三菱と横浜の「縁」(えん・ゆかり)
創業時からのコア技術で横浜の産業・暮らしを守る
-三菱化工機-
横浜の各地を訪問し、三菱グループと横浜が織りなす縁(えん/ゆかり)を紹介するシリーズ。今回は三菱化工機です。「固体・液体・気体を分離する」という創業時からのコア技術を大切に育て、90年の間、大きく変化する社会に寄り添いながら化学工業機械を開発してきました。横浜のさまざまなランドマークにも三菱化工機の技術は活きています。その現場を訪ねました。
化学工業の発展とともに歩んだ歴史
創業当時の本社工場。隣接する運河の向こうは横浜市という好立地。鶴見臨港鉄道(現・JR鶴見線)も開通していた
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横浜港を訪れるさまざまな船舶。その中には三菱化工機の油清浄機が搭載されているものも少なくありません。燃料の重油から不純物を除去し、船のエンジンを守る重要な装置です。同社の油清浄機は国内で約90%、海外で約40%のシェアを誇り、世界の海運業を支えています。
船舶以外にも、三菱化工機はコア技術によって、都市ガスや石油化学などのエネルギー、水質や大気汚染防止などの環境分野、半導体、食品、医薬品など、多岐にわたる分野の装置・設備の製作・建設に実績を残してきました。
総務人事部法務課の積田拓平さんが社史をひもときます。
「当社の歩みは日本の重化学工業の歴史と重なります。明治の終わり頃、石炭からガスやコールタールなどを生成する技術が発達し、三菱グループでも三菱第四代社長である岩崎小彌太指揮のもと、化学工業へ進出する動きが活発化しました。しかし機械や装置は海外からの輸入に頼らざるを得ず、国産化の必要性が強く認識されるようになりました。そうした背景によって1935年、三菱商事、三菱重工業、三菱電機などの出資や人材支援により、三菱化工機の前身となる『化工機製作株式会社』が設立されたのです。京浜工業地帯の一角にある神奈川県川崎市に1万坪の土地を得て、待望の工場が建設されました」。
現本社の武道場。青年学校のために岩崎小彌太が揮毫(きごう)した「寂然不動(じゃくねんふどう)」の扁額が遺る。無心無為、じっと動かなければ天の動きを感じられるという意味
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当時の産業界では窒素肥料や人造絹糸(レーヨン)、火薬などの製造が活況を帯び、化学工業の発展に伴って化工機製作株式会社は大いに実績を伸ばしたそうです。
「現在の商号に変更したのは1938年です。当時、15〜18歳の見習工を多数養成していたようで、彼らのために私立三菱化工機青年学校を設置して教育にも努めていました。主力製品に育つ油清浄機の設計が始まったのもこの頃です」。
ところが第二次世界大戦中、京浜工業地帯は空襲の標的となり、工場のほとんどが灰燼に帰してしまいました。それでも戦後、三菱化工機の高い技術力は日本の復興を力強く支えました。
激動の昭和史とからめて三菱化工機の歩みを解説する積田拓平さん
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「戦後のエネルギー不足に苦しむ中、当社はガス精製などのエネルギー関連プラント建設に貢献しました。高度経済成長期に入ると、旺盛な需要に応えて化学製品を生産する機械を次々と手がけます。次に公害が社会問題化すると、排煙から有害な物質を除く装置や、工場の排水を浄化する設備などで環境保全に注力しました。日本の発展と足並みを揃えるようにして、当社も成長を遂げることができたのです」。
石油精製に欠かせない高純度の水素を製造
日本の産業の興隆に貢献してきた三菱化工機。その実績を横浜で確認することができます。
まずは臨港地区の「ENEOS根岸製油所」へ。一日あたり15万3,000バレル(約2,432万7,000リットル)もの原油処理能力を備え、首都圏の巨大なエネルギー需要に応える石油プラントです。
ENEOS根岸製油所製油2グループのマネージャーを務める市来健さんと係長の有馬広大さんにご案内いただき、三菱化工機が建設した装置を見学しました。
ENEOS根岸製油所の市来健さん。補修プランに従って点検やメンテナンスを毎月行っているという
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同製油所の有馬広大さん。オペレーターとして日々の運転管理や点検業務を担っている
