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JR小岩井駅、国登録有形文化財に

-駅前広場で記念式典、地域の交流拠点としての新たな歩みも-

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1921(大正10)年に開業し、三菱ゆかりの地、小岩井農場(岩手県)の玄関口としても知られるJR田沢湖線小岩井駅本屋(駅舎)が、2025年8月6日付で国の登録有形文化財(建造物)になりました。これを記念し10月4日、小岩井駅前広場で式典が開催され、JR東日本、岩手県、滝沢市、小岩井農牧(株)の関係者や地域住民らが登録証の交付を見守りました。

かつて老朽化で建て替えも検討された旧駅舎は、開業の頃から使われている基礎、構造材や外壁を再利用しリニューアル。開業当時の佇まいに復原・改修することで「国土の歴史的景観に寄与している」として国登録有形文化財に登録されたのです。開業から100年以上を経て改装された駅舎は駅としての機能と共に、地域の交流拠点としての新たな取り組みも始められています。

100年の時を超え、文化財としてよみがえる駅舎

小岩井駅は、開業以来100年以上にわたり、小岩井農場の玄関口として親しまれてきました。詩人・宮沢賢治も1922(大正11)年に小岩井農場に立ち寄る際、小岩井駅を訪れたとされ、詩集『春と修羅』にはこの駅を「つつましく肩をすぼめた停車場」と記しています。長年地域住民や観光客に利用されてきましたが、老朽化が進み、待合室の狭さなどが課題となっていました。

駅舎を建て直すことも検討されましたが、歴史的価値を残しながら地域の拠点として再生を図ることになり、駅舎のコンセプトや活用方法等さまざまな話し合いを重ねた上で、駅舎の復原改修工事が行われました。開業当時の趣を再現しつつ、無人駅化に伴い事務エリアも改修。地域サロンや観光案内機能を備えた交流スペースへと生まれ変わりました。工事完了後はJR東日本より滝沢市に譲渡され、現在は小岩井自治会が管理を担っています。

昭和41年の小岩井駅
現在の小岩井駅。往時の面影を残す

式典では、岩手県教育委員会 生涯学習文化財課の佐藤淳一文化財課長から、滝沢市の武田哲市長へ文部科学大臣名による登録証が手渡されました。武田市長は「大正10年の開業から約100年の長い歴史を継承しながら、地域の皆さまや多くの観光客を迎える交通拠点として新たな歴史を刻み、皆さまに今後も長く愛されるような施設になることを期待しています」と挨拶しました。

登録証を手にする武田哲・滝沢市長(左)と佐藤淳一・岩手県教育委員会文化財課長
辰巳俊之・小岩井農牧社長。農場内で21ある重要文化財の保全ノウハウで本復原をサポートした

JR東日本盛岡支社の大森健史支社長は、復元工事にBIM(建物の三次元情報モデル)を活用し、地域住民の意見を取り入れながら再現を進めた経緯を紹介。「当時の趣を大切にしながら、最新技術で復元しました。今回の登録が新たなこの地の物語のはじまりとなることを祈念します」と述べました。また、小岩井農牧(株)の辰巳俊之社長は「行政・地域・企業が連携し、一昨年の冬、雪の中竣工式を行ったが、ようやく駅舎が文化財として登録され、この日の式典にたどり着けたことは感慨深い。小岩井駅は今、地域の人々や首都圏等から訪れる観光客との交流拠点という、他にはない取り組みをしています。関係各位に感謝申し上げます」との言葉を寄せました。式典の最後には、地元のふうりん保育園園児による太鼓演奏が披露され、力強い音が響き渡りました。

ふうりん保育園園児による「ふうりん太鼓」の演奏。表情は可愛らしいが太鼓の音は力強い
式典出席者による記念写真。子どもたちを前に笑顔がこぼれる

地域サロンがつなぐ人と人との「交流」

駅内部。手前の待合室に対し、奥の駅務エリアをフリースペースに変更した。
サロン内に展示された地元の高齢者たちが作った手作りのアクセサリー。地元野菜が売られる時も

復元後の駅舎では、地域サロンの活動が始まっています。2024年4月からこのスペースを活用し、地元住民が運営する「地域サロン ポラーノ」が定期的に開催されています。運営スタッフの山本美喜子さんは「ここは物を売る場所というより、人がつながる場所」と話します。

サロンで行われている盛岡大学生企画の寺子屋の様子

サロンでは、地元の高齢者が手づくりしたアクセサリーや小物、農家から仕入れた野菜などを販売。訪れた人にはコーヒーを提供し、自然な会話が生まれています。「普段は外に出ない方が、一人でふらりと来るようになり、毎日顔を見せてくれることで、安否確認にもなっています」と山本さん。利用者の家族から「いつもお世話になっています」と声をかけられることもあり、地域のつながりが少しずつ広がっています。

放課後の時間になると、学校帰りの子どもたちも立ち寄り、宿題をしたり、駄菓子を買ったりする光景が見られます。ときには高校生が小学生の勉強を手伝うことも。「ここに来れば誰かがいるという安心感がある。やめられないですね」と笑顔で語りました。今後は、買い物に困る高齢者を支援する仕組みづくりにも取り組む予定で、新しい地域のつながり方を模索しています。

100年以上の歴史を刻む小岩井駅は、いまも変わらず人々を迎え、送り出しながら、新しい時代の“暮らしの駅”として歩み続けています。

※2025年10月16日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。