ライフスタイル企画

2024.03.14

健康寿命から“幸福寿命”へ
健康診断を上手に活用する方法

病気の予防と早期発見のために行われる健康診断。
国民健康保険の被保険者(40~74歳まで)であれば、自治体で行われる「特定健康診査」や「5つのがん検診」が受けられます。
何のために受けるのか。その結果をどう生かすべきか。この機会に考えてみませんか。

特定健診とがん検診
要検査を無視すべからず

東京都医師会の理事で、鳥居内科クリニック(世田谷区)院長の鳥居 明さんに伺います。

鳥居 明先生(鳥居内科クリニック提供)

―改めて。どんな検査があるのですか。


一般的な自治体が行う検診は、「特定健診(特定健康診査)」「5つのがん検診」があります。
「特定健診」は、メタボリックシンドロームの発症に関連する検査を特定して、項目を選んでいます。国が項目を特定し、実施するのは市区町村です。
「5つのがん検診」とは、5がんと呼ばれる「胃がん」「子宮がん」「肺がん」「乳がん」「大腸がん」の検診です。死亡率減少効果のある検査を選んでいます。

一方、企業が行う検診は企業によってさまざまです。「特定健診」に加えていろいろと追加項目(オプション)をつけているところもあるでしょう。

(イラスト 全国健康保険協会HPより)

―健診は受ければ受けるほどよいというのは、本当ですか?


国の方針は、「たくさん検査をやればよいというよりも、効果があるものを特定すれば有用な検査」という見方です。そうやって絞られ、現在実施されている「特定健診」「5つのがん検診」がある。最低限これらは、指定の期間内に受けてください。
それ以上の検診を、必要以上に神経質になって受けることはすすめられません。
費用も時間もかかりますし、多く検査をすればするほど、「自分が病気かもしれない」と思うリスクも増えます。「自分はがんかもしれない」とずっと背負って生活することになります。例えば、前立腺がんの検査では、実際に前立腺がんではなくても、前立腺肥大症でも陽性反応が出ることもあります。国は死亡率減少効果のある検査を選んで、対策型健診として取り入れています。
つまり、国が定めた「特定健診」「がん検診」をしっかり受けておき、そこでひっかかった場合、すぐに再検査するなり、対応を取る方がより効果的といえます。


―一方で、注意すべき点は。


前に少し触れましたが、「特定健診」「がん検診」で要再検査となった場合はすみやかに検査をするべく、医療機関を訪れることです。
大腸がんのスクリーニング検査としても行われる「便潜血」検査ですが、「二日法」という、二日分の検査を行うものが一般的です。これは1回でも潜血反応が出たら、精密検査を行ってほしいです。「1回だから、たまたまだし」と思って、そのままにしてしまってはいけません。
便の潜血反応があれば、大腸の内視鏡検査を行います。そしてそこにポリープがあったら、早めにとる。そうすれば、線種という良性の腫瘍の状態で終わり、がんにまでいきません。 一部にがんがあったとしても、早期であれば内視鏡で取り切ることができます。

こうやって、国が特定した検診は、理論的にちゃんと死亡率が減少するために有効であるものとなっているのです。ですから、ここで出た異常値をそのままにしたら、危険なのです。残念ながら、せっかく検診を受けたのに、そのまま放置をして、その結果悪化してしまった人が多くいます。

―もう少し、大腸の検査についておしえてください。大腸がん対策としてはどういう検診をどのような頻度で受けていればよいでしょうか。


毎年1回、大腸の潜血反応検査を2回法で行いましょう。そこで陽性反応が1回でも出たら、大腸の内視鏡検査に進みます。便潜血反応検査が2回とも陰性であれば、持続的な出血病変はないと考えられます。高齢者であれば、検査に伴うリスクも高くなりますから、まずは便潜血反応検査を受けることをおすすめします。
ただ、もし過去に大腸ポリープができたことがあれば、毎年内視鏡検査を受けた方が良いと思います。全部のポリープをとりきった方でしたら、2~3年後の検査でもよいといわれています。


―胃がん対策としてはどうでしょうか。


胃がんの内視鏡検診は、2年に1回でよいとされています。バリウムは1年に1回ですね。バリウム検査を受け、異常が指摘されたならば、次は内視鏡検診という流れです。そしてさらに組織検査となります。今は最初から内視鏡検査を受けることもできます。「鳥居内科クリニック」では鼻からカメラを挿入する「経鼻内視鏡」で行っています。鼻からの内視鏡は嘔吐反射が少なく、かなり楽にできます。