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半世紀にわたって石油事業を支えてきた三菱化工機の水素製造機。ここから製油所の各所にある脱硫装置に水素が送られる
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大規模な設備が並ぶ製油所の中でも見上げるほどの大きさ。石油の精製に欠かせない大量の水素を製造する装置です。
「この製油所では原油を加熱し、沸点の違いによって液化石油ガス(LPG)、ナフサ、軽油などに分け、さまざまな装置を経由させて、市販用のガソリンや灯油、あるいは船舶用の重油やジェット燃料などに精製しています。このとき、水素と化学反応させて硫黄分を除去する『脱硫』が必要です。低硫黄化することで、燃費向上によるCO2排出量の削減や、排ガスの有害物質削減につながります。今、自動車や船舶の燃料に対して硫黄分への規制が国際的に強化されていて、よりクリーンな石油製品の供給が世界中で求められています」と、有馬さん。
高い熱効率を安定的に維持する水素製造装置によって、高純度の水素を製油所内で容易に製造・供給できるようになり、石油製品の品質向上に大きく寄与しています。現在は1日あたり約1万5,000 m³の水素を製造しています。
LPGを加熱して得られたガスと水蒸気を、触媒を使って化学反応させ、水素をつくる。1日あたりの製造能力は最大で2万7,000 m³
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市来さんによれば、メンテナンスにおいても三菱化工機の存在は大きいとか。
「水蒸気と原料とのバランスは適切か、高温で破損した箇所はないか。コントロールルームで常時モニターしていますが、本当に困ったときは三菱化工機さんに相談します。メーカーに製造からメンテナンスまで一貫して担当してもらうことで、設備の信頼性や生産の安定性が確保されると考えています」。
根岸製油所を担当する三菱化工機の水素・エネルギー営業部水素・エネルギー営業課長、山口修さん
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水素製造機には三菱化工機の社名やシリアルナンバーなどが記された銘板が
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左から、ENEOS根岸製油所の加藤青空さん、本田秀俊さん。生産効率化などを担当するプロセスエンジニアだ
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取材に同行していたENEOS根岸製油所需給管理グループのチームリーダー・本田秀俊さん、製油技術グループの加藤青空さんも「補修プランや効率的な運転なども三菱化工機さんと検討することがありますね」と、うなずいていました。
こうして三菱化工機の技術が磨いた高品質な石油製品が、横浜をはじめ日本の各地で私たちの暮らしを支えているのです。
横浜ランドマークタワーの雑排水をリサイクル
次は、オフィス、ホテル、ショッピングモールなどが入る地上70階建ての超高層複合施設「横浜ランドマークタワー」へ。みなとみらいエリアを象徴するビルの地下3階で三菱化工機の中水道設備が稼働しています。ホテルや飲食店のキッチンなどから排出される水を浄化処理して、オフィスのトイレ洗浄水に再利用しています。
「生物処理方式」と呼ばれる設備の仕組みを、現場で保守管理している三菱化工機アドバンスの維持管理部長、瀬端久史さんにご説明いただきました。
「まず各所から流入した雑排水からごみを取り除き、流量を調整しながら土壌菌を含んだ泥と混ぜて有機物を分解します。それから沈殿槽へ流れていきます。汚泥と上澄みに分離しているのが見えますか。この工程を2回繰り返してから砂のフィルターでろ過し、塩素系の薬剤で殺菌しているんです」。
汚泥と処理水を分離する沈殿槽。土壌菌と脱臭設備で臭いを抑えている
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タンク状の砂ろ過器。処理水を砂のフィルターに通して微細な浮遊物を除去する
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左が三菱地所プロパティマネジメントの鈴木基伸さん、右が中村亮さん。中央が三菱化工機アドバンスの瀬端久史さん
