各社のトピックス

2023.11.30

三菱ケミカルグループ

MITSUBISHI CHEMICAL GROUP CORPORATION

三菱ケミカルグループが開発した“すごい素材”が宇宙へ! 世界最小最軽量の月面探査車『YAOKI』をサポート

手のひらに載るほど小さく、凸凹の地でも七転び八起きして走り続ける、世界最小最軽量の月面探査車『YAOKI(ヤオキ)』。 三菱ケミカルグループは、2023年度後半の打ち上げを待つこのYAOKIを開発しているスタートアップ企業・ダイモン社とパートナーシップ契約を結び、製作をサポートしている。

YAOKI本体には、同社が開発した「シアネートエステル樹脂製CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」を使い、タイヤには衝撃強度が高い 「PAI(スーパーエンプラ・ポリアミドイミド)」を提供。これらは昼に110℃、夜は-170℃と200℃以上もの温度差がある、過酷な月面環境に耐える部材となっている。

しかも、YAOKIは重量がわずか498gと非常に軽い。月への輸送コストは1kg約1億円となる。本体をアルミ素材からCFRPに変えることにより、耐衝撃強度の安全率を5倍に高めながらも、 3割の軽量化を実現し、輸送コストはじつに1基あたり約400万円も削減できた。YAOKIは今後順次打ち上げ、最終的に約100機による月の探査を目指している。 強度を高めるだけでなく、軽量化、低コスト化は不可欠な条件なのだ。

さらにカメラレンズには、同社が開発したレゴリス付着抑制コーティング剤を塗布している。 レゴリスとは、月面を覆っている、約50ミクロン(1mmの20分の1)ほどの非常に細かく尖った粒子の砂。 走行中に巻き上がったレゴリスがレンズに付着すれば正確なデータが取れなくなってしまうというやっかいなものだが、このコーティング剤によって、付着を抑制する。

1985年からピッチ系炭素繊維の開発に携わってきた中越 明さんは、同社の技術について胸を張る。

「地球上で月の状況すべてを再現することはできないけれども、弊社のR&Dの拠点である『Science Innovation Center』で強度解析を重ね、 打ち上げ時の振動については九州工業大学で何度も試験しました。また、地球の6分の1の重力という月の環境を約1秒間だけ再現できる、 北海道の植松電機さんの設備での走行試験や、真空の状態で模擬砂を敷いた走行試験など、 ダイモン社が実施するできる限りの試験はすべてやりきり、ベストを尽くしました」(中越さん)

同社が宇宙ベンチャーと協業するのは初めての試み。今回のダイモン社を皮切りに、宇宙ベンチャーと幅広くコミュニケーションを取る機会が増えてきている。

宇宙分野の新しい価値創造に向けて、若手・中堅社員のプロジェクトもスタート

海洋プラスチックごみ検出後の衛星画像

海洋プラスチックごみ検出後の衛星画像

素材を扱う三菱ケミカルグループと宇宙分野との関わりは長い。同社の炭素繊維が最初に宇宙事業に採用されたのは、1997年~2017年運用の土星探査機『カッシーニ』だ。
記憶に新しいところでは、2019年に世界初となるブラックホールの撮影に成功した、チリのアンデス山脈の電波望遠鏡『アルマ』でも同社の技術が使われている。 66台のパラボラアンテナのうち、欧米が担当したアンテナの主鏡(光を集める一番大きな鏡)50台の骨組みにピッチ系炭素繊維が採用された。

こうした高い技術を宇宙ビジネスにさらに広げていこうと、新しい動きも出ている。若手・中堅社員6人が「新規事業創出プロジェクトチーム」を立ち上げ、 人工衛星データを用いて海洋プラスチックごみを効率的に回収し、そのプラスチックを人工衛星など宇宙用途に再生するプロジェクトを進めている。 このプロジェクトは、JAXAが出資したスタートアップ企業の天地人や、早稲田大学 創造理工学研究科 総合機械工学専攻 宮下研究室と連携している。 新規事業創出プロジェクトチームメンバーの西田 梨恵さんは、「宇宙に関わる仕事をしていると、ワクワクが止まらず常に楽しい」と語る。

「宇宙ビジネスは新しい領域であり、一社だけでは何もできないので、企業同士も“競合”というよりも“仲間”のような感覚。 『みんなで押し上げていくぞ』という勢いを感じます」(西田さん)

国の2023年度宇宙関連予算の総額は6,119億円となっており、2022年度に比べ900億円も増額。 三菱UFJ銀行の調査レポートによるとグローバル宇宙市場規模は2023年56兆円から2030年には91兆円へ拡大する。中越さんは今後の展望について、次のように語る。

「新規事業創出プロジェクトチームも研究者もワクワクした気持ちになって、さまざまなアイデアを提案してくれています。 ただ、そうしたアイデアがビジネスにつながらなければ、研究を発展させていくことはできません。当社は『Science. Value. Life.』をスローガンとしています。 『Science. 』においては強い力があるけれども、それをいかに『Value. 』につなげていくか。それが今後より重要になります。 今回、YAOKIへの採用拡大を契機に、当社の幅広いサイエンス力が付加価値を実現し、人類が宇宙へ飛び立つ社会へ貢献することを期待しています」(中越さん)

8月4日~11月26日まで、東京タワー フットタウン3階で、YAOKIとアウトドアブランドのCHUMS(チャムス)がコラボしたイベント 「月面探査車YAOKI操縦体験 at CHUMS月面ベースキャンプ」を開催していた。 「将来を担う子どもたちに宇宙分野に触れる機会をつくり、夢を作っていくことも大事」と中越さんは言う。 本物のYAOKIに、そして宇宙への夢に、触れて体験するイベントは今後も開催する予定だ。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

中越 明  AKIRA NAKAGOSHI

スペシャリティマテリアルズビジネスグループ
コンポジットソリューション事業部

インタビュアー写真

西田 梨恵  RIE NISHIDA

ポリマーズ&コンパウンズ/MMAビジネスグループ
コーティング&アディティブス本部
コーティング事業部

三菱ケミカルグループ株式会社

東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスビル
三菱ケミカルグループは、化学を基盤とした革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードする スペシャリティマテリアルグループです。世界で約7万人の従業員が、「Science. Value. Life.」のスローガンのもと、 モビリティ、デジタル、メディカル、食品などの成長市場で活躍しています。