特集

2026.08.27

特集

エンゲージメントを高める!
三菱グループ6社が取り組むワークスタイルを紹介

自律的なキャリア形成と柔軟な働き方の実現に向けて、日本企業のワークスタイルは今、大きな転換期を迎えている。ワークスタイルの変遷と最新のトレンド、そして各社の具体的な取り組みについて、三菱総合研究所 組織・人材戦略本部の大橋 麻奈さんの解説とともに紹介する。

コロナ禍で激変、ワークスタイルの変遷

日本企業の『働き方』はこの10年余りで劇的な変化を遂げてきた。かつて「働き方改革」といえば、残業削減と休暇取得等の「ワーク・ライフ・バランス」に焦点が当てられていたが、2020年の新型コロナウイルスの流行を境に状況は一変。三菱総合研究所の大橋さんは次のように述べる。

「それまでも『テレワーク』は働き方改革を実現するための手段のひとつとして位置づけられていましたが、コロナ禍で多くの企業がリモートワークを導入しました。それにより働き方の議論も『出社かリモートワークか』という点に変わっていきました。状況が落ち着くと、今度は『出社に戻るのか』『リモートワークと組み合わせたハイブリッドか』といった点が大きな問題に。この問題は企業の価値観だけでなく、労働者側がどのような働き方をしたいかという意向にも関わり、今はその変革期にあるといえます」(大橋さん)

近年のトレンドは「リスキリング」と「キャリア自律」

働く場所や時間の議論に加え、現在は「どのようにキャリアを形成するか」というキャリア形成のあり方が問われる時代へと移行している。大橋さんは近年のトレンドについて次のように解説する。

「2022年頃から『リスキリング』や『キャリア自律』といった言葉が注目されています。これまでは企業が主導して従業員のキャリアを形成していく側面が強かったのですが、労働者側が自らのキャリアをどうデザインするか主体的に考える形へと変わってきています。実際、社員にキャリアをじっくり考えてもらう機会を提供する企業が増えています。たとえば入社年次や昇格にあわせて設計していた会社主導の研修比率を下げ、かわりに外部の学習サービスなどから社員が学びたいものを選べる仕組みを導入する事例が出てきています」(大橋さん)

また、この「学び」の変革の背景には、日本全体の生産性向上や成長産業への人材移動という要請も存在している。

「リスキリングという言葉が使われる場合には『今保有しているスキルをアップデートする』というよりも、『新たなスキルを獲得する』ことが期待されています。社会の変化に合わせて業務やサービス内容が変化していくなかで、新しいスキルを身につけて人材需要が旺盛な成長産業へ移動していくことが、政策的にも推し進められているのです」(大橋さん)

こうした状況をふまえ、三菱グループ6社のワークスタイルを見てみよう。

【各社の取り組み1】
キリンホールディングス「ノーミーティングDay」と「リフレッシュアフタヌーン」

キリンホールディングスでは、ヘルスサイエンス経営企画部、キリンサプリメント事業部、ヘルスサイエンス研究所の3組織において、イノベーション創出を目的とした二つの施策を導入している。

一つは、2025年から開始した毎週金曜日を原則会議禁止とする「ノーミーティングDay」。これは業務の効率化と生産性向上を目的としている。もう一つは、2024年から開始した「リフレッシュアフタヌーン」。こちらは隔週金曜の午後に日常業務から離れ、新たな価値創造に資する活動にあてるというもの。ヘルスサイエンス経営企画部 企画グループの辻󠄀 翔馬さんは、この取り組みの意義を次のように語る。

「この施策は、日々の業務に追われがちな社員が意図的な『余白』を生み出し、将来への種まきにリソースを振り向けることを狙いとしています。運用のあり方については細かなルールを設けず、短期的な成果も求めていません。一人ひとりが『自分はお客様や社会に対してどのような価値を生み出したいのか』『将来に向けてどのような力を磨くべきか』を主体的に考え、行動することを大切にしています。美術館で感性を磨いたり、英語を学んだり、社外の人々と交流したりと活動内容はさまざまですが、その経験が新たな発想や挑戦につながり、組織全体のイノベーション創出や成長の原動力となることを目指しています。」(辻󠄀さん)

【大橋さんのコメント】
「余白」をあえてつくることで、日々の仕事の見直しや次の仕事・キャリアを考えるきっかけになりそうです。生産性の向上に寄与するのみでなく、改めて「自分の仕事が好きだ」と気づけそうな取り組みですね。

【各社の取り組み2】
三菱HCキャピタル「スーパーフレックス制度」と「服装の自由化」

三菱HCキャピタルでは、コアタイムのない「スーパーフレックス制度」を導入している。人事部の今村 千明さんは次のように説明する。

「フレキシブルタイム(午前7時から午後10時)の範囲内で、社員が日々の始業・終業時刻を柔軟に設定できます。在宅勤務制度や時間単位休暇制度と組み合わせ、育児や介護など個々の事情や予定に合わせた働き方や、業務の繁閑に応じた調整、中抜け後の業務再開も可能です」(今村さん)