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ビルを管理している三菱地所プロパティマネジメント横浜支店の鈴木基伸さんと中村亮さんによると、大量の雑排水を再利用することで上水の使用量を削減でき、下水道にかかる負荷も軽くなり、SDGsに貢献しているとのこと。
「横浜ランドマークタワーで生成している中水は濁度も低く、臭いもほとんどありません。設備はもちろん日々のメンテナンスにも感謝しています」と、笑顔で語っていました。
2027年、横浜のせせらぎをより美しく
都筑水再生センターの高度処理水が流れる江川せせらぎ緑道。水路はやがて鶴見川と合流する
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ところで、横浜で国際園芸博覧会が開催される2027年には、都筑区の「江川せせらぎ緑道」に流れる水がさらに清らかになります。現在、近隣の「都筑水再生センター」で高度処理された処理水が放流されていますが、1998年に設置された同センターのろ過設備を更新し、新たなろ過設備にする作業を三菱化工機が完成させる予定です。これは処理水をろ過層の中で上昇させながら浮遊物を砂の層に補捉するもので、ろ過作業と並行して、ろ材の洗浄も常時行います。
浄化された処理水は、オゾンによる殺菌・脱臭が施された後で緑道の水路へ送られるそうです。約200本のソメイヨシノが咲きほこる桜並木や四季折々の花とともに、美しいせせらぎが横浜のまちに潤いを与え続けます。
横浜市金沢区の南部汚泥資源化センターで稼働中の脱硫装置。有害な硫化水素を除去している
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なお、水を浄化する過程で発生する汚泥を処理する「汚泥資源化センター」に導入された脱硫装置も三菱化工機製とのこと。市民生活に根差した循環型社会の形成にも大いに貢献しています。
持続可能な発展をリードする新技術を探索
新本社の完成模型。中央には「共創の森」と呼ぶ緑地を配置して憩いの空間に
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そして2027年、三菱化工機は創業の地で本社機能を再編します。研究機能を集約した事務所研究棟と、ものづくりの中心拠点となる工場実験棟が再整備される予定です。オープンイノベーションの中核ともなる場を目指し、各種分析サービスや試作機などの実験環境を外部の研究機関に提供するラボを併設するとのこと。多様な連携によって新技術を探索し、次世代製品の開発を加速させます。
総務人事部総務課長の長森玄太さんは、市民との新たなコミュニケーションも生まれそうだと語ります。
「京浜工業地帯のある川崎市・横浜市では行政と連携し、あるいは個々の企業として地域の小学生や中学生をさまざまな現場に招き、理系人材を育成する取り組みが活発です。新しい建物には見学コースも用意する予定ですので、市と連携をとり、理系教育に参画できるような拠点にもなれたらと考えています」。
長森玄太さん。新社屋ではスタートアップやベンチャー企業とも連携してシナジーを生み出したいと語る
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思いきった再編計画ですが、「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」の実現に向けた基盤整備だといいます。
「このビジョンでは『持続可能な発展に挑戦し、快適な社会を実現』と掲げ、当社グループとして解決すべき社会課題を『CO2・気候変動』など5つ設定しました。これらに対応する戦略的事業領域を展開することでビジョンの実現に挑戦していきます」。
その事業領域とは「持続可能な循環型社会推進事業」「水素を核としたクリーンエネルギー事業」「デジタルを活用した省力・省エネ事業」「水・食・自然災害等の課題解決に向けた次世代技術開発事業」の4つ。2025年からそれらを一つにまとめて「GX事業」としています。創立100周年となる2035年を見据え、資源循環システムの構築やクリーンエネルギー創造といった既存技術を発展させながら、GX事業の成長を図り、さらには新技術を開発すべく尽力しているところです。三菱化工機は「固体・液体・気体を分離する」という創業時からのコア技術に加え、省エネ・脱炭素化・DX化をリードする未来のものづくりへと邁進していきます。
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