ライフスタイル企画

2025.08.28

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.23

遠い世界、異なる価値観と出会おう。世界への扉を開く3冊

BOOK REVIEW メインビジュアル

世界を見渡すと、各地で紛争や災害が起き、経済の先行きも見えない時代。そんな今、私達にできることはまず世界を知ることだ。隣の国や遠い国にいる人々が何を考え、どんな価値観に基づいて日々暮らしているのか、その想像力をもつことが第一歩。実際に足を運ぶのももちろんいいが、本なら俯瞰的な視点をもったり、時間をかけて深く知ることができるというメリットもある。さまざまなアプローチで世界と出会うきっかけとなる3冊がこちら。

感動する地図帖 世界って面白い!となる100テーマ

感動する地図帖 世界って面白い!となる100テーマ
イアン・ライト編著、Infographic.ly図、片山美佳子訳
日経ナショナルジオグラフィック社
(2,420円)

学校で使った地図帖を今も本棚に残している、という人は少なくないのではないだろうか。世界地図は私達に俯瞰する視点を与えてくれたり、遠い国のことを自分たちの暮らす国と並べてイメージさせてくれたりする。そんな地図の楽しみを、美しいビジュアルで提案してくれるこの本。地図好きだった著者が2014年の8月に立ち上げたX(旧ツイッター)のアカウント@BrillianMapsで世界の人気地図の紹介を始めたのが本書のきっかけとなった。
人口分布、宗教や政治、経済力、文化、地理、歴史、自然、社会習慣など全11の章に100の地図が並ぶ。「選挙に行くのは何曜日が多いか」「マクドナルドがない国は?」「東京圏より人口の少ない国・地域は?」…。説明はほとんどなく、色分けでシンプルに表現されている。視覚的にイメージが掴みやすく、また解説が少ないことがかえって、自分の頭で考え理解することにつながる。もっと詳しいことが知りたければ、そこから別の本やインターネットに進めばいい。なお巻末に出典一覧が掲載されている。
日本を軸に他国と比較してみると、日本の独自性も見えてくる。また逆に異端だと思っていた側面が「アジアの中では普通だった」「先進国あるあるだった」などと気づくこともある。「人口10万人あたりのヘビーメタルバンドの数」なんていう、誰がどうやって、なんのために調べたのか謎な数値もあるが、文化的特徴というのは細部に宿るのだろう。直感的に世界を知り常識をアップデートできる魅力的な一冊だ。

世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性

世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性 慎泰俊著 岩波書店
(1,056円)

今、これを読んでいる方の多くは、衣食住の整った中で日々を送っているだろう。お金が足りなくても、ローンなどで必要なものを手に入れることもできる。頑張って働いているのだから当然と思うかもしれないが、世界では、多くの人がそのスタートラインに立つことさえあたりまえではないのだ。今、世界の人口の半分近くは貧困の中で暮らしている。教育を受けるにも仕事をするにも元手がない。そのサイクルから脱するにはお金が必要だが、貧しい人々にとってはお金を借りることも返すことも困難なのだ。
そんな世界の課題を解決するために小さな金融サービス=マイクロファイナンスに取り組んでいるのが著者。途上国を中心に低所得者層に向けて民間版の世界銀行を運営している。著者自身が無国籍状態で生まれ、今もパスポートを持たない身ながら周囲の支援や運に恵まれ望む人生を送っているという背景から、こうした運によらず誰もが平等な機会を得られる社会を目指し奔走している。そんな著者が、お金の意味、お金の歴史から、世界の貧困地域で何が起きているのか、金融サービスの仕組み、マイクロファイナンスの働きといった、金融の現状と課題を、最前線での実体験と俯瞰的な知識を交え、詳しく説明している。巻末の参考文献がほとんど洋書であるように、日本語で読めるマイクロファイナンスの本は非常に少なく、手引書として貴重な一冊だ。最終章では私達に何ができるかという提案も用意されている。できることからまず一歩、踏み出してみよう。

韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?

韓国ドラマ全史 なぜ世界的ヒットを連発できるのか?
黄仙惠著 ディスカヴァー・トゥエンティワン
(1,650円)

最後にエンターテイメントをテーマにした一冊を。ドラマに限らず、ミュージシャンやコスメなど、トレンドの生まれるところ韓国勢あり、と言ってもいい今。こうした潮流はどのように生み出されたのだろうか。タイトルからアイデアや企画力のヒントを想像するかもしれないが、本書は特に、韓国ドラマが生まれた経済的、政治的背景を軸にその歴史を紐解いている。
昨年発表された2022年の韓国のコンテンツ産業の輸出額は前年比6.3%増の132億4000万ドル(1兆9400億円)。さらにKコンテンツの輸出額が1億ドル増加するごとに化粧品や食品などの消費財の輸出額が1億8000万ドル増加するというから、その経済効果は計り知れない。このようなコンテンツ大国となった背景には、1997年の通貨危機とIMF(国際通貨基金)による救済という過去がある。多くの会社が倒産し、自殺者や犯罪が増えた社会で、1998年大統領に就任した近大中氏が打ち出したのが「知的情報化社会への移行」だった。
そんな時代の韓国ドラマの制作現場で何が起き、メディアや視聴者がどのように変化してきたのか、収益モデルがどのように変わってきたのかを、深く分析する本書。コンテンツ産業に限らず、さまざまな分野で発展への課題が多い昨今の日本のビジネスにおいて、ダイナミックな発想の転換をするヒントが得られるはずだ。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティングも行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。最近ピアノを習い始めた。

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