さらに、2024年からは「服装の自由化」を本格的に開始した。単なるカジュアル化に留まらず、多様性の尊重や自由闊達なコミュニケーションや柔軟な発想を生む職場環境づくりの重要なステップとなっている。

「『目上の方に対しても話しやすくなった』『会話の機会が増えた』といったポジティブな影響が出ています。さらに『スニーカーで歩いて通勤する習慣が生まれ健康的になった』という声も。今後も社員の皆さんが能力を最大限に発揮できる環境づくりのために、情報収集を行いながら、新たな制度や施策を積極的に取り入れていきたいと考えています」(今村さん)

【大橋さんからのコメント】
業務と私生活を両立しながら働ける環境があるのは素晴らしいですね。服装の自由化は職場の空気をよりオープンなものにし、社内外でコミュニケーションのきっかけにもなりそうです。

【各社の取り組み3】
三菱ガス化学「ライフサポート休暇」

三菱ガス化学は、2025年度から全従業員に毎年一律で10日まで付与される特別有給休暇制度「ライフサポート休暇」を導入した。総務人事部 人事グループの早川 大貴さんは、制度のねらいと反響を次のように語る。

「これまで社員のなかには、社員自身や家族の急な病気などいざというときに備えて年次有給休暇(年休)を温存してしまう方もおり、よりよい仕事をするためのリフレッシュの機会として年休を活用してもらうこと、年休を積極的に取得してもらうことに課題がありました。本制度は、社員自身の病気やけが、家族の看護といった緊急時のセーフティーネットとしての機能に加えて、不妊治療、人間ドック受診、さらには災害ボランティアといった会社としてサポートしたい特定の事由に利用できる休暇制度になっております」(早川さん)

半日単位でも取得できるなど柔軟な使い方が可能で、利用者からは「子どもの看病のために年休を残す必要がなくなってよかった」「病気への不安が軽減され、年休を取得しやすくなった」と好評だという。

「導入初年度は年休取得率の向上という、当初のねらいとしていた結果を確認できました。今後も従業員がより安心して働ける環境を整備していきたいと考えております。」(早川さん)

【大橋さんのコメント】
日々の生活との両立だけでなく、ボランティア活動への参加も可能となっており、社員の「しっかり働きしっかり休む」を支える仕組みとなっていますね。

【各社の取り組み4】
三菱総合研究所「コミュニケーションエリア」「地方移住制度」「兼業・副業制度」

三菱総合研究所は、ハード・ソフトの両面から、社員が最大限の成果を発揮できる環境づくりに取り組む。まず、オフィスのあり方について、総務部の庄司 昂平さんは次のように述べる。

「対面とオンラインのハイブリッドでも活発な議論を可能にし、部署を越えた偶発的な交流も生む『共創空間』をコンセプトとした『コミュニケーションエリア』を各フロアに設置しています」(庄司さん)

次に、場所にとらわれない働き方を支援する「地方移住制度」について、人事部の外山 光奈さんは次のように解説する。

「日本国内であれば居住地を問わずリモートワークを前提に働くことができ、配偶者の転勤や故郷での育児・介護といったライフイベントとキャリアの両立を支援しています。出社回数の定めはなく、必要があれば交通費は上限額の範囲内で支給しています。実際に北海道から九州まで、多様な地域で活躍する社員がいます」(外山さん)

さらに、個人の成長と自己実現を促進する「兼業・副業制度」について、人事部の宮崎 朋さんはその意義を語る。

「社外での経験を通じたスキルアップを支援しています。実際にこの制度を利用した事例は年間延べ100件ほどにのぼり、大学の非常勤講師やNPO法人へのアドバイス、ITスキルを生かしたホームページ作成、障がい者支援など多岐にわたります」(宮崎さん)

【大橋さんのコメント】
ハイブリッドワークを前提にするなかで、「オフィスは何をする場所か」を社員に知らせる効果もあります。兼業・副業制度は、多様な経験を積むことで社員本人が成長できるというキャリア自律においても意義のある取り組みです。

【各社の取り組み5】
三菱マテリアル「マテリアルの仕事・人を知る、キャリアを描く月間」

三菱マテリアルでは、中期経営戦略に掲げる「資源循環ビジネスで未来を創る企業へ」を目指すにあたり、経営戦略と連動する人事戦略を策定し、「資源循環ビジネスを支える」「現場の付加価値向上を支える」「一人ひとりの活躍を支える」を3つの柱に掲げている。その一環として、社内公募制度や1-on-1の推進、キャリア面談の充実など、社員一人ひとりが「自分らしいキャリア」を描き、主体的に成長していくためのさまざまな取り組みを進めている。その取り組みをさらに後押しする場として、2023年から毎年開催しているのが、自律的なキャリア形成を支援するイベント「マテリアルの仕事・人を知る、キャリアを描く月間(通称マテキャリ)」だ。グローバル人事部 タレントマネジメント室の細川 トマス 諒さんは、その内容について次のように語る。

