得するリアルタイム情報の活用に加え、地域に設置された防犯のカメラ映像から発災の予兆や状況のAI解析を行う。平時から活用している防犯カメラを利用することで、低コストかつ迅速に、全国を網羅することができる。

この取り組みは、防犯カメラの映像を提供するセコム、その解析をするパスコ、防災IoTセンサの提供や防災データの処理を行う応用地質、そして企画運営全体を統括し、実際にお客様にご提供していく役割を東京海上日動が担う。

東京海上日動のdX推進部 ビジネスデザイン室の細貝 啓氏と、石崎 雄大氏は次のように語る。

「防災領域でビジネス化を試みるCOREの方針に多くの企業にご賛同いただいています。ただ、防災領域はマネタイズが難しい。こうした防災領域でのビジネス化をめざす任意団体は国内で初めてです。先陣を切って国に対してコミュニケーションを取り、官民一体で強靭な社会構築の実現を目指しています。」(細貝氏)

「COREを通じて単なる共創だけではなく、防災領域のマーケットそのものを大きくしていきたいです。しっかりとしたマーケットがあったうえで、各社の共創・競争が可能になる。COREがその一助となればと考えています。」(石崎氏)


東京海上日動は、保険本業でお客様の“いざ”を支えることは元より、防災・減災や早期復旧・再発防止といった保険事故の「事前・事後」の領域にビジネスを拡大させることで、“いつも”支えるパートナーへと進化し、自然災害のリスクと共に歩むレジリエントな世界をめざす。

三菱総合研究所が提唱する「レジリエントな社会」とは、助け合いの循環がある社会

三菱総合研究所は2023年4月にレポート「関東大震災から100年、全体で助け合う『レジリエントな社会』の実現へ」を発表した。このレポート執筆にあたった三菱総合研究所 政策・経済センター特命リーダー/博士(工学)の山口 健太郎氏は、「当社が提唱する『レジリエントな社会』とは、『自発的な行動を起点として全体で助け合う社会』を指す」と語る。

例えば、コロナ禍では重症者に対しても軽症者に対しても一様に、食料などたくさんの物資が送られてきた。感染者の増加により配送には約1週間ほどの時間を要した。軽症者にも公助の負担がかかり、結果重症者に対する早期の支援が難しくなってしまった。災害発生時も、同様のことが起きる可能性があるという。

「個人による自発的な防災行動を誘引し、個人が誰かのために、あるいは社会のためにできることを行うことで、公助リソースに余裕が生まれ、本当に困っている人たちに手厚い公共サービスを集中させることができます。その助け合いの循環ができている社会が『レジリエントな社会』だと考えます」

レポートでは、事前防災行動に関心をもちながら、まだ行動を起こしていない人たちが、首都圏住民の50~60%に上ることを明らかにし、その人々の事前防災行動の促進が、「レジリエントな社会」実現に向けたカギだとしている。個人の事前防災行動を後押しするためには、日常生活と事前防災行動とをストレスなく接合するサービスの開発が求められる。三菱総研は、このサービス開発に資するよう、首都圏住民7,000人を対象に、基本属性や困難に立ち向かう能力、日常的な関心・行動などの生活者データ「パーソナル・レジリエンス・プロファイル」(以下「PRP」)を作成した。

「防災には関心がない人でも、生活において大切にしているもの、守りたいと考えているものがあると思います。それは、プロファイルデータを見ればある程度わかります。例えば、サーフィンが好きな人であれば、一般的な防災の話は関心を持ちにくいかもしれませんが、津波の話であれば関心を持ってもらいやすい。災害が起こってから『みんなで助け合いましょう』と説いても難しい。その人のライフスタイルや好みに合ったアプローチを取ることで、企業や行政は、その人が日常から自発的な防災行動を起こしやすいサービスを提供することができます」

行政・企業によってこうした生活者データの活用が進めば、個人は多様な選択肢の中から自分好みのサービスを選び、無理なく事前防災行動を起こし、災害時に「我慢しない被災生活」を送れるようになる。それが「レジリエントな社会」の実現につながっていく。

では、そのようなサービスを提供する企業側は、どのような心構えが必要だろうか。

「ビジネスとしては利益を生み出すことも必要ですが、前提として市民一人一人が自分の生活を大切に思えるようになるためのサービスを設計すること、それが社会全体のためになるというパーパスをしっかりと持っておくことが重要です。長い道のりではありますが、市民が自分の生活を大切に思えばそれを守りたくなり、災害に限らずさまざまなことに備える行動を起こすように変わっていくでしょう。しかし、単体のサービスだけでそうした変化を起こすには限界があります。さまざまな業種や行政とも連携しながら総合的なサービスを設計していかなければ、レジリエントな社会は実現できないと思います」

助け合いの循環ができるレジリエントな社会に向けて、三菱グループはこの先の100年も防災への取り組みを続けていく。

三菱地所が官民の垣根を超えてまちぐるみで防災訓練を実施

新丸ビルで行われた警視庁機動救助隊による高所からの救出救助訓練の様子

9月1日(金)、三菱地所は、丸の内エリアを中心にグループ社員約2,000人が参加する防災訓練を実施した。2023年度は警視庁・東京消防庁と連携し、東日本大震災クラスの地震を想定した多様な訓練を行った。
新丸ビルでは火災発生を想定して放水し、高層ビルで逃げ遅れた人を消防隊員がはしご車を使って救出した。行幸通りでは大規模な交通規制を行い、多重衝突事故で車内に閉じ込められた人を警視庁機動救助隊が油圧式はさみでこじ開けて救出、国土交通省と東京都建設局が事故を起こした車両を移動させた。停電で消えた信号機を三菱自動車の電気自動車を使って復旧させる作業も行った。
三菱地所はこれまで「三菱地所総合防災訓練」として毎年訓練を続けてきたが、この97回目からより地域に開かれた訓練にする意味を込め、名称を「ひと×まち防災訓練」に変更。今後も官民連携の強化に務める。