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2024.03.28

映画・ドラマ・動画配信・・・ビジネスパーソンにおすすめBEST3

「食」がテーマの映画&ドラマ
若手・中堅・ベテラン社員別おすすめ3選

困難に直面しているときこそ、力をもらえる物語があります。どんな状況でも夢を諦めなかったパティシエの実話はきっと若手社員の皆さんに希望をもたらしてくれるはず。どん底レストランをチームで立て直していく話題作は中堅社員の皆さんの士気を高め、食にまつわる人情ほっこりストーリーはベテラン社員の皆さんを癒してくれそうです。ビターな絶品お仕事物語3作品をご紹介します。

【若手社員にオススメ】おいしい感動の実話『パリ・ブレスト〜夢をかなえたスイーツ』

生きる喜びをお菓子づくりに見出し、最年少でパティシエの世界チャンピオンにまで上り詰めた、ある少年の人生物語。それが映画『パリ・ブレスト〜夢をかなえたスイーツ』です。

フランスに住む主人公のヤジッドは孤独な少年時代を過ごしました。育児放棄の母親の下、ヤジッド少年にとって唯一の楽しみは、里親の家で団欒しながら食べる手作りのスイーツでした。心まで甘くしてくれるお菓子は、複雑な想いを抱える彼にとって特別なものに。いつしかパティシエになることを夢みるようになっていくのです。

夢みるだけではなく、今できることを見極め、行動できることがヤジッド少年の強さなのかもしれません。やがて、児童養護施設で暮らしはじめ、青年になったヤジッドは敷居の高いパリの高級レストランに見習いとして雇ってもらうチャンスをつかみとります。毎日180キロ離れた田舎町からパリへ長距離通勤してまでプロの現場で必死にお菓子づくりを学び、情熱の火を灯し続けます。

でも、波乱万丈な道のりも続きます。突然仕事を失うことになったり、ショコラティエ・コンテストの当日に出品作品を台なしにしてしまったり、パティシエ世界チャンピオンへの道は簡単に進んではいきません。失意に暮れたある日、ヤジッドが施設の用務員からもらう言葉はこの物語のメッセージともいえるもの。

「人生は長い。目標だけは見失うなよ。失敗は負けじゃない。成長の機会だと思え。壁に当たっても立ち直ればいい」

この言葉の通り諦めなかったヤジッドは、パティスリー世界選手権のコンテストでフランス代表チームの一員となって、彼の実力と経験のすべてを出し切る姿は最後の最後まで感動を誘います。

これは実話であるということにも驚かされます。2014年の当時、22歳だったヤジッド・イシュムラエンはパティスリーの世界選手権のチャンピオンに輝き、その後まとめられた自伝書『Un rêve d'enfant étoilé: Comment la pâtisserie lui a sauvé la vie et l'aéduqué』(星の少年の夢:菓子作りが彼を救った理由)を元に今回、映画化されています。現在、世界各地の最高級ホテルのコンサルタントや高級ブランドとのコラボレーションを実現し、南仏アヴィニョンやパリに自身の店舗を持つ人気パティシエの1人です。

主人公を演じた役者のリアド・ベライシュは、TikTokで6,600万人のフォロワーを持つ映像クリエイターでもあります。ヤジッドから直々にパティスリーの創作を伝授してもらいながら役づくりに励んだそうです。タイトルにある『パリ・ブレスト』をはじめ、デザートが登場するシーンはすべてヤジッド監修というおいしさあふれる映像も続きます。甘さのなかに人生の指南書が詰まっている作品として味わいたいものです。

『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』
監督:セバスチャン・テュラール
脚本セドリック・イド
出演:リアド・ベライシュほか。
2023年/フランス/フランス語/110分/5.1ch/カラー/
配給:ハーク、配給協力:FLICKK 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、日本スイーツ協会
(C)DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinéma
公式HP:hark3.com/parisbrest SNS:@parisbrest_
3/29(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

【中堅社員にオススメ】どん底からの立て直し『一流シェフのファミリーレストラン』

続いて紹介する作品は、海外ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』です。舞台はイリノイ州シカゴのダウンタウンに位置するレストラン。イタリアンビーフのサンドウィッチを売りに地元で愛され続けてきた店ながら、とある事情から経営状態は崖っぷちに立たされています。

