 
						いまから100年前、1925年のパリで「現代産業装飾美術国際博覧会」、通称「アール・デコ博覧会」が開催された。それから100年目にあたる2025年は、パリ、また日本でも、アール・デコや当時のフランスのモードを楽しむことができる展覧会が複数開催されている。
							そのなかでも注目したいのが、三菱一号館美術館の「アール・デコとモード」展だ。現代の視点で見てもきっと「素敵!」と思える服飾品やジュエリー、工芸品、絵画、版画など、合計310点が展示される。
1920年代、第一次世界大戦を経て社会の中で女性が活動するようになり、それに伴って生活全般に及ぶ新たなデザインが生まれた。これが後年「アール・デコ」と呼ばれるようになるスタイルだ。本展の担当学芸員である三菱一号館美術館の主任学芸員の阿佐美淑子さんに、本展覧会をより深く鑑賞するため、アール・デコという“時代”についてうかがった。
 
							
								ロベール・ボンフィスポスター「現代産業装飾芸術国際博覧会」 
								1925年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵
							
“メゾンのプロデュースによる香水”はアール・デコ時代に登場
「1920年代のフランスでは、フランス語でクチュリエと呼ばれるファッションデザイナーが多数活躍していました。ファッションはフランスの国策のひとつ。女性のクチュリエも多く、彼女たちはアール・デコ博覧会の中心的な役割を果たしました。テキスタイル・デザインなど異分野のつくり手と共同制作したり。また、香水をプロデュースするようになったのもこの時代です。展覧会では魅力的な香水瓶や化粧品コンパクトが展示されます」
宝飾品のデザイナーであったルネ・ラリックがデザインした香水瓶も本展で展示される。服飾から香りをイメージし、容器に至るまでその世界観を形にするという、現代では珍しくないこの方法は100年前に始まったのだ。
 
							
								ルネ・ラリック アトマイザー「サン・アデュー(さよならは言わない)」
								ウォルト社 1929年 箱根ラリック美術館蔵
							
20世紀に入り、ルネ・ラリックはファッションデザイナーと組んで多くの香水瓶や、車のボンネットに着けるカーマスコットをデザインした。
活動する女性たちとアール・デコの時代
「1920年代のフランスでは、ガブリエル・シャネルやジャンヌ・ランバンといった女性クチュリエが、ビジネスの才覚やデザインの才能を発揮。パリの真ん中にブティックを開き、自分の名前を世の中に知らせました」
彼女らは、矯正下着のコルセットを用いてウエストを絞ったドレスではなく、コルセットなしのドレスを世に送り出し、ドレスの丈を歩きやすい膝丈にし、活動的で簡潔なシルエットを生み出す。こうした現代に通じる女性服が初めてデザインされたのがアール・デコの時代だった。
「社会に出た女性たちに必要なものが多数生まれました。ドレスばかりでなく、夜のパーティで活躍するバッグやアクセサリー、プラスチックなどの新しい素材を使ったアクセサリーが誕生したのもこの時代です」
 
							
								シャネル デイ・アンサンブル
								1928年頃 京都服飾文化研究財団蔵 撮影:広川泰士
							
体を締め付けないストレートなシルエットに、歩きやすいひざ下丈のスカート。ボタン、プリーツ、リボンといった装飾もありながら、シンプルで洗練されている。
 
									 
									
								左:モイーズ・キスリング「ファルコネッティ嬢」
								1927年 ポーラ美術館蔵
								右:シャネル イヴニング・ドレス
								1928年 京都服飾文化研究財団蔵 撮影:畠山崇
							
パリの大衆演劇舞台女優ルネ・ファルコネッティを描いたキスリングの作品からは、当時最新のデザインをうかがい知ることができる。
 
							
								ヒール
								1925年頃 京都服飾文化研究財団蔵 撮影:広川泰士
							
靴を誂える際のヒールのサンプルを撮影したもの。華やかなラインストーンが特徴的。
ほぼ日本初公開のドレス約60点が展示室を彩る
 
								 
								 
								
									左:ジャクリーヌ・マルヴァル「ヴァーツラフ・ニジンスキーとタマラ・カルサヴィナ」
									1910年頃 個人蔵/ジャクリーヌ・マルヴァル委員会(パリ)協力
									中:マドレーヌ・ヴィオネ イヴニング・ドレス
									1929年春夏 京都服飾文化研究財団蔵 撮影:畠山崇
									右:カルティエ製のフルーツサラダ・リング
									1930年 国立西洋美術館蔵(橋本コレクション) 撮影:上野則宏 
								
シャネルやランバンなど、パリ屈指のメゾンが発表した1920年代のドレスを約60点展示する本展。加えて世界屈指のファッションアーカイヴである京都服飾文化研究財団(KCI)のコレクションからも、選りすぐりのドレス60点と帽子やバッグ、靴などの服飾小物が出品される。さらに、当時の流行を写しとったような絵画や工芸品、グラフィック作品などの展示も。
 
							
								ルネ・ラリック プレストパウダー入りコンパクト
								1926~1927年 カネボウ化粧品蔵(アンティークコンパクトコレクション) 撮影:若林勇人
							
ラリックによるデザイン。現在もルーセントパウダーのケースにこのデザインが使用されている。
なかでも興味深いのが化粧道具だ。
「カネボウ化粧品の世界的なアンティークコンパクトのコレクションから、アール・デコ期の優品を16点お借りしています。ラインストーン使いや、かわいらしいイラストレーションのデザインなど、多彩なコンパクト群です」
本展で公開されるのはいずれも心浮き立つデザインのものばかりだが、そのデザインを用いたミラーを展覧会オリジナルグッズとして制作販売する。グッズにも定評がある三菱一号館美術館の展覧会、今回も期待できそうだ。
 
							コンパクトミラー 各1,760円(税込)
カネボウのアンティークコンパクトコレクションから、ミラー2種類が登場。
 
							「アール・デコとモード」展覧会図録 3,300円(税込)
京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションから、アール・デコ期の選りすぐりのドレス、帽子、バッグ、靴などに加え、国内外の美術館・博物館蔵の絵画や工芸品など、約310点を収録(8,000部限定販売予定)。
パリでのアール・デコ博覧会から100年。この「アール・デコとモード」展では当時を回顧するだけではなく、1920年代のデザインや様式が現代にまで通じていることが実感できる点にも注目したい。担当学芸員の阿佐美さんが「図録もわくわくしながらつくりました」という本展、期待を裏切らないはずだ。
美術館データ
 
                                
											アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に
											Art Deco and Fashion:
											Centering on
											The Kyoto Costume
											Institute Collection
                                        
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
                                        会期:2025年10月11日(土)~2026年1月25日(日)
                                        会期中休館日:祝日•振替休日を除く月曜日、および12月31日と1月1日
※トークフリーデーの10月27日、11月24日、12月29日と会期最終週の1月19日は開館
開館時間:10時~18時
※1月2日を除く金曜日、会期最終週平日と第2水曜日は20:00まで、いずれも入館は閉館の30分前まで
入館料:一般2,300円、大学生・専門学校生1,300円、高校生1,000円、中学生以下無料
                                    
問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)
展覧会ホームページ https://mimt.jp/ex/artdeco2025/
 
								 
								 
                            