―気になるのは膵臓です。


本当にその通りです。有効な膵臓がん対策があれば、教えてほしい。今、それが一番困っています。非常に健康意識が高い、著名な方が膵臓がんで亡くなられていますよね。おそらくがん検診、人間ドックを日頃から受けていらっしゃっていたような方です。それなのに、膵臓がんで命を落とされる。見つかったときはすでにステージ2~3になっていたのでしょう。
ステージ1で見つけられなかったら、十分な治療ができないといわれています。これはつまり、一般の検診では、命を救う効果がなかった、ステージ1で見つけることができなかったということになります。人間ドックなどで利用されている血中の腫瘍マーカー(CA19-9)は膵臓がん以外の病気でも上昇することがあります。血液検査の腫瘍マーカーは万能とは言えません。
本来はその前にエコー検査、CT検査あるいはMRIなどの画像検査で見つけたいところですが、ステージ1で見つけることはかなり難しいといわれています。

膵臓がん家系の人、たばこを吸っている人、何回も血清アミラーゼの数値が上がったり、膵炎を起こしたりした人、糖尿病が急激に悪化した人など膵臓がんのリスクファクターを持っている方は定期的に画像検査を受けることをおすすめします。

診察中の鳥居 明先生(鳥居内科クリニック診察室にて:HPより)

ここから先は、『膵臓がんの何が怖いのか~早期発見から診断、最新治療まで~』著書である東京女子医科大学消化器病センター外科教授の本田 五郎さんに伺います。

8割が進行した状態で発見
膵臓がんの怖ろしさ

本田 五郎先生(本人提供)

―『膵臓がんの何が怖いのか 早期発見から診断、最新治療まで』を読んで、いかに膵臓がんを早期に見つけることが難しいのか、分かりました。


膵臓がんの約8割はかなり進行した形で発見されます。
膵臓がんには0から4のステージがあります。局所進行のステージ2であれば、なんとか手術の検討対象になりますが、大部分がステージ3の「転移はなくとも周囲への浸潤のために手術で切除できないケース」あるいは、ステージ4の「転移があっても手術の検討ができないケース」で占められています。つまり、膵臓がんが見つかったとき、手術の検討対象となる人は、全体の2~3割程度というのが現状。
また、手術ができても再発するケースは少なくありません。ステージ1や2と診断されても検査画像に移らないレベルの小さながん細胞がからだのなかのどこかに潜んでいる可能性がとても高い。それが膵臓がんの恐ろしさ、なんです。


―でもステージ0だと命が救える可能性が高い。


ステージ0の段階であれば、まず転移することがないからです。「上皮内がん」と呼ばれる状態で、がん細胞がその膵管上皮内にとどまっている超早期段階だからです。胃がんや大腸がんでいうところの「粘膜内がん」とほぼ同じ段階です。
しかし、膵臓がんは、この段階で見つけるのがとても難しいのが現状です。


―自覚症状で気づけないものでしょうか。


まず無理です。だから、やっぱり健診を受けていただく必要があります。
健診の超音波検査検診で、膵臓に小さな嚢胞を指摘されたら、精密検査を受けてほしい。
健診項目で「血清アミラーゼ」の数値が高いという指摘があった方も精密検査を受けた方がいい。糖尿病を発症している方は、定期的に膵臓がんの検診(膵臓ドックなど)を受けることをおすすめします。
あとは、家族で膵臓の病気になった方がいらっしゃれば、40歳を過ぎたら一度は膵臓ドックとか、膵臓がん検診を受けた方がいいでしょう。


―先生はご著書のなかで正常な細胞ががんに変っていくステージが0~4に上がっていく様子を、「ちょい悪」から「本物の不良」、そして「チンピラ」「やくざ」に例えて説明されています。そしてステージ0膵臓がんの治療の難しさを、「ちょい悪」対策としてとても分かりやすく説明されています。


がんに変わり始めた細胞を、あまりにも早い段階で「怪しい」と見つけたとしても、見かけだけのちょい悪(寝ぐせをリーゼント頭と間違えられたようなケース)も混じっていますし、ちょい悪だって、いつまでも「ちょい悪」のままでいて、なかなか本物の不良にならないこともあります。一方で、急にどんどん悪くなるのもいる。そのため、早い段階で手術をするかどうかを決めるとき、ある程度「賭け」の要素が含まれてしまいます。
詳しく知りたい方は、ぜひ私の著書をお読みください。

「膵臓がんの何が怖いのか~早期発見から診断、最新治療まで」(幻冬舎新書)

二人の先生にうかがいましたが、最後に総括を。
私達の体内で日々入れ替わる細胞。
がん細胞や、「ちょい悪」細胞が生まれても、うまく退治できればいい。健診を上手に活用して、穏やかに日々過ごせたらいい。鳥居先生の言葉を最後に紹介します。

「『健康寿命』から、これからは『幸福寿命』の延伸を考えていくべきだと思います。いろんな人とつながり、笑顔でおいしいものを食べたり、会話を楽しんだりしながら過ごす方が、幸せだと思います。私は、皆さんには健診を上手に利用して、病気と上手に付き合い、幸せな人生を送っていただきたいと思います」

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