三菱とラグビーの縁は、1928年に創部された「全三菱ラグビーフットボール倶楽部」にさかのぼる。発足の中心となったのは、三菱合資会社(のちの三菱商事)に所属していた奥村竹之助をはじめとする三菱系各社のラグビー経験者たちだった。当時、単独でラグビークラブを持っていた三菱系企業はごく少数で、彼らは会社の枠をこえて“全三菱”として一つのクラブを結成。その活動は、日本ラグビーフットボール協会の設立からわずか2年後という早さで始まっている。
クラブは三菱本社や関係会社社員による親睦組織「三菱倶楽部」の運動部として登録され、関東ラグビーフットボール協会におけるクラブ第1号となった。7人制大会優勝、東日本社会人大会準優勝といった実績も残し、戦前から“三菱ラグビー”の存在は確かなものだった。戦後、「三菱」の名を使えない時期が続いたが、1954年の三菱商事復活合併を機に活動を再開。以降、東京海上日動・三菱重工業・三菱商事・明治安田など、現在では15社以上の企業クラブが参加するラグビーネットワークへと発展してきた。
その歴史を象徴するのが、臙脂(えんじ)×白のボーダージャージである。創部当時から受け継がれるデザインは「三菱ラガーマンの証」として語り継がれ、OBにとっても特別な色だという。
そして今、その流れの最前線に立つのが、NTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン1に所属する三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、ダイナボアーズ)である。
企業の枠をこえて始まった三菱ラグビーは、いまや「三菱の精神を背負って戦うチーム」としてリーグワンの舞台に立ち続けている。
100年続く三菱ラグビーの現在地──ゼネラルマネージャー石井晃氏が語るダイナボアーズの使命
三菱重工相模原ダイナボアーズ ゼネラルマネージャー 石井晃氏
「私がダイナボアーズでプレーしていた頃は、まだ“小さなクラブ”でした。そこからトップリーグ、そしてリーグワンへと進む過程を見てきましたが、チームづくりの軸だけは変わっていません。社員が自分たちを重ねられるチームであることです」。
そう語るのは、チームの強化と運営を統括するゼネラルマネージャー(GM)・石井 晃(いしい・あきら)氏だ。1992〜2002年には自ら選手としてグラウンドに立ち、その後はコーチ、調達、製造部門の社員、チームディレクターを経て現在のポジションへ。“選手・指導者・企業人”という三つの視点をあわせ持つGMである。
石井氏の言葉の背景にあるのは、岩崎小彌太が唱え三菱グループの歴史、三菱ブランドを支えてきた「三綱領」だ。
三綱領がダイナボアーズに関わる選手やスタッフに伝わり、その教えが血となり肉となり、屋台骨となってチームを支えている。
「ラグビーでも同じで、“勝てばいい”だけでは文化にはなりません。三綱領をグラウンドで体現する――これが三菱のクラブとしての姿だと思っています」。
クラブが大切にしてきたもうひとつの軸が「地域に根ざすこと」だ。本拠地である神奈川県相模原市では、学校訪問やタグラグビー教室、市民イベントなどを継続して実施してきた。また、相模原市のみならず、長崎県、京都府でホストゲームを行う。その理由についても、石井氏はこう語る。
「長崎も京都も、三菱の歴史とゆかりが深く、ラグビー文化も根付いた土地です。試合を“持っていく”ことで、価値を還元できる。ホームは相模原、広がりは全国の三菱コミュニティへ。それがダイナボアーズのクラブ像です」。
最後に、社員へのメッセージを問うと表情が一段強くなる。
「ダイナボアーズは“応援されるチーム”ではなく、“応援とともに戦うチーム”をめざしています。スタジアムで声が重なると、選手は本当に変わります。三菱ラグビーの歴史は、社員や家族、スタッフとともに続いてきました。次の一歩は、あなたの応援から生まれます。ぜひ現地で、ダイナボアーズを体感してください」。
「三菱らしいラグビー」をどう体現するか──ヘッドコーチ・グレン・ディレーニーが語るチームづくり
「まず三菱を学ぶことから、このクラブでの仕事は始まりました」。
そう語るのは、ニュージーランド南島・ティマルー出身のグレン・ディレーニーヘッドコーチ(HC)。現役時代、日本の企業ラグビーチームで“社員選手”としてプレーした経験があり、スポーツとビジネスが共存する日本独自の文化をよく知る人物だ。2021年にダイナボアーズのアシスタントコーチとして来日し、翌2022年夏にヘッドコーチへ就任。「外国人指導者」ではなく、“三菱の精神をラグビーで表現する監督”としてチームを率いている。
なんとディレーニー氏自身、選手だった1992年トーヨコ時代にGMの石井氏と試合をした経験があるというのが驚きだ。
就任後にまず取り組んだのは、“三菱を行動で理解する仕組みづくり”だった。
チームでは、三菱の歴史を築いた 岩崎彌太郎・彌之助・久彌・小彌太の名を冠した4つの“ミニチーム”に分かれて活動。選手たちはそこで「どう戦うか」「どうふるまうか」を言語化し、日々の行動と照らし合わせながらすり合わせていく。
