
EC市場の拡大が続く一方で、物流面では人手不足が深刻な問題となっている。三菱商事のアイデアとローソンの物流インフラを融合した社会問題解決型のサービスとは?
三菱商事は、ローソンと共同でローソンの既存物流網(配送後の戻り便)を活用し、契約企業のEC商品の発送や返品を受け付ける非対面発送サービス「Smari(スマリ)」を2019年からスタート。現在までにローソンの関東・中部・関西・北海道・九州の店舗を中心に約3,000店舗で展開している。同社食品流通・物流本部物流開発部マネージャーの栗原 直己氏は次のように語る。
「ローソンは全国に約15,000店舗を展開しており、専用配送センターから1店舗あたり約2~3回ほど納品をしています。つまり、大量の商品を扱う全国有数の巨大物流網を有しているといえます。こうした物流網を使って、世のなかに対して何か新しいサービスを提供できないかと考えたことがきっかけとなります」
現在、少子高齢化や共働き世帯の増加などによって、EC市場は年々拡大を続けている。なかでも、レンタル、サブスクリプションサービスや、返品無料といった付加サービスを提供するEC事業者の増加に伴い、EC商品の発送・返品数の拡大が顕著となっている。その一方で、人手不足は物流面でも深刻な問題となっている。
「メルカリをはじめ、最近は個人が荷物を発送するCtoCのシーンも増えています。また、EC各社では、返品の障壁を下げれば下げるほど売上が増加する傾向にあることから、戦略的に返品を無料にする企業も増えてきています。若い世代を中心に利用者もまずは商品を購入してみて、サイズ違いや色違いのものを返品するようになってきており、返品のしやすさが自社のリピーター化につながると考えているのです。返品の際、個人が発送するときによく利用されるのがコンビニです。しかし、発送には面倒な作業があり、利用者側にも店舗側にもオペレーションの負荷がかかっていたのです」
納品後のトラックの戻り便を活用した
非対面発送サービス「Smari」

SMARIサービスの流れ
そこで非対面型発送サービス「Smari」は、店舗納品後のトラックの戻り便を活用し、専用ボックス(スマリボックス)に入れられたEC商品をドライバーが回収。発送はグループ企業の三菱食品がおもに担う。利用者は、スマホでスマリボックスにQRコードをかざして、プリントアウトされたラベルを箱に貼り、ボックスの扉を開けて箱を入れるだけで済む。スマリボックスの利用のみで発送作業が完了するため、店舗にとっては発送に伴うレジ作業時間の削減ができる一方、利用者にとっても、送り状(伝票)の記入や店舗でのレジ待ちの手間が省け、簡単に短時間で発送することができる。またEC事業者も、コストの削減と発送・返品方法の多様化・簡易化によって顧客満足度の向上とリピーター獲得が期待できる。S.L.C.グループ食品流通・物流本部物流開発部チームリーダーの中西 心紀氏は、このサービスのねらいをこう語る。

SMARIの発送手続き

「現在、このモデルについてはビジネスモデル特許を取得しており、基本的には他社が真似のできないモデルとなっています。私達は、ローソンの全国物流網をインフラとしてとらえており、社会課題や生活者ニーズをとらえたSmariという事業/サービスを立ち上げることで、コンビニを活用したスマートライフ経済圏を牽引していきたいと考えているのです」
同社では2024年からメルカリと新配送サービスの「エコメルカリ便」も開始している。こちらもスマリボックスを活用し、宅配便(~100cm)の商品を一律730円で発送できる。「利用者にとっては、より割安に利用できるものとなっています」と栗原氏は言う。
「そもそもこうしたロッカービジネスは人手不足が社会課題となっているなかで必要であるにもかかわらず、事業の性質上、多くの事業者が撤退を余儀なくされています。それは、収益化がなかなか難しいからです。では、なぜSmariは継続できるのか。その理由としてオープン性があげられます。各事業者の場合、自社商品のみを扱うことになりますが、Smariは商品を限定することなく、総合商社としての立場を生かしながら、各社のさまざまな商品を扱うことができる。いわば、全方位にオープンにしているからこそ、結果として扱う量が増え、収益化につなげることができるのです」
近くにローソンがないお客さま向けには
自宅から発送できるSmari宅配ボックスサービスも

Smari宅配ボックス
さらに、同社では戸建・マンション・アパートの既存の宅配ボックスにSmariのQRコードを貼付することで、ローソンのスマリボックスの機能を備えた宅配ボックス発送サービスも展開している。これによって、コンビニまで出向かずに自宅から荷物の発送が可能となる。
既存の宅配ボックスにSmariのQRコードシールを貼るだけで導入できるうえ、戸建てでは、Smari対応の宅配ボックスを購入・設置すれば利用できる。今後はマンション管理会社などを通してSmari対応ボックスを増やしていく。栗原氏はこう述べる。

SMARI宅配ボックスの発送手続き
「ローソンが近くにないというお客さまや、子育て・共働き世帯でコンビニに行く時間がないというお客さまもいます。ならば、ご自宅に最も近い既存の宅配ボックスを利用できないかと考えたのです。これからも、利用者がより発送をしやすい世界をつくっていきたいと考えています」
2025年からは、北海道や福岡でもSmariサービスの展開を本格化。これで5大都市圏をカバーすることになる。今後は各政令指定都市へも広げていく方針だ。
「コンビニ自体も人手不足に直面しており、オペレーションの省力化が問われています。これからも本サービスを全国に拡大していきたいと思いますので、ぜひSmariの価値をご体験いただきたいと思っています」(栗原氏)。
INTERVIEWEES

栗原 直己 NAOKI KURIHARA
S.L.C.グループ食品流通・物流本部
物流開発部物流効率化チーム
マネージャー

中西 心紀 SHINKI NAKANISHI
S.L.C.グループ食品流通・物流本部
物流開発部物流効率化チーム
チームリーダー
三菱商事株式会社
東京都千代田区丸の内2-6-1(丸の内パークビルディング)
創立は1954年7月1日(設立1950年4月1日)。本店所在地は三菱商事ビルディング(登記上の本店)と丸の内パークビルディング。全社拠点数(2025年4月1日現在)は国内:11、海外:104(事務所等47/現地法人 本店34、支店等23)。従業員数は単体:5,421名、連結:80,037名。三菱グループの顔役的役割も果たしている。