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久彌が暮らした面影を残す末廣別邸、主屋を一般公開へ
―三菱ゆかりの地便り 千葉・末廣別邸#2―
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三菱第三代社長・岩崎久彌が晩年を過ごした千葉県富里市の旧岩崎家末廣別邸で、主屋の一般公開を記念する式典が、4月26日、別邸のある旧岩崎久彌末廣農場別邸公園で執り行われました。
別邸主屋は昭和初期に、当時久彌が経営していた末廣農場内に建てられました。外周のガラス障子や、周囲に廻らした庇等、軽快で瀟洒な外観を持つことから「造形の規範になるもの」として2013年に主屋・東屋・石蔵が国登録有形文化財となりました。
2012年から末廣別邸を管理する富里市が整備を進め、2021年4月にまず庭園部分を歴史公園として一般公開、そして今回いよいよ主屋が一般公開となりました。
別邸の補修に尽力した富里市を代表し、五十嵐博文市長が式典の挨拶に立ちました。大型台風が2019年に千葉県を直撃した際に主屋が無傷だったこと、その他の建物にも被害が及ばなかったことに触れ、「久彌氏の想いが別邸を守ってくれた、と確信し、久彌氏の想いと共に別邸の庭園、建物を継承していくことを改めて強く誓いました」と補修にかけた想いを明かしました。
![]() 多くの来賓が訪れた記念式典会場
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![]() 富里市を代表して、五十嵐博文市長からの挨拶
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五十嵐市長の挨拶後、岩崎家から東山農事代表取締役の岩崎俊吉氏や来賓からの祝辞の後、末広幼稚園の園児たちによる合唱が式典を彩りました。末広幼稚園はかつての末廣農場の敷地内にあり、園児たちに地域の歴史を伝える一環として、末廣農場に関する事業に協力したいとの申し出が幼稚園からあったことから、記念式典で歌を披露してもらうことになりました。
![]() かわいく元気な声で式典を盛り上げた末広幼稚園の園児たち
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昭和初期の最新建材と耐震技術を生かして建てられた主屋
![]() 主庭から見た別邸主屋
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一般公開が始まった末廣別邸の主屋は、中庭を持つ広大な木造平屋建てです。客間の中八畳と中十畳は、久彌が暮らしていた当時の状態に復元した主庭に面しています。
![]() 客間として使用された中十畳
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![]() 中十畳、中八畳には縁側があり、ガラス障子を開けると開放感のある主庭が目の前に広がる
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![]() 寧子(しずこ)婦人が使用していた東八畳
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![]() 工事の際に発見された銅板や石こうボードなども展示されている
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![]() 廊下に設置された電鈴のベルと表示器
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各部屋には解説のためのパネルを設置したほか、元は女中室として使われていた部屋に展示スペースが設けられました。修復工事の様子を収めた写真のほか、工事の際に出てきた建築時の銅板や石こうボード、襖の下ばり、耐震補強のため天井裏と床下に設置された鉄板などが展示されています。
主屋には昭和初期の一般的な住宅には見られない設備が残されています。その一例が女中や書生を呼び出すのに使った電鈴(でんれい)です。各部屋に押ボタンが備え付けてあり、ボタンが押されると廊下でベルが鳴り、表示器を見ればどの部屋から誰を呼んでいるのかがわかるようになっています。
末廣農場の歴史と功績を後世に伝える
主屋は昭和初期の建築様式を現在に伝えるだけではなく、当時の最新建築技術や建材を採用し、貴重な住宅設備が残されているなど、注目したいポイントにあふれています。歴史的にも資料的にも高い価値がありますが、一般公開をきっかけに富里市は主屋をどのように活用したいと考えているのでしょうか。 末廣別邸を管理する富里市教育委員会生涯学習課 課長の岡村雅枝さんに伺いました。
「教育委員会が管理していますので、まずは小学生や中学生の学習の場として活用していければと考えております。特に小学生は、3年生から自分たちが住んでいる地域のことについて学習する時間がカリキュラムに組み込まれますので、市の歴史も含めて見学から学べる場所にしていきたいです」
気軽に訪れてもらえるよう、5月2日に一般公開を記念して邸内でクラシックのミニコンサートを開催しました。5月5日には、末廣別邸の整備に永年たずさわり、地域史を研究する市職員の林田利之さんが、客間の西十畳で講話を行いました。末廣別邸が市に寄贈され整備・復元に着手し、一般公開に至るまでの経緯や歩みを知ってもらうことで建物の価値を理解してもらうためです。
![]() 玄関から外を見たところ。つつじの鮮やかな赤紫色が陽光に映える
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岡村さんは末廣別邸の今後について「富里に訪れてもらうきっかけになるようにしたいです」と希望を明かします。今後も主屋でお茶会やコンサートなどのイベントの実施を検討していく予定です。
久彌が経営に携わったかつての末廣農場は模範的実験農場として、先進的な農法が実践されるとともに数多くの研究が実践されました。千葉県の農業や畜産業の近代化、スイカや豚肉といった富里市の特産品を育てることに貢献しています。主屋の一般公開をきっかけに別邸に訪れ、富里での久彌の暮らしぶりや人のために役立つ農場づくりという久彌の夢に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
![]() 別邸公園内にある「久彌の畑」。
富里の名産であるスイカやニンジンのほか、年間を通じてさまざまな作物が植えられている |
※2025年5月28日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。