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小岩井農場財団、「重要文化財21棟見学会」を実施

-クラウドファンディング返礼イベント 支援者が熱心に見学-

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秤量場の前で参加した支援者の方々(写真は5日参加分)

岩手県雫石町の小岩井農場で、近代農業遺産を次世代に繋いでいくために実施したクラウドファンディングの返礼イベント「学芸員解説による重要文化財 21棟見学会」が10月5日、12日に行われました。

小岩井農場にある21棟の重要文化財は、建設から100年を越える建物も多く老朽化が課題となっています。耐震工事を施し貴重な農業遺産を守ろうと、2025年春に行ったクラウドファンディングには、180人の支援者から目標を上回る327万円余りの支援金が集まりました。集められた支援金は重要文化財のひとつ「秤量場(ひょうりょうじょう)」の耐震対策工事費用の一部に充てられます。

普段は非公開の「天然冷蔵庫」も今回は中まで見学が可能に

クラウドファンディングといえば返礼品も楽しみの一つです。今回の返礼品には「バターケーキ」や「アイスクリーム」といった小岩井農場産の魅力的な商品が届けられるさまざまなコースが設定されましたが、中でも特に注目だったのは、重要文化財の小岩井農場施設全てをガイド付きで見学できるという特別企画。クラウドファンディングの対象となった建造物「秤量場」はもちろん、普段は見学できない建物内部も見学するという豪華な企画です。

10月に2回に分けて開かれた見学体験コースは、合計29名が参加。遠く滋賀や熊本など全国から岩手に集まるという人気ぶりです。朝9時に現地集合した後、広大な農場内をバスで移動しながら巡ります。

本部事務所の佇まいに、宮沢賢治の詩の一節や野沢さんの解説もあって、つい見入ってしまう

午前中は宮澤賢治の詩でもお馴染み「本部事務所」に。ガイド役の小岩井農場資料館館長で学芸員の野沢裕美さんが、建築物外観の意匠一つ一つを丁寧に説明します。賢治の詩では「本部の気取った建物」とも描写された本部事務所は、建設当時に地元の大工さんが、「洋風建築はこんな感じだろう」と一生懸命考えて造った分、やや飾りが多めで「古臭い」といわれることもあるそう。当時の面影として風情が感じられます。

バス移動の時もさまざまな説明がありました。例えばこの土地を農場にした経緯。創設者の一人である井上勝が鉄道庁の長官をしていた時代に、東北本線の敷設工事の視察で岩手に来た際、網張温泉に通じる道中で見た広大な原野があまりにも荒れ地で、ここに農場を作り農地に変えねばという使命感に駆られた、という話。荒れていた分、今のような森や畑、牧草地となるには40年の時間と手間が掛かったのだそうです。このような逸話を、実際にその場を見ながら、野沢さんの多彩でなるほどと思える語り口で伺うというのは貴重な機会です。

また通常は内部が非公開の施設を、特別に見学できたことも大きなポイントです。電気冷蔵庫のない時代に、冷蔵が必要な乳製品の管理に一役買った「天然冷蔵庫」や、当時では珍しい四階建ての巨大な施設「四階建倉庫」の内部に入ると、当時としては画期的な建物群であることに改めて驚かされます。

四階建倉庫前で解説を聞きながら写真を撮る参加者たち
四階建倉庫の中も見学。大正5年の竣工時から電動式のエレベーターがあったいう歴史も興味深い

参加者たちには、昼食に小岩井農場特製の「農場ビーフカレー」が振る舞われ、小岩井の恵みを感じた後、午後は上丸地区に向かいます。ここには耐震工事を行っている最中の第四号牛舎(重要文化財)があります。外から見ると工事用の足場があるにも関わらず、中には牛が飼育され、牛に影響を及ぼさないように配慮しながら、2年越しで工事を行っている様子もなかなか見ることのできない光景です。

今回のクラウドファンディングの対象でもある「秤量場」にも足を運びました。秤量場は乳牛の体重測定や、爪切りをする場所として昭和40年代まで使用されていた施設で、内部の体重計や削蹄用の保定枠を見学することができます。天井裏を隠すこと無く中からも外からも屋根を支えるトラス構造が見える点が、当時としても珍しい洋風の建物なのだそうです。秤量場を実際に訪れることで、今回の支援金がこの建物に役立てられるという実感も湧いてきます。

秤量場。外から見ても屋根を支える骨組みのトラス構造が確認できる
秤量場の中から天井を見上げると、三角形のトラス構造が。
記念写真といえばこのスポット。上丸地区で撮影

参加者に感想を聞いてみると「重要文化財21棟を全て見学し、当時の建造物を目当たりにして感動した」「秤量場の壁には爪の切り方が描かれていて、当時行われていたことがよくわかった」「仔牛や乳牛が重要文化財の中で悠然と生活しているのが印象的だった」等、満足した様子でした。

全てを見学した後、小岩井農場財団代表理事の辰巳俊之さんから「本日は熱心に小岩井農場の重要文化財をご覧いただきありがとうございます。引き続き日本を代表する農業近代化遺産として精一杯守ってまいりますので、これからもご支援をよろしくお願いします」との挨拶があり、貴重な体験であふれた見学会は終わりました。今回の見学を通じて、支援者にも、公益財団法人小岩井農場財団が取り組んでいる重要文化財群の補修保全の意義がより実感を持って理解され、クラウドファンディングの意味を再認識する機会となったことでしょう。

※2025年11月13日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。