主人公のカーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)にとってそこは実家でもあります。一流店シェフのキャリアから一転、混沌とした厨房を立て直していく話が描かれていきます。過酷なレストランビジネスの裏側に迫り、どのエピソードも食欲をそそられるグルメ系ドラマとしての面白さも確保しながら、実は窮屈な厨房であきれるほど本気で仲間達がぶつかり合うシーンにこそ味がある作品なのです。

カーミーをはじめ、ともに働く喧嘩早いリッチー(エボン・モス=バクラック)や新入りながらしっかり者のシドニー(アイオウ・エディバリー)ら多様な個性と価値観、バックグラウンドを持つ登場人物達ひとりひとりの不器用ながら人間味たっぷりの姿にきっと魅せられるはず。

騒々しさにあふれ、仲間同士が理解し合うまでのプロセスは荒々しく、けっしてスマートなものとはいえませんが、人のやさしさに触れることができるのもこの作品の醍醐味です。

それぞれの憤りに喪失感や不安、ストレスなどの背景があるところまでしっかり落とし込み、そのうえで互いを否定しない世界観がつくられているからです。さらに、ほんの少しのユーモアがあれば、少しずつ前を向いて歩いていけることもさりげなく教えてくれます。

今年1月に発表された米テレビ界のアカデミー賞といわれる第75回エミー賞では、対象となったシーズン1が10部門で受賞を果たすほど、その実力は折り紙付きです。しかも、シーズン2も期待を裏切らず、深みのある人間ドラマを追求しています。人と関りながら、働き、奮闘する展開は、厨房に掲げられた「Every Second Counts(一秒たりとも無駄にしない)」という標語そのものです。人生哲学が込められています。

『一流シェフのファミリーレストラン』
ディズニープラスのスターで独占配信中
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【ベテラン社員にオススメ】人情ドラマが詰まった絶品『深夜食堂』

「一日が終わり、人々が家路へと急ぐ頃、俺の一日は始まる。営業時間は夜12時から朝7時ごろまで。人は“深夜食堂”って言ってるよ」

繁華街の路地裏にたたずむ食堂「めしや」を舞台に、おなじみのフレーズで始まるこのドラマは『深夜食堂』。小学館『ビッグコミックオリジナル』で連載中の安倍夜郎作の同名タイトルの漫画を原作に、ドラマ版も長年にわたり愛され続けている作品です。

小林 薫が演じるマスターのもとに性別も、年齢も、境遇も異なる客が店を訪れては、カウンターで小さな幸せをしっかり見つめた人情ドラマが生まれます。「めしや」のメニューは豚汁定食と、ビール、酒、焼酎のみですが、マスターが作れるものなら何でも作ってもらえる「食」も見どころに。ドラマのキャッチフレーズ通り小腹も心も満たしてくれるのです。

小林 薫を筆頭に不破 万作、綾田 俊樹、松重 豊、安藤 玉恵、余 貴美子、オダギリジョーといった実力派のキャストをそろえ、毎度エピソードの主役を飾るゲストもバイプレーヤー的存在の役者陣がおもに登場します。

たとえば、『深夜食堂:Tokyo Stories』の『チキンライス』の回は「赤井」という名の人物を仲村 トオルが演じています。これは、何十年も生き別れた親子が「めしや」で再会する話。

赤井はゲームクリエイターとして成功し、派手な赤い服にこだわる男性です。順風満帆な人生にも見えますが、「子供ころ誕生日とか特別な日にはこれがごちそうだった」と言いながら食べるチキンライスには苦く悲しい思い出が詰まっているのです。 食べ残すグリーンピースから、赤い服の意味、柄本 明が演じる常連客の「狂おしい矛盾だねえ」という一言に至るまで、すべてのエッセンスが最後にほっこり紐解かれていきます。

忙しい毎日のなかで人生を一度見つめ直したくなったとき、「めしや」の暖簾をくぐるような感覚で再生したくなる作品です。人生経験を重ねた分だけ、見返すたびに味わい深さも増すでしょう。

Netflixシリーズ独占配信中

ライタープロフィール

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文/長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
1975年生まれ。コラムニスト、ジャーナリスト。東洋経済、朝日新聞などで作品レビュー多数執筆。得意分野はコンテンツビジネス国際展開事情。著書に「NETFLIX戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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