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登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動

- 三菱ゆかりの地便り 高知・安芸#1 -

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登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
生家入口の看板(○囲み部分)に、登録有形文化財の表記がある

みにきて!みつびし」でも紹介している高知県安芸市の岩崎彌太郎生家。三菱源流の地点ともいえるこの敷地には「登録有形文化財」建造物が多くあり、その保存管理は重要なテーマです。今回は岩崎家が住まいとしていた当時の面影を次代にも残すために行われている修繕、保存活動の一端を紹介します。

「岩崎彌太郎生家」エリアにある主屋を始めとした7つの建造物・工作物は「登録有形文化財(建造物)」です。これは保存及び活用についての措置が特に必要とされる文化財建造物を、文化財登録原簿に登録する制度で、生家一帯は2010年に登録されました。主屋は「造形の規範となっているもの」、その他は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」と評価されていることが、文化庁の「国指定文化財等データベース」からわかります。特に主屋は「18世紀に遡る小規模民家の好例」ともいわれ、まさに当時の建築物を学ぶ歴史的資産です。

登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
左側が主屋、右側の屋根の向こう側にあるのが番屋(非公開)
登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
工事中の番屋(非公開)。主屋に向かう道から少し外観を垣間見ることができる
登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動

この登録が契機となり、生家等の保存管理が計画的に行われています。

維持・修繕の基本的な考え方は、
見学者が怪我しないように安全に配慮すること
雨漏り等不都合のないようにすること
建築当初の工法・材料を極力採用すること
華美なものにすることなく、当時の面影が残るようにすること等で、
これに則った保全のための工事が都度行われているのです。

今回は主屋の隣にある番屋(明治後期の建築。非公開)の工事を特別に見せてもらいました。ちょうど老朽化した内装の壁工事中で、名工ともいわれる職人が手際よく壁に何やら塗っています。最近あまり見かけなくなったこの光景ですが、塗っているのは「土佐漆喰(しっくい)」。

漆喰とは一般的には石灰を主原料とし、糊麻(のりあさ)などの繊維を刻んだ「スサ」を加えた天然素材の建材です。耐用年数は100年以上といわれ、お城や蔵の白壁にもよく使われます。断熱・省エネ効果に優れ、防湿や調湿の機能も併せ持つ優れた歴史ある建材です。

「土佐漆喰」はスサの変わりに「発酵した藁」が加えられています。糊を含まないため雨に強く、藁が入っていることにより耐久性が増す土佐独特の建材です。ただ時間をかけて厚塗りして仕上げることから、塗るにはより高度な技術が不可欠。腕の良い職人でないと綺麗に仕上げられません。

番屋の塗りを担当されている方が名工といわれるように、安芸には良い左官が多いといわれていますが、それでも実際にこの左官工事ができるのは高知県下でも1~2社程度しかありません。今回のように伝統的な工法で修繕維持することが「技術継承の場」にもなっています。腕の良い職人が技術を伝承することで、これらの貴重な建物の保全も続けられる・・・。これからも守りたい共存共栄の姿です。

土佐漆喰は生家の見学エリアでも間近に見ることができます。主屋周辺にある蔵です。明治中期から後期に建築された蔵の壁は土佐漆喰で塗られたもの。実は建築当時のまま補修は一切行われていません。にもかかわらず経年で変化した薄いピンク色の壁はヒビ一つなく美しさが維持されています。(経年により漆喰が石灰化して堅くなるため)

登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
壁に塗る前の土佐漆喰
登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
右が塗りたての土佐漆喰。乾くと左のようになり、経年によって薄いクリーム色に変化する。
登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
主屋の北側にある「東蔵」。140年ほど前に作られたとは思えない保存状態。
登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動

続いて主屋の象徴といえる屋根について。かつては藁葺きでしたが、4年に1度すべてを交換するなど耐久性やメンテナンスの手間が課題で、1980年(昭和55年)より茅葺きの屋根に変更しました。茅葺きにすると10年以上の維持が可能になりますが、それでも屋根の改修には1回でほぼ1000束の茅が必要となり、4tトラックを何度も往復する必要がある分量。茅葺きとて大仕事です。

藁から茅に変えるにあたって、大きな問題はまとまった良質の茅を探すことでした。あちこち尋ねた結果、県内の牧場跡に良い茅場が見つかり、やっとの思いで1000束を超える茅を確保。「調湿断熱抜群な」蔵に予備分も保管しています。

登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
経年により変化するものの、整然と並ぶ茅葺屋根はまさに機能美。

また職人捜しも大変でした。屋根に茅を葺く工事はとても繊細で、茅の穂先だけに雨があたるように茅の向きや並べ方を工夫することで、雨漏りや腐れを防ぎます。これらが甘いと屋根としての性能はもちろん美観も悪くなるそうで、美しさと性能向上が比例する精緻な仕事といえます。茅葺き工事の発注先も県内外から複数の業者に打診した結果、資料写真でも一目で仕上げが良質とわかる程優れた技術を持つ会社が選ばれ、現在に至るまで差し茅工事(傷んだ茅を取り外し、新しい茅を差し込む工事)による修復を担っています。2024年晩秋~冬には北面(裏正面)の差し茅工事がありますので、2025年には修復を終えた屋根と従来の屋根とを比較して見ることができそうです。

登録有形文化財「岩崎彌太郎生家」の修繕・保存活動
番屋の屋根(小屋組)は明治時代のまま。黒く煤けているのは囲炉裏を使っていた名残。

今回は、建築技術の観点でお話を伺いましたが、歴史的にも価値のあるこれらの建造物を次代に残すことは様々な人のご尽力があってのことと改めて感じました。そんなご苦労に思いをはせながら生家を訪れるのも、また違った趣がありそうです。

※2024年3月18日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。