「重要なのは“誰が良いか悪いか”ではなく、価値観を共有できているかです。判断スピードも規律も、共通する基準があるかどうかで変わる。ラグビーは“判断のスポーツ”だからこそ、迷いをなくす文化づくりが必要なんです」。
もうひとつの柱は ハードワークの再定義 だ。
「ハードワークとは、“量”ではなく“理由”です。必要な練習に絞り、精度で勝つ。無駄を減らし、再現性を高める。これは三菱のものづくりに通じる考え方でもあります」。
週ごとの対戦相手に合わせ、練習内容を最適化。“その日やる意味があることだけを徹底する”という方針により、ミスの数は減り、プレーの精密さが増してきた。
クラブとしての姿勢にも、三菱らしさが現れている。本拠地は相模原だが、長崎と京都でホストゲームを開催する理由について、ディレーニーHCはこう語る。
「長崎でも京都でも、学校訪問やラグビー教室等の活動を行いました。そこで感じたのは、“三菱のクラブとして迎えられている”という空気です。長崎ではグラバー邸を訪ね、三菱の起点に触れ、キリンや明治安田といった各社の歴史も学び直しました。どちらも三菱との結びつきが深く、“帰ってこられる土地”なんだと実感しました」。
最後に、社員へのメッセージを聞くと迷いなく言葉が返ってきた。
「チームも社員も“チーム三菱”です。役割は違っても、目指すものは同じ。相模原でも、長崎でも、京都でも、あなたの声がチームを動かします。Move the world forward。ともに前へ。」
限界を超える瞬間は“緑の声”とともに──鶴谷昌隆選手が語る “ひとりでは勝てない”のリアル
ダイナボアーズのラグビーにあるのは、華やかさよりも“つなぐ力”だ。ひとりの突破や華麗なトライの裏では、必ず誰かが体を張り、仲間のためにスペースをつくっている。そうした“支える役割”を担い、選手を代表してチームの今を語るのが、前バイスキャプテンの鶴谷昌隆(つるや・まさたか)選手だ。
「ラグビーは“自分を犠牲にして仲間を生かすスポーツ”だと思っています。タックルして、起き上がって、また走る。その連続の先にトライがある。だからこそ大事なのは、“個”より“方向性”。全員が同じ方向を向いているかどうかなんです」。
その“方向”をそろえるため、チームでは“コンパス”という言葉を共有している。結果はコントロールできなくても、準備や覚悟はそろえられる。勝ち負けに振り回されず、揺れない基準を持つことが今のダイナボアーズの土台になっている。
そして今シーズンの注目してほしい選手を3人挙げてもらった。
まずエビネリ(・ウルイヴァイティ)。日本代表としての経験とパワーを持ちながら、状況判断も的確で、ボールを持つと必ず何かが起きる存在だという。次にチャーリー・ローレンス。もともとハードに行ける選手で、コンタクトの強さに加えキックやパスの精度も高く、バックスの軸としてチームを牽引する。
そして佐川 奨茉(さがわ・しょうま)。もとは鶴谷選手と同じ“フランカー/ナンバーエイト”のポジションだったが、昨年、自身で「フッカーに挑戦する」と決め、体重を105kgまで増やすなど驚異的な努力を重ね、短期間で日本代表にまで到達した。「想像しきれないほどの努力があったと思います」と鶴谷は語る。
「スタンドの声で、選手は自分の限界を越えることができます。 応援は“背中を押す力”ではなく、“前へ引っ張る力”。相模原でも、どこの土地であっても、声が届く場所で、一緒に戦ってください」。
緑の声が響いたとき、チームはもう一歩、確実に前へ進む。
三菱重工相模原ダイナボアーズの選手のいろいろな「すごい」をまとめてみた!
一番体重の重い選手:ピーター・ショルツ(137kg)
一番背の高い選手:ウォルト・スティーンカンプ(203cm)
一番足の早い選手:マット・ヴァエガ(50m走行秒数=6.7秒)
【三菱重工相模原ダイナボアーズ ホストゲーム日程】
12月21日(日)のホストゲーム開幕戦にご来場の皆さま先着6,000名にダイナボアーズと相模原市出身の人気ロックバンドAlexandros(アレキサンドロス)※とのコラボアメフトシャツをプレゼントします! 相模原ギオンスタジアムへGO !
※代表曲「ワタリドリ」は、小田急線相模大野駅の列車接近メロディとしても流れています。
三菱重工相模原ダイナボアーズWEBサイト
https://www.mhi.com/jp/company/sports/dynaboars/
三菱重工相模原ダイナボアーズ Instagram
https://www.instagram.com/dynaboars/
JAPAN RUGBY LEAGE ONE (日程など)
https://league-one.jp/
日本ラグビー協会
https://www.rugby-japan.jp/
全三菱ラグビーフットボール倶楽部
http://all-mitsubishi-rugby.com/
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