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大阪・関西万博「三菱未来館」パビリオン 設計と建設の現場から

-「地上に浮かぶマザーシップ」に込められた思いとは?-

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お話を伺った三菱地所設計 三菱未来館プロジェクトチーム(左から根本氏、中村氏、荒井氏、松井氏)の皆さんと、世界初の木質3Dプリント建築物「TSUGINOTE TEA HOUSE」。三菱未来館でも展示予定。

2025年4月13日の大阪・関西万博開幕まで8ヶ月を切り、三菱グループのパビリオン「三菱未来館」は、いよいよ竣工が間近となりました。1970年の大阪万博以来、さまざまなコンセプト・デザインの「三菱未来館」が誕生してきましたが、2025年の「三菱未来館」はいったいどのような建物になるのでしょうか? 設計を担当する(株)三菱地所設計、施工を担当する竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木共同企業体の皆さんに話を伺い、設計・建設に対する思いを教えていただきました。

大阪・関西万博における三菱未来館の基本コンセプトは「いのち輝く地球を未来に繋ぐ」。これを表現するにあたって、設計施工は「生命・地球・人間のつながり」がコンセプトになりました。長方形・ひし形・楕円といった幾何学的な図形を、それぞれ人間・地球・生命に見立てたものが、パビリオン外形の基本的なかたちとなっています。

パビリオン平面外形の概念図(三菱大阪・関西万博総合委員会プレスリリースより)
7月23日に撮影された全景写真。内側の長方形の建物を、ひし形の外壁が囲み、全体を楕円が包む。それぞれが接点でつながっている姿は、大きな船のようでもある。
「今日誰かと出会うことも奇跡的な『繋がり』。それを大切にしたい」と語る松井氏(右)。

「この地球上で誰かと誰かが『接している』というのは奇跡的な『繋がり』でもあります。同じことは世界と地球にも言えるのではないかと思うんです。だからこのパビリオンでは、図形同士が接していることで、生命と人間、人間と地球、地球と生命が互いに接点を持って支えあい、繋がっていることを表現しています」(代表設計者 松井章一郎氏/(株)三菱地所設計)

また、今回の三菱未来館の構想は「未知なる深海から遥かなる宇宙へ、いのちを巡る壮大な旅」というもの。来場者に「深海から宇宙への旅」を体感してもらうため、まずは地下空間へ降り、そこから階段を上ってパビリオンに「乗り込む」という動線が用意されています。建物の真下に地下の空洞を設けることで、まるでパビリオン全体が地上に浮かぶ船のようにも見える、非常に特徴的な設計となりました。

「万博のパビリオンは半年後には解体する建物です。そこで建てる時も壊す際も、できるだけ地球に対する負荷を下げるために、接地面を多く必要とするベタ基礎ではなく杭基礎として地面と接する部分を最低限にし、地下空間を作るために掘った土はパビリオンの周りに盛って解体時には戻して大地を地球にお還しする。そんな考え方で作っています」(荒井拓州氏/(株)三菱地所設計)

三菱地所設計では「ショートサーキュラー」と呼ぶ、小さな範囲での循環型社会という考えに取り組んでおり、今回の三菱未来館もその考えのもと、解体までを見据えたトータルデザインにこだわっています。これに基づき、三菱未来館はあえて「作りこみすぎない」パビリオンとしました。その結果、通常は外壁には用いない、半透明のポリカーボネート材と銀色の鋼製足場板が建物を包んでいるような、きわめて個性的な外観が誕生しました。

「単管パイプや足場板などの仮設材や、作業現場で使う扇風機などを今回はそのまま資材・設備として使用します。通常、これらの道具は現場から現場へと回されていくものなので、大阪・関西万博が終わったら、これらも次の現場でまた使えるのではないかという考え方です」(根本大祐氏/(株)三菱地所設計)

「土に還る自然素材を取り入れていくというのはサステナブルなトレンドではありますが、自然素材はわりと高価で、そのぶん経済負荷がかかるという面があります。そのため今回は安価な工業製品をたくさん活用するという形でサステナブルを実現していて、これは今後のサーキュラー建築を考える新たな可能性を示せているのではないかと思います」(中村教祐氏/(株)三菱地所設計)

外構には木柱が透けるポリカーボネート(写真右側)と硬質な足場材(左側)という対照的な素材が使われている。いずれも通常は仮設や作業現場で使用されるものだが、ここではひときわ目を引く外壁に変身。
来館者がメインショーへの入場を待つスペースも、建設素材がそのまま使用された空間。華美さは控えめなのにどこか近未来的。
建設の現場にて、左から山下氏・甲斐氏(竹中工務店)、大島氏(三菱地所設計)。西日本三菱自動車販売提供の「ミャクミャク号」といっしょに。