「具体的なコンテンツとしては、外部有識者による講演、社内公募で異動した社員のパネルディスカッション、組織長向けの部下育成研修など多岐にわたります。さらに、1-on-1の強化月間として上司とのキャリア相談を促進、また外部キャリアコンサルタントと個別面談ができる機会も提供し、客観的に業務を棚卸しできる場を提供しています」(細川さん)

同室の久保 一也さんは「今年はより多くの方が参加しやすい形でキャリアを考える機会を提供していきたい」、宮崎 芽生さんも「自分自身の可能性や新たな選択肢に気づくきっかけをお届けしたい」と意欲的だ。

【大橋さんのコメント】
キャリア自律を支援する取り組み例ですね。普段はあまり接しない方からフィードバックを得る機会があると、それが刺激となり新たな自分の発見やキャリアを考える機会となります。

【各社の取り組み6】
明治安田「かえるリレー」

明治安田では、総合職全員を対象とした時短勤務体験「かえるリレー」を導入している。これは、育児や介護などで時間的制約を抱える社員への理解を深めるとともに、組織全体の働き方に対する意識改革を促すことを目的としている。人事部 ダイバーシティ推進室の田中 真奈美さんは次のように語る。

「具体的には、チーム単位で交代しながら連続5営業日、または計6営業日の時短勤務を擬似的に体験し、限られた時間内での業務遂行を実体験するものです。2024年度からトライアル実施をしており、昨年度は本社組織約4,500名、本年度は営業組織含む全組織と対象を拡大してきました」(田中さん)

参加者からは「業務の依頼の仕方や配分、そして引き継ぎがいかに重要であるかを再認識した」という声があり、チーム全体の体制強化へとつながっている。

「業務の属人化を排除し、チーム全体でフォローし合える体制を構築することで、制約のある社員が活躍しやすい風土を醸成すると同時に、全社員がライフを充実させながら高いパフォーマンスを発揮できる職場環境の実現を目指しています」(田中さん)

【大橋さんのコメント】
日々の仕事においては、コミュニケーションのポイントや仕事の進め方の癖等に気づけそうです。「1日8時間労働が基本」という前提を見直すことにもつながり、働き方の根源的な問いにまで及ぶ有意義な取り組みだと感じました。

ハイブリッドな環境でのチーミングやAIの存在も課題に

前出の三菱総合研究所の大橋さんは、紹介された各社の先駆的な取り組みについて、総評として次のように語る。

「近年、『ワークエンゲージメント』や『従業員エンゲージメント』という概念が注目され、仕事と個人の関係や職場と個人の関係が重視されるようになっています。社員一人一人に寄り添い、個々の成長を支援すること、そして安心して働ける環境を整えること等の施策は、エンゲージメントを高めるという文脈においてとても重要です。こうした観点からも、今回ご紹介いただいた各社さまは熱心に取り組まれていると感じました」(大橋さん)

一方で、働き方の変革はまだ道なかばであり、今後の展望と向き合うべき課題について、次の三つのポイントを挙げる。

「一つ目は、リモートワークやハイブリッドワークが前提となっていくなかでの、チームづくりやマネジメントのあり方です。画面越しやテキスト中心のコミュニケーションでは、個人の状態やチームの状況を適時に把握することに難しさがあります。こうした環境下で、現場のリーダークラスの方々がメンバーの力を引き出してまとめ、成果を出していくことの難易度は確実に高まっています。二つ目は、リスキリングやキャリア自律の実現です。すぐに意識を切り替えられない人も少なくないなか、いかにして全社員がキャリア自律を進め、リスキリングに取り組める環境を労使双方で構築していくかが課題です。そして三つ目はAIの存在です。AIによる日々の仕事や働き方の変化を感じている方も多いのではないでしょうか。その変化のなかで、それを各社がどのように自社の業務や人材育成、マネジメントに組み込んでいくかは、これから問われていくと考えています。当社でも研究に取り組み、情報を発信※1しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください」(大橋さん)
【※1取り組みや情報はこちら からご覧ください】

変化し続ける環境や技術。企業はその中心にいる「人」の成長と幸福を支え続ける姿勢が、これまで以上に求められているようだ。

INTERVIEWEE

三菱総合研究所

組織・人材戦略本部
主任研究員
大橋 麻奈
MANA OHASHI


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