こうしたコンセプト、思いを乗せて、大阪・夢洲の現場では、2023年7月にこの「地上に浮かぶパビリオン」の建設が始まりました。

今回の三菱未来館は、前述のとおり楕円・ひし型・長方形が重なったデザインですが、建物本体だけでなく、外装も浮遊しているという特徴があります。建物の基本となる水平・直角が非常に少なく、施工図での合意形成が非常に難しいデザインです。

支持柱も少ないため、躯体の構築は仮設を多用しながら、鉄骨を建ててコンクリートを打ち、それが終わってから次の鉄骨を建てては打ち……という構造形式。さらにその一部は、柱断面よりも大きい鉄骨垂直ブレース(筋交い)や構造用ケーブルにより、上部から吊られたような状態で架構が成立するといった複雑なもの。難易度の高い施工が多く、構築計画の作りこみが精度確保の鍵でした。

「こういった施工面の課題から、当プロジェクトでは早期にBIM*1を取り入れ、建物の主要となる工種、17モデルと工事の進捗毎に合わせ計画された仮設ステップモデルをSOLIBRI*2によって重ね合わせています。これにより構築計画を施工図に反映して一体化させ、施工性も兼ねそなえた施工図の作りこみを実践しました。これらの取り組みにより、当初予定の全体工期15.5ヶ月を1ヶ月短縮することができ、予定より早い2024年9月末にお引渡しを行います」(甲斐隆範氏/竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木共同企業体)

「例えば建物先端の地上から浮いている部分は、跳ね出しのスラブを構造用ワイヤーで吊り上げる構造方式を用いていて、これは建築というより橋、土木工事のような考え方です。そうした点からも普通の建物ではないな、こんな建物見たことないな、という印象を受けると思います。特にお子さんには、そういったところで建築に興味を持ってもらったり、2025年の三菱未来館ってこんな建物だったなという記憶に残ったら嬉しいですね」(大島隼氏/(株)三菱地所設計)

来館者が最後に通る、先端部の内側。格子型の木材を組み合わせて左右のポリカーボネート製の外壁を支えている。工業製品が多く目を引く三菱未来館の中で、ここは木が多用されたやわらぎの空間。ほっと一息ついてパビリオンの展示を振り返ったり、次はどこへ行こうと相談したりするのにぴったり。



「仮設建造物でありながらダイナミックな躯体というのは、今回の三菱未来館の見どころの一つです。来館者以外も自由に出入りできるスペースがあったり、多くの人のことを考えた建物になっていて、三菱グループの『思い』がとてもよく出ていると思います。パビリオン内のコンテンツはもちろんですが、建物自体の楽しさ、珍しさと建築の魅力が詰まっているあたりもぜひ楽しんでほしいです」(山下和真氏/(株)竹中工務店)

多くの人のことを考えたおもてなしの精神も、今回の三菱未来館が大切にしてる設計思想のひとつです。大阪・関西万博の開催期間(4月~10月)は、近年の気候からするとそのほとんどが暑い時期にあたると予想されます。

「暑い中を並んで待ってもらうのは大変なことです。日陰で気温も下がる地下空間を設けたのには、展示を見るまでの間も気分よく待ってもらえたらという思いがあります。突然の雨や雷からもこの空間なら避難できますし、もちろん、来館者以外の方にも避難場所として使っていただけます。屋根の下に集まって暑さや雨風をしのぎ、コミュニケーションを広げるというのは、『建物』の根源的な姿かもしれないですね」(松井氏)

「三菱未来館の設計には三菱グループの思いが強く表れていると思います」と話す竹中工務店の山下氏(右)。
三菱未来館の大きな特徴のひとつである地下空間。ゲリラ豪雨などがあっても、地下に流れ込まないよう水はけに工夫がなされている。堀った土は、会期終了後、再び地面に戻される。
「マザーシップ」の竣工まであと少し。どんな壮大な旅が待っているのか、期待が高まる。

船を想起させる外観を持つ今回の三菱未来館のイメージは「地上に浮かぶマザーシップ」。シルバーカラーの工業製品が多用された内外装は近未来のSFのようでもあり、地上から浮かんでいるような建物構造はまるでファンタジーの世界にいるように不思議な印象を受けます。

「パビリオンの制作・運営には多くの人が関わっていて、皆で作り上げるものです。皆が同じ方向に向かって同じ意識をもって進んでいく、その象徴としてこの建物があって、それに皆が乗り込んで旅に出る。だから三菱未来館は『マザーシップ』なんです」(荒井氏)

マザーシップに乗り込み、深海から宇宙への旅に出るまであと少し。建物の竣工まで、工事はラストスパートで進んでいます。


*1 BIM=詳細な情報を持たせたパーツで構成する立体モデル。図面にない情報なども盛り込むことができる。
*2 SOLIBRI=従来、人の手で行っていた検図をBIMモデルにより自動で行うシステム。

三菱グループは大阪・関西万博のパビリオンパートナーです。
(©Expo 2025)

※2024年8月23日掲載。本記事に記載の情報は掲載当時のものです。